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41話 こはく「商人の素顔を晒せば絶対にバズる!」

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「はあ、はあ……やっとついた」

 あさがお公園についたこはくは自転車を駐輪場に止め、次元の穴が空いている広場に向かって歩きはじめた。
 食事や運動を、まともにしていない状態で、全力で自転車をこいで来たので足元がフラフラする。肺もすごく痛い。

「お嬢ちゃん、中学生だよね? こんな時間に何してるの?」

 入り口で検問をしている警察官に呼び止められた。

「すいません、ダンジョンに忘れ物をしちゃって」
「分かった。通っていいよ。でも、もう営業時間は終わってるから早く出てきてね」
「分かりました。ありがとうございます」

 心臓をバクバクさせながら、こはくは次元の穴を通り抜けてダンジョンの中に入った。



「ジン、メロカリでのチケットの売れ方はどんなでござるか?」
「言われた通り4分の1くらいを5万円、通常価格の10倍の値段で出しましたが、ほぼ完売ッスね」
「いえーい! やったでござる!」

 結果を聞いたコウスケは、中々の売れ行きに小躍りした。
 実はチケット販売サイトでは、引退オフ会のチケットは1枚も売っていない。
 5000円よりもっと高い値段でも買いたい人間が沢山いる事は分かっていたからだ。
 しかし、必要以上に高い値段設定にするとアキが激怒する事は明らかだった。
 それで、思いついたのが、メロカリを間に挟んでの公式転売だった。

(悪いのは俺じゃなくて、どっかの転売ヤーだからな)

 なお、メロカリのアカウントは、全てジンの個人情報を入力して登録した。
 万が一転売がバレたとしても罪を着せれるので、これで安全である。

「次はもう4分の1を10万円で出品して、様子を見るでござる!」
「へーい」

 返事の仕方がムカついたので、ジンの頭をはたく。

『てめえ! なにやる気のねえ返事してやがる!』
『いて! 突然使う言葉を変えないでくださいよ!』
『俺は家に帰るから明日までに、言われた分の出品の手続きを全部終わらせとけ!』
『……分かったッス。もう営業終わってから、自分の部屋でやっていいっスか?』
『勝手にしろ』
『へーい』

 再びふざけた返事をした後、ジンは10階層に帰って行った。

『ったく、あの野郎は……』

 営業時間が終わり、もう誰もいないので仮面をとる。

『いってええええ!』

 なお、この仮面には肌にこびりついて本来なら、二度と取る、とることが出来なくなる強烈な呪いがかけられている。なので力任せに強引にとっている。
 とるときは、いつも肌がヒリヒリして物凄く痛い。



(許さない! 公式なのに転売ヤーと同じことをするなんて!)

身を潜めていたこはくは、なつめさんをいつもいじめている悪い商人と、色んな配信者の身の回りの世話をしている青い人の会話に怒りを覚え、スマホを手に取り2人の会話を映す。

(これをYawtubeかTikTakに投稿すれば、絶対に誰かが拡散してくれる!)

 自分がチケットを盗むために、ここに来たことがバレてしまうかも知れない。
だが、バレて酷い目に合って、なつめさんの引退オフ会にいけなくなっても、こんな悪事を見逃すわけにはいかない。

(……!)

 商人が仮面をとった。
 
(凄い、商人の素顔を晒し上げれば絶対にバズる!)

 高鳴る気持ちを必死に抑えながら、スマホを商人の顔に向ける。

(う、嘘!)

 商人の素顔を見た瞬間、こはくの身体は固まった。

(……かっこいい)

 商人はお母さんと同じ位の歳だろうか。父親に愛に恵まれなかった反動からか、かっこいいと感じる男は昔からおじさんばかりだった。
 特に商人は凄いイケメン(こはくの美的感覚では)で、見た瞬間にビビッときて身体が動かなくなってしまった。

(……あ)

 見とれすぎて、スマホを落としてしまった。
 商人がこちらコチラに気づき、コチラに近づいてくる。

(近くで見ると、もっとカッコいい)
 しかし、こはくは、そんな事はお構いなしに商人に見惚れ続けた。



 なにかが地面に落ちる音が辺りに響き、コウスケは激しく動揺する。

(ヤ、ヤベエ……誰かいんのか!? もしかして素顔見られたかも……もし借金取りだったら……)

 慌てながら周囲を確認すると、少し離れた所に昔のアキによく似た女の子が、棒立ちしていた。

(戦闘力はなしで、魔力は並みくれえか。こりゃ気づかねえ訳だ。しかし、顔が真っ赤だな。ありゃ、ぜってえに熱があるな)

 とりあえず素顔を見られたからには、口止めをしなければならないので近寄る事にする。

(落としたスマホで俺を撮っていたのは間違いねえ。さっきの会話も聞かれたか? だが逃げたり、向かって来る敵意みたいなもんは感じねえな)

 秘密を見られたかも知れない以上は口を塞がねばならない。だが、迷惑行為をしていない異世界のガキを力づくで排除したら、とてつもなくめんどくさい事になる。

「お嬢ちゃん、これをあげるから黙っといて欲しいでござる」

 なので、ポケットの中の飴玉を渡して買収する事にした。

「……ボソボソ」
「ん? なんでござる?」
「……なつめさんの引退オフ会のチケットがいい」

(さっきの話を聞いて自分もメロカリで高く売ろうってか。っけ、ちゃっかりしたガキだぜ)

 高値で売れるものをあげるのは嫌だったが、口止めのために背に腹は代えられない。

(まだまだ数はあるから、我慢すっか)

 ポケットからチケットを取り出し渡す。

「……ありがとう」
「さ、これが落としたスマホでござる。これも持って家に帰るでござる……ん? もしかしてずっと撮っていたでござるか?」

 女の子はコクリと頷いた。

(マジか……いや、誰も見てねえみてえだ。これなら隠ぺいできる)

「チケットをあげたから、動画を削除して欲しいでござる」

 女の子はコウスケの顔をチラチラ見ながら、スマホいじりはじめた。

「そうそう、消すでござる。いい子でござるな」
「全部消せました」

 画面を確認する。本当に全て消してくれたようだ。

「ありがとうでござる。それじゃあ拙者は帰るでござる。夜がふけておるので、お主も気をつけて帰られよ」

 真っ赤な顔をして自分を見つめ続ける女の子に背を向けて、コウスケは家に帰るためにダンジョンの正規入り口に向かい始めた。
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