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43話 いたたまれないこはくと、追うアキナ
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「すげええ! ホントに浮いてる!」
「生で見れて感動♪」
2階層に移動後、アキナは参加したファンの子達と一緒にバーベキューを楽しんでいた。
今はリクエストに応えて、先日のLIVE配信で使った宙に浮く魔法を参加者たちに見せている所だ。
だが、心の中はファンやオフ会の運営より、こはくの事でいっぱいだった。
「……」
自分の周辺で歓声を上げているファン達の後ろには、バーベキューを食べているファン達がいる。
こはくは、そこから更に距離をとり、なにをするでもなく1人ポツンと立っている。
タリスマンを首から下げているので、モンスターに襲われる事はないだろうが、親として見ていて気分が良いものではない。
(そもそもなんで、ここに来ているのかしら?)
こはくは、なつめさん、つまり変装して配信をしている自分のファンだからここに来た。最初はそう思った。だが、そうならば、自分ともっと絡もうとするはずである。
なのに、こはくは隅からチラチラとこちらを見ているだけだ。
羨ましそうな表情は浮かべているが……。
(こんなに消極的な子じゃないはずだし……)
それとも引きこもっていた半年間が、この子の性格を変えてしまったのだろうか。
こはくの元に今すぐ駆け寄りたい衝動に駆られながらも、ファンとの交流を続ける中、司会進行を担当しているゴンザレスの言葉が耳に入ってきた。
「では、ここでスペシャルゲストの皆さんの登場でござる! なつめさんを送り出してくれるために皆、忙しい中集まってくれたでござる!」
もうすっかり顔見知りになった人気ダンジョン配信者たちが集まってくる。
(え?)
ここでアキナは、こはくの異変に気付く。先ほどまでは、何かに遠慮した様にチラチラと自分を見ていたが、今はなにか違うものをボーっと見つめている。
顔色は真っ赤になり、目はなんというかとろけているような……。
(もしかして!……ははーん、なるほどお)
こはくは自分ではなく、ゲストに来てくれた他のダンジョン配信者を目当てに来たのだろう。
(確か今の言葉だと、推しにガチ恋してるって言うのよね)
最近おぼえたばかりの言葉を頭の中で呟き、ニタニタする気持ちを必死に抑えながら、誰にガチ恋しているのかを考察し始めた。
(ゲストで来てくれた男の子は4人、しかも全員イケメン……うち3人は大学生位で年が離れ過ぎてるから……分かった! レオン君ね!)
昔の自分と重ね合わせ、微笑ましい気持ちになりながら再びこはくを見る。
(こはく、彼はいい子よ。思い出すわ。私もこはく位の時にコウスケと……え?)
ここでアキナは、こはくの視線がレオン君に向いていない事に気づく。しかし、いくらなんでも、その方向はおかしい。自分の見間違いに違いないので再度確認する。
(……)
やはり、ゴンザレスを見ているようだ。
(……)
しばらく固まってしまったが、ほどなくして爆発する様な感情がこみ上げてきた。
(えええええええ!! どうしてえええ! ……お母さんは、あんな変なオヤジと結婚する事なんて絶対許さないわよ!)
余りの衝撃にアキナは1人で勝手に結婚まで話を飛躍させた。
「ア、 アキナ様、どうしたでござるか?」
ゴンザレスがこちらを見て怯え始めた。どうやら感情が表に出てしまったようだ。
このままではイベントが台無しになるので、気持ちを落ち着かせ、冷静になる。
(でも、こはくはゴンザレスのどこが良いのかしら?)
卑怯でみっともない事ばかりやっているこの男には、異性として魅力的な部分は何も思い浮かばない。それでも頑張ってどこが良いのか必死に考える中、1つだけ自分が分からない部分がある事に気づいた。
(顔ね! そうだわ顔に間違いないわ! きっと凄いイケメンなのよ!)
だが、いつどうやって、こはくはゴンザレスの素顔を見たのだろうか? ネットに落ちていたという話は聞いた事がない。
アキナはそれが気になって仕方がなかった。
◇
(……私だけ完全に浮いている)
他の参加者は親がお金持ちそうな子や、派手に遊んでそうな子ばかりだ。
だが自分は貧乏な母子家庭で、学校にも満足にいけない引きこもりの陰キャだ。今の服装も地味で目立たない格好をしている。
その事に、こはくは強い疎外感を感じていた。
なつめさんともっと近くで接して話したり、魔法を見たりしたい。
だが、自分なんかがとても近寄って良い雰囲気ではない。
自分なんかがそんな事をしていいわけがない。
なつめさん、なつめさんと接している子達、ついでにカッコいいナイスミドルな商人を、こはくは遠目から伺っていた。
そんな自分をとても惨めに感じ、現実逃避の為に別の事を考え始める。
(そういえば、お母さんの銀行口座には、沢山おカネが入ってた。うちは貧乏なのにどうして? もしかして私のせいでおカネがいっぱい必要になったから、なにか悪い事をしているの?)
なつめさんを中心に盛り上がる周囲をうらやましがりながら暗い気持ちになる中、グループを作っている子たちが近づいてきた。
「ねぇ、あんたさ、何でこんなとこに来てるの?」
「え? あの、その?」
「あんたみたいな貧乏人、場違い感半端ないから帰った方がいいよ」
こはくは激しく動揺した。
そんな中グループの子達は更に追い打ちをかける。
「でもアンタみたいに、いかにも貧乏人の子供って分かる奴が、なんでチケット買えたの?」
「分かった! 親の財布からおカネを盗んだのよ! キャハハハ!」
「違う……ちがう……」
「ハハハハッすっごく動揺してる! どうやら当たったみたい」
「マジで! うわ、意地汚なあ! 最悪!」
このチケットは商人からもらったものだ。だが、グッズを買ったり、スパチャをするために親の銀行口座に入っているおカネや、クレジットカードを勝手に使ってしまった事は事実だ。
その事に強い罪悪感を抱いていたこはくは、それを見透かされた様で激しく動揺した。
「あはは! 逃げてく、逃げてく」
「ハハハ」
そして、いてもたってもいられなくなり、目に涙を溢れさせながら、この場を走り去った。
◇
(え? こはく?)
こはくが、泣きながら逃げるように、ここから走っていく。
オフ会参加者への対応で、少しだけ目を離した間に何かあったのだろうか?
アキナは激しく動揺した。
心配で、いてもたってもいられなかった。
とはいえ、今はイベント中だ。しかもお客さんは全員自分を見に来てくれている。
罪悪感を感じながら遠慮がちに、近くでカメラを回しているレナに自分がしたい事を伝える。
「あの、その……ゴメン、ちょっとだけ中抜けしたいんだけど……」
「え!? ちょっと待って欲しいっす! 今日は最初で最後のオフ会っすよ! みんな今月末で引退するアキさんが見たくて、転売されてバカ高い値段になったチケット買ってきたんっすよ! いったいどうしたんっすか!?」
「それは……ごめん」
個人的な事情で中抜けしようとする事に抵抗があったアキナは、言葉をつまらせる。
「ウチにも言えない理由ってなんなんっすか!」
「……」
激しく詰め寄られる中、ここで思わぬ助け舟がきた。
「そんなもの決まっているではござらぬか! アキナ様はウンコに行きたいのでござる!」
「はあ!?」
「多分、ぶっといのが出そうで、もう我慢できないのでござる!」
「いや、アキさんなんも言ってねえのに、てめえなに勝手に創造して――」
「ぶっといウンコが出そうだなどと同性にも、恥ずかしくて言える訳がないではござらぬか! そうでござるなアキナ様?」
ゴンザレスはとんでもない事を言ってきた。目から火が出そうなほど恥ずかしい。だが、せっかく中抜けできそうなチャンスを逃す訳にはいかない。
「……ええそうよ。もう我慢できそうにないの」
「マジっすか!? 早く行ってください!」
「ゴメンすぐ戻るから」
アキナは急いで、こはくの後を追い走り出した。
『ったく、なんだか知んねえけど手間かけさせんじゃねえよ!』
『うるさいわね! もっと良い理由考えなさいよ! でも大丈夫なの!?』
『へへへ……安心しろ。お前が帰っている間に身に着けた究極の芸で盛り上げといてやるよ』
走りながらゴンザレスと向こうの言葉で会話した。しかし、妙な言い方である。ここまで情けなくカッコ悪い人間と、むかしに会っているなら覚えていない方が逆に不思議なのだが……。
だが、自分はゴンザレスの事を確実に知っている。ゴンザレスもアキナの事をアキナ以上に知っている。
そして、その事にアキナは、なんの違和感も抱いていない。
強い疑問を感じながら、こはくの背を追った。
「生で見れて感動♪」
2階層に移動後、アキナは参加したファンの子達と一緒にバーベキューを楽しんでいた。
今はリクエストに応えて、先日のLIVE配信で使った宙に浮く魔法を参加者たちに見せている所だ。
だが、心の中はファンやオフ会の運営より、こはくの事でいっぱいだった。
「……」
自分の周辺で歓声を上げているファン達の後ろには、バーベキューを食べているファン達がいる。
こはくは、そこから更に距離をとり、なにをするでもなく1人ポツンと立っている。
タリスマンを首から下げているので、モンスターに襲われる事はないだろうが、親として見ていて気分が良いものではない。
(そもそもなんで、ここに来ているのかしら?)
こはくは、なつめさん、つまり変装して配信をしている自分のファンだからここに来た。最初はそう思った。だが、そうならば、自分ともっと絡もうとするはずである。
なのに、こはくは隅からチラチラとこちらを見ているだけだ。
羨ましそうな表情は浮かべているが……。
(こんなに消極的な子じゃないはずだし……)
それとも引きこもっていた半年間が、この子の性格を変えてしまったのだろうか。
こはくの元に今すぐ駆け寄りたい衝動に駆られながらも、ファンとの交流を続ける中、司会進行を担当しているゴンザレスの言葉が耳に入ってきた。
「では、ここでスペシャルゲストの皆さんの登場でござる! なつめさんを送り出してくれるために皆、忙しい中集まってくれたでござる!」
もうすっかり顔見知りになった人気ダンジョン配信者たちが集まってくる。
(え?)
ここでアキナは、こはくの異変に気付く。先ほどまでは、何かに遠慮した様にチラチラと自分を見ていたが、今はなにか違うものをボーっと見つめている。
顔色は真っ赤になり、目はなんというかとろけているような……。
(もしかして!……ははーん、なるほどお)
こはくは自分ではなく、ゲストに来てくれた他のダンジョン配信者を目当てに来たのだろう。
(確か今の言葉だと、推しにガチ恋してるって言うのよね)
最近おぼえたばかりの言葉を頭の中で呟き、ニタニタする気持ちを必死に抑えながら、誰にガチ恋しているのかを考察し始めた。
(ゲストで来てくれた男の子は4人、しかも全員イケメン……うち3人は大学生位で年が離れ過ぎてるから……分かった! レオン君ね!)
昔の自分と重ね合わせ、微笑ましい気持ちになりながら再びこはくを見る。
(こはく、彼はいい子よ。思い出すわ。私もこはく位の時にコウスケと……え?)
ここでアキナは、こはくの視線がレオン君に向いていない事に気づく。しかし、いくらなんでも、その方向はおかしい。自分の見間違いに違いないので再度確認する。
(……)
やはり、ゴンザレスを見ているようだ。
(……)
しばらく固まってしまったが、ほどなくして爆発する様な感情がこみ上げてきた。
(えええええええ!! どうしてえええ! ……お母さんは、あんな変なオヤジと結婚する事なんて絶対許さないわよ!)
余りの衝撃にアキナは1人で勝手に結婚まで話を飛躍させた。
「ア、 アキナ様、どうしたでござるか?」
ゴンザレスがこちらを見て怯え始めた。どうやら感情が表に出てしまったようだ。
このままではイベントが台無しになるので、気持ちを落ち着かせ、冷静になる。
(でも、こはくはゴンザレスのどこが良いのかしら?)
卑怯でみっともない事ばかりやっているこの男には、異性として魅力的な部分は何も思い浮かばない。それでも頑張ってどこが良いのか必死に考える中、1つだけ自分が分からない部分がある事に気づいた。
(顔ね! そうだわ顔に間違いないわ! きっと凄いイケメンなのよ!)
だが、いつどうやって、こはくはゴンザレスの素顔を見たのだろうか? ネットに落ちていたという話は聞いた事がない。
アキナはそれが気になって仕方がなかった。
◇
(……私だけ完全に浮いている)
他の参加者は親がお金持ちそうな子や、派手に遊んでそうな子ばかりだ。
だが自分は貧乏な母子家庭で、学校にも満足にいけない引きこもりの陰キャだ。今の服装も地味で目立たない格好をしている。
その事に、こはくは強い疎外感を感じていた。
なつめさんともっと近くで接して話したり、魔法を見たりしたい。
だが、自分なんかがとても近寄って良い雰囲気ではない。
自分なんかがそんな事をしていいわけがない。
なつめさん、なつめさんと接している子達、ついでにカッコいいナイスミドルな商人を、こはくは遠目から伺っていた。
そんな自分をとても惨めに感じ、現実逃避の為に別の事を考え始める。
(そういえば、お母さんの銀行口座には、沢山おカネが入ってた。うちは貧乏なのにどうして? もしかして私のせいでおカネがいっぱい必要になったから、なにか悪い事をしているの?)
なつめさんを中心に盛り上がる周囲をうらやましがりながら暗い気持ちになる中、グループを作っている子たちが近づいてきた。
「ねぇ、あんたさ、何でこんなとこに来てるの?」
「え? あの、その?」
「あんたみたいな貧乏人、場違い感半端ないから帰った方がいいよ」
こはくは激しく動揺した。
そんな中グループの子達は更に追い打ちをかける。
「でもアンタみたいに、いかにも貧乏人の子供って分かる奴が、なんでチケット買えたの?」
「分かった! 親の財布からおカネを盗んだのよ! キャハハハ!」
「違う……ちがう……」
「ハハハハッすっごく動揺してる! どうやら当たったみたい」
「マジで! うわ、意地汚なあ! 最悪!」
このチケットは商人からもらったものだ。だが、グッズを買ったり、スパチャをするために親の銀行口座に入っているおカネや、クレジットカードを勝手に使ってしまった事は事実だ。
その事に強い罪悪感を抱いていたこはくは、それを見透かされた様で激しく動揺した。
「あはは! 逃げてく、逃げてく」
「ハハハ」
そして、いてもたってもいられなくなり、目に涙を溢れさせながら、この場を走り去った。
◇
(え? こはく?)
こはくが、泣きながら逃げるように、ここから走っていく。
オフ会参加者への対応で、少しだけ目を離した間に何かあったのだろうか?
アキナは激しく動揺した。
心配で、いてもたってもいられなかった。
とはいえ、今はイベント中だ。しかもお客さんは全員自分を見に来てくれている。
罪悪感を感じながら遠慮がちに、近くでカメラを回しているレナに自分がしたい事を伝える。
「あの、その……ゴメン、ちょっとだけ中抜けしたいんだけど……」
「え!? ちょっと待って欲しいっす! 今日は最初で最後のオフ会っすよ! みんな今月末で引退するアキさんが見たくて、転売されてバカ高い値段になったチケット買ってきたんっすよ! いったいどうしたんっすか!?」
「それは……ごめん」
個人的な事情で中抜けしようとする事に抵抗があったアキナは、言葉をつまらせる。
「ウチにも言えない理由ってなんなんっすか!」
「……」
激しく詰め寄られる中、ここで思わぬ助け舟がきた。
「そんなもの決まっているではござらぬか! アキナ様はウンコに行きたいのでござる!」
「はあ!?」
「多分、ぶっといのが出そうで、もう我慢できないのでござる!」
「いや、アキさんなんも言ってねえのに、てめえなに勝手に創造して――」
「ぶっといウンコが出そうだなどと同性にも、恥ずかしくて言える訳がないではござらぬか! そうでござるなアキナ様?」
ゴンザレスはとんでもない事を言ってきた。目から火が出そうなほど恥ずかしい。だが、せっかく中抜けできそうなチャンスを逃す訳にはいかない。
「……ええそうよ。もう我慢できそうにないの」
「マジっすか!? 早く行ってください!」
「ゴメンすぐ戻るから」
アキナは急いで、こはくの後を追い走り出した。
『ったく、なんだか知んねえけど手間かけさせんじゃねえよ!』
『うるさいわね! もっと良い理由考えなさいよ! でも大丈夫なの!?』
『へへへ……安心しろ。お前が帰っている間に身に着けた究極の芸で盛り上げといてやるよ』
走りながらゴンザレスと向こうの言葉で会話した。しかし、妙な言い方である。ここまで情けなくカッコ悪い人間と、むかしに会っているなら覚えていない方が逆に不思議なのだが……。
だが、自分はゴンザレスの事を確実に知っている。ゴンザレスもアキナの事をアキナ以上に知っている。
そして、その事にアキナは、なんの違和感も抱いていない。
強い疑問を感じながら、こはくの背を追った。
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