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第十三章 ブラッディフェスト 序章

256.二人の『強さ』

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<バーサーク!! アナザーフォーム!!>


「「な!!」」

 ディノールの漆黒の龍鱗が全身を鎧のように包み込んでいく。



「うそ、だろ。それは俺が何年もかけて作り上げた……」



驚愕した顔のヴィオネットを見てディノールがにやりと笑った。



「ヴィオネット。俺はもうお前より強い。そしてここで倒されるのはお前らだ」



 挑発とも取れるその言葉にヴィオネットは唇を強く噛む。



「ヴィオネット! 早く態勢を!」



「……あ、あぁ」



 クオードの掛け声により、止まっていた足を動かすヴィオネット。



「なるほどな。素晴らしい力だ。確かにこのアナザーフォームとやらは龍そのものにならず力を凝縮したような形だ。これを一から作り上げたのは流石ヴィオネットといったところだ」



「……やめておけ。それはお前ごときに扱える代物じゃない」



 それを扱うための魔力消費の量は凄まじい。それにドラゴン属の力をフルに使うため鱗が落ちる量も段違いだ。



「クオード……ここからは消耗戦だ」



「何? 消耗戦?」



「あぁ、あの力はそう長くは使えないはずだ」



 ヴィオネットはそう言うと、自身のバーサークを解除した。



「あの状態身体能力の向上の仕方がやべぇんだろ? お前は解いちまって大丈夫なのか?」



「やることは一つだけだからな」



「……ひたすら避け続けるってことか」



 クオードの察しにヴィオネットの眉間にしわが寄った。



「……悔しいが今はそうするしかない。好機を待ち、消耗したところを一気に叩く」



「俺のウルカヌスも一度解除しておくか」



「ギリギリのギリギリまで抑えてフルパワーで叩くぞ」



「おう!」



「二人で何を話しているんだ?」



「「なっ!」」



 二人が後ろを振り返ると瞬間移動をしたかのような速さで回り込んでいたディノールが立っていた。



「ヴィオネット!!」



「遅い!」



 クオードはヴィオネットを押し飛ばし、ディノールの蹴りを頭に受ける。



「ぐあぁぁぁぁぁ!」



「クオード!! お前なんて無茶を……大丈夫か!? しっかりしろ」



「うっ……くっ」



 軽い脳震盪か……意識が朦朧としている。これじゃもう戦えない。



「クオードにかまけている暇があるのかヴィオネット」



「く、ディノリアァ!!」



「ディノールだ!!」



 ディノールの攻撃に対し倒れたクオードを庇ったヴィオネットだったが、その圧倒的なパワーにクオードもろとも壁まで吹き飛ばされた。



「がはっ!!」



「これはすごいな。もちろんこの龍鱗の鎧はそうだが、身体能力の向上率がただのバーサークの倍以上だ。この状態なら今のヴィオネットでも余裕で勝てるぞ!! ふふふふふふ。あっはははは」



「……わりぃクオード。ちょっとここで休んでてくれ……ん?」



 クオードの意識は朦朧としていたが、立ち上がろうとするヴィオネットの腕を強く掴んだ。



「だめだ。ヴィオネット……いくらお前でも」



「わりぃなクオード。俺、諦めるわ……」



 ヴィオネットはクオードに乾いた笑みを見せた。



「うぅ、ヴィオネット、ヴィオネット!!」



 ヴィオネットは意識を失ったクオードの手をさっとのけ、ゆっくりと立ち上がる。



「ヴィオネット、俺の耳には今かすかに諦めると聞こえたが?」



 立ち上がったヴィオネットの目の前にディノールは待ち構えていた。



「……あぁその通りだ」



「ここで俺に殺される決心がついたのか?」



「相変わらずつまんねぇ考え方すんだなお前」



「何だと」



「俺が諦めたことは二つ」

「一つは消耗戦ではなく。お前を真っ向から叩き潰すこと」

「もう一つは……」



「……」



「俺がお前を前みたいにぼこぼこにして生きて連れ戻すことだ」



「連れ戻すことを諦める……?」



「……あぁ。お前を連れ戻すなんてことはできそうにねぇからな。だから、ここでお前を殺す」



「懐かしいな。その殺意に満ち溢れた目。それでこそヴィオネットだ」



「自惚れるなよディノリア。強さを求めて他人の力を授かったお前ごときに負ける道理などない」



「甘いぞヴィオネット。大事なのはどう強くなったかではない。最後にどちらが強かったかだ」



 ディノリアのその言葉にヴィオネットの耳がぴくりと動く。



「……なーんもわかってねぇんだなてめぇは」



「何だと?」



「はぁぁぁぁぁぁぁ!」

<バーサーク!! アナザーフォーム!!>



「ふっ。来るか」



「ディノリア。教えてやるよ。『本当の強さ』ってやつを」



「ふっそう言うのは結果で記すもんだ! さぁ、行くぞ!!」



 二人は地面にひびが入るほどの速度とパワーでぶつかり合った。







 その頃ダンジョン内では、ヴィオネットの鱗を拾いながらカレンデュラ宮殿まで足を運んだレミア、ナヴィ、数名の冒険者がボス部屋へと向かっていた。



「姉さまの魔力がどんどん強くなっていってる……」



「あそこの突き当りを右に曲がったところね」



「ん!?」



 突然レミアの身体が震え始める。



「レミア!? 大丈夫?」



 ナヴィはレミアの肩を掴んだ。



「は、はい、そ、それより早く行きましょう。姉さまが」



 レミアの言葉に足を早める一行。



 そして数分後。



「着いた!!」



「はぁはぁはぁ。姉さま……え?」



 当時の懐かしい声に反応するディノール。



「はぁ、はぁ。お前は……レミアか。久しぶりだな」



「ディノリア……さん? うそ」



 ディノリアの右手にはズタボロにされたヴィオネットが首を掴まれ上へと持ち上げられていた。



「ちょっと遅かったな。レミアお前の姉は死んだぞ」



「姉さま……姉さまぁぁぁぁぁ!」
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