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29話 悪だくみに気づくアキナ

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「今日は何だか物凄く早く終わっちゃったわね」

 本業が休日の日、【生態系の迷宮】での撮影が午前中に終わったアキナは、車でレナを送り終えたあと、自宅に戻って帰っていた。

(時間があるから、久しぶりにお祖母ちゃんの家にでも顔を出そうかしら。なにかお土産がいるわね)

 そんな事を考えながら、自宅近くのコンビニに近づいた時、あり得ない物が目に止まる。

「え!? あの自転車って!」

 コンビニの前には、特徴的なアクセサリーを兼ねた反射板がタイヤに着いてる自転車が置かれていたを目にする。あれはこはくの自転車で間違いない。

(いったいどういう事なの?)

 車を近くの路肩に止めて自転車を見ていると、すぐにコンビニから、こはくが出てきた。

「こはく!」

車の窓を開けて声をかける。

「!」

 声を掛けられたこはくは、身体をビクッと振るわせて、気まずそうな表情を浮かべる。

「ちょっと待ちなさい!」

 そして、一目散に自転車に乗り、家とは違う方向のどこかにいってしまった。
 予想外の出来事に、アキナは車の中で呆然とする。
 半年以上自室に引きこもり、顔すら見ていなかった娘が、外に出始めた。
 それ自体は喜ばしい事なのかも知れない。
 だが、自分に、どうしてそれを隠していたのだろうか?
 そして、何故あんなにも慌てて逃げたのだろうか?

(もしかして、ネットで悪い人達と知り合って、その仲間に引き込まれちゃったの?)

 そんな考えがアキナの頭の中をよぎる。

 だが、まだそうだと決まった訳ではない。
 そんな中で、こはくをきつく問い詰めてしまったら、また自分の殻に閉じこもってしまい引きこもってしまうかも知れない。

(どうすればいいの?)

 親の過度な心配であって欲しいと願いながら、アキナは再び車のエンジンをかけた。



「おばあちゃん、元気そうね。これお土産」

 こはくの事が気がかりだったが、ひとまず様子を見ることに決めたアキナは、一旦自宅に帰ってから祖父母の家にいった。
 スーパーで買ったギフトのお饅頭を渡し、祖母の家の軒先にアキナは腰かける。

「いつもすまないねえ」

 動画の撮影に本業、家事にと忙しいアキナだが、いつも機会を見て週に1度くらいのペースで、母と祖父母の所には顔を出していた。
 単純に身内なので心配だという気持ちもあるが、自分が異世界転移をしてしまったせいで、家庭を滅茶苦茶にしてしまった罪滅ぼしをしたいという想いも混じっている。

「和子の事なんだけど、大丈夫なのかい?」
「うん。お母さんは大丈夫。手術代がなんとかなったから、後は手術日を待つだけね」
「あと、仕送りしてくれるのは嬉しいけど、おカネは大丈夫なのかい? アキナも生活が楽じゃないんだろう?」
「大丈夫。臨時収入が入ったから、来月からもっと増やすね」

 Yawtubeでの広告収入やレジリエンスローブのAmozonアフィリの広告収入など全て諸々合わせてアキナの月収は200万円になっていた。
 さらにレナがゴンザレスを通さずに持ってきた、とんでもない金額の企業案件も来月に撮影する予定だ。
 金銭的にはかなりの余裕ができた。
 だが、沢山稼いでも特に使いたいことが思い浮かばなかったので、今まで迷惑を掛けてきた祖父母や母のために出来るだけ多くのおカネを使おうと思っているう事にした。

「なにか変なことをして、おカネを稼いでるんじゃないだろうねえ?」
「もうヤダあ。少しづつ貯めてたおカネで外国の株を買ったら、たまたま上手くいっちゃったのよ」

 だが、家族や親族にはYawtubeでおカネを稼いでいる事を特に言いたくないので、誤魔化した。

「そうなのかい。それは運が良かったねえ。でも、アキナはよく来てくれるから本当に助かるよ。それに比べて春子は……」
「叔母さんは忙しいんじゃないかな。だから仕送りを」
「ちょっと前までは毎月3万くらい振り込んでくれてたけど、3カ月前くらいから無いよ」
「か、家計が苦して止まってるだけじゃないかな」
「春子の旦那と隣の家の息子は同じ職場なんだけどねえ。先週まで家族で海外旅行にいってたそうだよ……」

(なにそれ! 毎月、自分も仕送りするって電話で言ってたじゃない)

 叔母の祖母に対する非情な言動にアキナは強い怒りを覚えた。
 だが、祖母に辛い思いをさせたくないので、必死に取り繕う。

「お、叔母さん達にもなにかきっと理由があるのよ」
「……おじいさんもあんなになっちゃったし、私もいつ死んでもおかしくない歳だからねえ。そうなったら、この家もらってくれるかい?」
「やだあ、なに言ってんのよ。100歳くらいまで頑張って生きてよ。それにここには、お母さんも住んでるじゃない」
「ハハ。そうだったね」

 祖母はアキナに満面の笑みを浮かべて来た。
 それを見て安堵する。

「ところでアキナ、私もLINEっていうのを使いたいんだけど、どうすれば良いんだい?」
「LINEが最初から入ってない携帯が今でもあるの? 珍しいわね。ちょっと見せてくれる?」
「これだよ。敬老会で私だけLINEが使えないんだよ」

 祖母が見せて来た携帯電話はガラケーだった。

「あのね。おばあちゃん、ガラケーじゃLINEは使えないの」
「そうなのかい?」
「うん。だからスマホに買い替えた方が良いわよ」
「でも、これ15年くらい使ってるからねえ」
「15年も使ってたら普通買い替えるわよ。ガラケーなんてもう作られて……」

 アキナはハッとして、言葉につまる。
 自分がこちらの世界に帰ってきた頃は皆ガラケーを使っていたが、今はもう使っている人間を見た事がない。
 まして15年前に作られたガラケーなど、発売当時の4割の値段だったとしても新しく買いたいとは誰も思わないだろう。
 レジリエンスローブは、製造されてからそれ以上の長い年月が経っている。

(もしかして今はもっと値段が落ちてるかもしれない)

 さらに販売しているのはゴンザレスである。現在向こうで売られている価格より馬鹿高い値段を吹っかけていない方がおかしい。

(もしそうなら、買ってくれた人たちに申し訳ないわ。すぐに向こうでの今の値段を調べなきゃ)

「どうしたんだいアキナ?」
「ごめん、急用が入っちゃった。おばあちゃん、今度一緒にdomomoショップに行こう。その時にLINEが出来る携帯を私が買ってあげるね」

 申し訳ない気持ちを強く抱きながらアキナは祖母の家を後にした。
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