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第十三章 ブラッディフェスト 序章

253.新たな日課

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ディノリアのグローリア案内所での勤務初日は何事もなく終了した。



「ありがとうございましたー!」



「ディノリアさんお疲れ様です。初日から大変でしたね、あ、こちらお茶です」



「ありがとうレミアちゃん、いやーすげぇ大変だったよ。うちの案内所とは大違いだ……」



「ディノリアさんの案内所……そう言えばディノリアさんの案内所は今マスターがいない状態だと思いますが大丈夫なのでしょうか?」



「ん? ……あ、あぁ大丈夫だ。他の奴らが優秀だから別に俺がいなくても何とでもなる」



「そうですか。ならこの調子で明日からもよろしくお願いしますね。あ、今から晩御飯の準備をするので片付けして待っていてください」



「あぁありがとう」



 あいつは、レミアの質問に対して顔を横に逸らして答えた。



「心配なら帰ってもらっても構わないぞ」



「姉さま?」



「え? 別に心配なんてしてねぇよ。それに……」



「それに?」



 まただ。また視線を逸らした。



「い、いや。そーだ、ヴィオネット今日からはテストじゃなくて晩御飯までの時間組み手をしてくれ!」



「はぁ? 今日はもういいだろ。俺も仕事で疲れてんだ。休ませろ」



「ほうほう。雑魚の俺に負けるのがこえーってのか? 意外とお前も人間らしいとこあるんだな!」



「は、はぁ!? 何言ってやがんだ。てめぇ表へ出やがれ。ぼろぼろになって明日仕事できねぇとか言ったら案内所から叩きだすからな」



「何言ってんだ、今日お前に膝を着かせた男だぞ。そんな簡単には」









「姉さま。ディノリアさん。晩御飯の準備ができまし……た?」



 レミアは玄関の扉を開けて俺達の様子を見に来たが……。



「おう。今行く」



「う、いってぇ」



 軽くひねってやった。



「あの、姉さま。ディノリアさんは……」



「動ける程度に回復魔法を掛けてやってくれ」



「は、はい、それは全然いいのですが……わざわざ戦わなくても」



 え……? 



「確かに……そうだよな。あぁ、分かってはいるんだが……なんでだろうな」



 うちの冒険者以外には正直興味が湧いたことなんて一度もないと言っても過言ではない俺がどうして……。



「姉さま?」



「あ、あぁ、すまん。戻ろう」





 ディノリアがグローリア案内所で働き始めてからはこんな日常が続いていった。



 毎日組み手をしていくうちにあいつはめきめきと力を付けていった。



 もちろん俺より、なんてことはない。<バーサーク>を使っていない俺と、ディノリアの全力が大体同じレベルに程度だ。



 そんな毎日が数か月続いたある日。



「うおらぁぁぁぁぁぁぁ!」



「し、しまった!」



 これは、やばい!



「吹きとべぇぇぇぇぇぇ!!」



「ぐ、おぉぉぉぉぉぉぉ!!」



 <バーサーク>状態でのディノリアの魔法攻撃と俺の拳がぶつかり合った。



「姉さま、ディノリアさん!?」



 周囲は二つの攻撃の衝撃波で大量の砂煙が発生した。



「げほっげほっげほっ」

「……くっ」



 煙が晴れ、膝を着いた俺の目の前にいたのは腕を組み仁王立ちで鼻息を立てていたディノリアだった。



「俺の勝ちか?」



 くそ……テストのとき以上のどや顔をしやがって。



「ちっ、俺はまだ全力じゃない」



「分かってる」



 その瞬間ディノリアは膝を折り曲げ俺の目線の高さと合わせた。



「これで少しはお前を守れるか?」



「……は?」



 何笑ってんだこいつ。



「んなわけねぇだろ。一生かかってもそこが逆転するわけねぇよ」



「だよな。これくらいじゃまだ認めてもらえねぇよな。ヴィオネットに」



「当たり前だ。まだレミアの方が全然強い」



「だよなぁー。はぁー」



 ディノリアは俺の気にも留めない乾いた言葉に肩を落とした。



「まぁでも。雑魚の割に努力したのは認めてやらなくも、なくもない」



「……ヴィオネット。それってどっち?」



「ちっ。知らねぇよ。あーんもう今日はもう疲れた。レミア晩めしだ」



「はい……」



 くっそくっそくっそ。なんなんだよあいつ。むかつくことばっか言いやがって。明日はぜってぇ痛い目合わせてやる。



「姉さま」



「あ? どうした」



「耳、赤いですよ」



「……はっ? それがなんだよ」



 なんだかわからなかったがレミアはその場でくすりと笑った。



「いえ、何でも」



「気持ちわりぃな……」



「じゃあ私はディノリアさんの回復をしてから向かいますので先に食べててください」



「あ、あぁ。頼んだ」







「はい、できましたよ。ディノリアさん」



「あぁ毎度わりぃなレミアちゃん」



「毎日毎日凄いですね。姉さまにあそこまで立ち向かえるなんて」



「そうか? でも楽しいぜ。なんつーか戦ってる時はあいつの内側が見えるようでさ」



「内側……?」



「普段は強情で貪欲で、のくせ感情はあまり表に出さないような奴だからさ。なんというか戦ってる時に会話をしているような気分になるんだよ。それが最近では毎日の楽しみになっているんだよな」



「そうなんですね、多分姉さまも同じ気持ちだと思いますよ」



「え?」



「何となく、ですが。ディノリアさんが来てからの姉さまはすごく柔らかくなったというか。私の前では見せたこともないような表情がいくつも見ることができました。ディノリアさん。ありがとうございます」



「お、俺は別に……」



「なにさっきから話してんだ!?」



「ね、姉さま!?」

「ヴィオネット!?」



「腹が減ったんだ。治ったならさっさと戻るぞ」



 レミアとディノリアは顔を見合わせ勢いよく立ち上がった。



「おう!」

「はい!」
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