上 下
43 / 51

42話 オフ会にこはくが……

しおりを挟む
「転売ヤーが酷いんで、なんとかして欲しいってDMがウチやアキさんの所にたくさん届いてんだけど。なんか対策とってんの?」

 オフ会当日。準備の為に朝早くから【生態系の迷宮】来たアキナとレナは、ゴンザレスを厳しく追及した。

「も、勿論でござる。でも転売ヤー共は悪知恵が働くので中々苦労しているでござる」
「はあ? てめえが公式転売してんじゃねえのか!?」
「レナちゃん、もういいわ」
「アキさん」
「そうでござる! 言いがかりは止めて欲しいでござる」
「……」

 恐らくゴンザレスは、今回もまた何か悪だくみをしているのだろう。
 だが、露骨な嘘で塗り固められた変な言い訳をして口を割らない事は明らかである。
 なので気持ちを切り替えて、来てくれたファンの人々を楽しませることにした。

(そうしなきゃ、とんでもない大金を払って来てくれたファンの人達に申し訳ないわ)

 とりあえず、ゴンザレスに今日の流れを聞くことにした。

「で、オフ会って結局なにをするの?」
「2階層でファンと一緒に話しながら、バーベキューをして適当に魔法を見せてくれれば良いでござる」
「そんなので良いの?」
「ファンは素のアキナ様と直接、交流したいはずでござる。だから無理に楽しませようなどとせずに、自分が楽しんだうえで、楽しんだ上で相手を楽しませる事を考えてくだされ」

 ゴンザレスが良いことを言っている事にアキナはとても驚いた。自分が楽しんでいないもので人を楽しませれるはずなどない。

「これが今日の予定表でござる。先日もお渡しさせて頂き申したが、念のため今日も改めてお渡しするでござる。拙者たちが2階層までファンを誘導する故、今しばらくこちらでお待ちくだされ」

 なにか手伝いをしたかったが、そんな事をしたらファンたちは混乱するだろう。
 もどかしい気持ちを抱えながら、アキナはその場に待機した。



「皆さんこれからダンジョンに入る訳でござるが、このタリスマンを首から下げて欲しいでござる」

 コウスケは受付フロアに集まっているオフ会参加者達に大きな声で説明を始めた。参加者は10代半ばから20代前半のダンジョン配信のメイン視聴者層が主なようだ。

「はあ!? なんでてめえの言う事なんか聞かなきゃいけねんだ!」
「これを持っていればモンスターは寄ってこなくなるでござる。もし無くしてしまったら大変危険なので、拙者達や係のゴブリンに直ぐに声を掛けて欲しいでござる」
「どうせまたボッタくるきでしょ!」
「そうだ、これも適当に作った不良品に決まってる!」

 しかし、普段の評判を知っている視聴者達は決めつけて耳を貸さない。

「いや、これは本当に安全のために無料で――」
「早くなつめさんに会わせてよ!」
「そうだ! そうだ!」

 話しを聞かずに自分たちの主張ばかりするファンたちに、ブチ切れたい気持ちを必死にこらえるコウスケに、ジンは耳打ちをしてきた。

『さっきからこんなガキばっかりで俺も参ってんッスよ』
『なんでこんな事になってんだ?』
『チケットの値段、とんでもねえ金額まで釣り上げたじゃねえッスか。あんなのダンジョン配信の視聴者層で払えるつったら、親が金持ちで甘やかされてるガキか、パパ活とかやって勘違いしてるガキかしかいないっスよ』
『オフ会は中止だ。このクソガキ共を拘束して、こいつらの親に俺が受けた精神的苦痛の損害賠償を請求する』
『いや、コウスケさん、それ誘拐ッスからマジヤベえッスよ』
『その名前をここで出すんじゃねえ』

 ジンの静止を振り切り、クソガキ共を拘束しようとしたその時、思いがけない声が耳に入ってきた。

「皆さん、落ち着いてください!」

 ジャージ、ウイッグ、伊達メガネの配信スタイルに着替えたアキナが走ってきていた。

「キャーー!」
「なつめさああん!」
「少しだけ私の話を聞いてくれるかな?」

 歓声をあげていたオフ会参加者達は一瞬で静まった。

「ゴンザレスもジンも本当に皆の事を考えて、今日のオフ会を準備してくれたんです。このタリスマンは皆に安全に楽しんでもらうために1つ1つ私が作りました! だから、ちょっとだけ我慢して、話しを聞いてくれませんか?」

 会場の空気が一変し、以前の騒がしさはどこかに消えてしまった。



(騒がしくて駆けつけたらこんな事になってただなんて)

 場が落ち着いた事にホッと胸を撫でおろす。

『へへ。相変わらずこんなのは上手いな。助かるぜ』
『こういう事は沢山させられてきたから嫌でも慣れるわ』

(というか、相変わらずってなによ。昔、私がどこかで人を鼓舞してるのとか見た事あるのかしら?)

 ゴンザレスの言葉に怪訝な気持ちになりながら、オフ会に来てくれた参加者の顔を何の気なしに眺めていた時、アキナの目に見知った顔が飛び込んできた。

(こはく!?)

 一番後ろの隅で隠れるような動作をしている女の子。分かりにくいが間違いなく、あれは娘のこはくである。

(どうしてここにいるの!? ……もしかしてこはくも私のファン?)

 ここに来ているという事は恐らくそういうことだろう。
 どう接すれば良いのか分からず、アキナは激しく混乱した。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

最強のコミュ障探索者、Sランクモンスターから美少女配信者を助けてバズりたおす~でも人前で喋るとか無理なのでコラボ配信は断固お断りします!~

尾藤みそぎ
ファンタジー
陰キャのコミュ障女子高生、灰戸亜紀は人見知りが過ぎるあまりソロでのダンジョン探索をライフワークにしている変わり者。そんな彼女は、ダンジョンの出現に呼応して「プライムアビリティ」に覚醒した希少な特級探索者の1人でもあった。 ある日、亜紀はダンジョンの中層に突如現れたSランクモンスターのサラマンドラに襲われている探索者と遭遇する。 亜紀は人助けと思って、サラマンドラを一撃で撃破し探索者を救出。 ところが、襲われていたのは探索者兼インフルエンサーとして知られる水無瀬しずくで。しかも、救出の様子はすべて生配信されてしまっていた!? そして配信された動画がバズりまくる中、偶然にも同じ学校の生徒だった水無瀬しずくがお礼に現れたことで、亜紀は瞬く間に身バレしてしまう。 さらには、ダンジョン管理局に目をつけられて依頼が舞い込んだり、水無瀬しずくからコラボ配信を持ちかけられたり。 コミュ障を極めてひっそりと生活していた亜紀の日常はガラリと様相を変えて行く! はたして表舞台に立たされてしまった亜紀は安らぎのぼっちライフを守り抜くことができるのか!?

天日ノ艦隊 〜こちら大和型戦艦、異世界にて出陣ス!〜 

八風ゆず
ファンタジー
時は1950年。 第一次世界大戦にあった「もう一つの可能性」が実現した世界線。1950年4月7日、合同演習をする為航行中、大和型戦艦三隻が同時に左舷に転覆した。 大和型三隻は沈没した……、と思われた。 だが、目覚めた先には我々が居た世界とは違った。 大海原が広がり、見たことのない数多の国が支配者する世界だった。 祖国へ帰るため、大海原が広がる異世界を旅する大和型三隻と別世界の艦船達との異世界戦記。 ※異世界転移が何番煎じか分からないですが、書きたいのでかいています! 面白いと思ったらブックマーク、感想、評価お願いします!!※ ※戦艦など知らない人も楽しめるため、解説などを出し努力しております。是非是非「知識がなく、楽しんで読めるかな……」っと思ってる方も読んでみてください!※

世界最強で始める異世界生活〜最強とは頼んだけど、災害レベルまでとは言ってない!〜

ワキヤク
ファンタジー
 その日、春埼暁人は死んだ。トラックに轢かれかけた子供を庇ったのが原因だった。  そんな彼の自己犠牲精神は世界を創造し、見守る『創造神』の心を動かす。  創造神の力で剣と魔法の世界へと転生を果たした暁人。本人の『願い』と創造神の『粋な計らい』の影響で凄まじい力を手にしたが、彼の力は世界を救うどころか世界を滅ぼしかねないものだった。  普通に歩いても地割れが起き、彼が戦おうものなら瞬く間にその場所は更地と化す。  魔法もスキルも無効化吸収し、自分のものにもできる。  まさしく『最強』としての力を得た暁人だが、等の本人からすれば手に余る力だった。  制御の難しいその力のせいで、文字通り『歩く災害』となった暁人。彼は平穏な異世界生活を送ることができるのか……。  これは、やがてその世界で最強の英雄と呼ばれる男の物語。

異世界帰りの底辺配信者のオッサンが、超人気配信者の美女達を助けたら、セレブ美女たちから大国の諜報機関まであらゆる人々から追われることになる話

kaizi
ファンタジー
※しばらくは毎日(17時)更新します。 ※この小説はカクヨム様、小説家になろう様にも掲載しております。 ※カクヨム週間総合ランキング2位、ジャンル別週間ランキング1位獲得 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 異世界帰りのオッサン冒険者。 二見敬三。 彼は異世界で英雄とまで言われた男であるが、数ヶ月前に現実世界に帰還した。 彼が異世界に行っている間に現実世界にも世界中にダンジョンが出現していた。 彼は、現実世界で生きていくために、ダンジョン配信をはじめるも、その配信は見た目が冴えないオッサンということもあり、全くバズらない。 そんなある日、超人気配信者のS級冒険者パーティを助けたことから、彼の生活は一変する。 S級冒険者の美女たちから迫られて、さらには大国の諜報機関まで彼の存在を危険視する始末……。 オッサンが無自覚に世界中を大騒ぎさせる!?

大和型戦艦、異世界に転移する。

焼飯学生
ファンタジー
第二次世界大戦が起きなかった世界。大日本帝国は仮想敵国を定め、軍事力を中心に強化を行っていた。ある日、大日本帝国海軍は、大和型戦艦四隻による大規模な演習と言う名目で、太平洋沖合にて、演習を行うことに決定。大和、武蔵、信濃、紀伊の四隻は、横須賀海軍基地で補給したのち出港。しかし、移動の途中で濃霧が発生し、レーダーやソナーが使えなくなり、更に信濃と紀伊とは通信が途絶してしまう。孤立した大和と武蔵は濃霧を突き進み、太平洋にはないはずの、未知の島に辿り着いた。 ※ この作品は私が書きたいと思い、書き進めている作品です。文章がおかしかったり、不明瞭な点、あるいは不快な思いをさせてしまう可能性がございます。できる限りそのような事態が起こらないよう気をつけていますが、何卒ご了承賜りますよう、お願い申し上げます。

せっかくのクラス転移だけども、俺はポテトチップスでも食べながらクラスメイトの冒険を見守りたいと思います

霖空
ファンタジー
クラス転移に巻き込まれてしまった主人公。 得た能力は悪くない……いや、むしろ、チートじみたものだった。 しかしながら、それ以上のデメリットもあり……。 傍観者にならざるをえない彼が傍観者するお話です。 基本的に、勇者や、影井くんを見守りつつ、ほのぼの?生活していきます。 が、そのうち、彼自身の物語も始まる予定です。

勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス

R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。 そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。 最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。 そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。 ※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※

処理中です...