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第十三章 ブラッディフェスト 序章

248.カレンデュラ神殿

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「なぁヴィオネット」



「……なに? クオード」



 目の焦点が定まっていないように見えたヴィオネットにクオードが声を掛けた。



「お前また鱗が……」



「え。あぁ、またか」



「大丈夫か?」



「すまん、少しぼーっとしてしまって……」



「……ったく、とりあえずここからはなるべくお前の力は使うな」



「は? なんで」



「そりゃお前の力はこんなところで使い切っていいもんじゃねぇからだ。優しさじゃねぇ。作戦だ」



「……相変わらず口だけは上手いな」



 クオードの言葉を鼻であしらうヴィオネット。



「口だけってなんだよ!」



「ふふ、じゃあお言葉に甘えて。ん……? 来たぞ、魔物だ!」



「あぁ! 分かってる。あ、戦うなって言ってるわけじゃねぇからな、きっちり援護しろよ!」



「お前……少しでも頼りになると思った俺の気持ちを返しやがれ」



「まぁそれは後だ! 行くぞ!」



 カレンデュラ神殿の入り口で合流したクオードとヴィオネットはそのダンジョンの奥から感じる強大な魔力を察知し探索を始めていた。



「って、ここの魔物……やっぱつえーな!」



「どうしたクオード、押し負けてる……っぞ!」



「ギャ!」



 苦戦しつつも目の前にいる無数の敵を薙ぎ倒していくヴィオネットとクオード。



「クオード、先を見ろ!」



「!?」



「魔物の数が奥に行くにつれてどんどんと増えていっている」



「はぁ。ただでさえいつものモンスターどもより強いのに……」



「弱音を吐くな。逆を言えば……」



「その根幹にはいるんだろ。強敵が」



「あぁ、それもとびっきりの上物だ……」



「はぁ、困るなぁせめて前回の十番目のマハっつったっけ。あのレベルできてほしいのによ」



「馬鹿を言うな。お前も戦ったろあの龍もどきと」



「……あぁ」



 あいつも正直ウルカヌスが無ければ勢いに押されて負けていたかもしれない。



 強さで言えばマハよりも少し弱い、そのくらいの差しかなかった。



 つまり、ダリア、あいつが龍の姿で戦っていたらサーティーンプリンスターレベルの力がある。



 それを幹部として従えているっつーことは。



「てことは、サーティーンプリンスターでも相当上位の魔物っつーことか?」



「間違いない。最近のサーティーンプリンスターは上位中位下位に分かれていると聞く。正直中位くらいだとは思っていたが……」



「上位の可能性が高いっつーわけか」



「そうなるな」



「ひーこえ」



「本当に思ってるのか?」



「あぁ、だが、俺だけじゃない」



「?」



「俺達二人で戦える。それに相方はあの『奇龍 ヴィオネット・グローリア』だ。負ける理由を探す方が難しいぞ」



 クオードは親指を立てヴィオネットに微笑んだ。



「……ふっ、当たり前だ。俺がいればまず負けることはない。そしてクオード。お前がいれば確実に勝つことができる」



「そうやって何年も戦ってきたんだ。その方程式に例外はない」



「あぁ、その通りだ!」



 二人は拳を突き合わせ、魔物の群れへと突っ込んでいった。



 そして、そこから奥へ奥へと進んでいった二人は道中で壁にもたれ、怪我を負った冒険者と遭遇する。



「おいヴィオネット!」



 クオードがその冒険者を発見し指で指した。



「……あれはうちの冒険者だな」



「まだ息があるみたいだ、おい大丈夫か!」



 クオードが肩をゆすると、気を失いかけていた冒険者が目を覚ます。



「……クオードさん、それにヴィオネットさん」



「お前ビリーパーティーの一人だな。ビリー達はどうした」



「ビリーパーティー……」



 グローリア案内所でも指折りの実力を持つ四人組パーティーだ。



 それに信頼関係もあり、仲間をこんな風に見捨てるような奴らじゃない。



「ビリー達は……中で……」



「ん? 中でなんだ!?」



「サーティーンプリンスターと……」



「「!?」」



「ヴィオネット!!」



「あぁ、やはり。それにこの先はボス部屋だ」



 クオードが冒険者の肩から手を放しボス部屋へ向かおうとした瞬間、その冒険者がクオードの手首を掴んだ。



「だめだ、行ってはいけない……」



「はっ!? ビリー達もその中にいるんだろ、助けねぇと」



「……俺らの中で魔法使いの俺が一番最初にやられた。そしてビリーはそいつが隙を見せた瞬間に俺をここに運んだんだ」



「負傷したお前に危害が加わらないように、か」



 ヴィオネットが膝を折り顔を合わせる。



「あぁ、でも俺はそこでビリー達を止めた」





 俺が負傷してすぐのことだった。



「ぐっ!」



「おい! 大丈夫か!!」



「ビリー、早く部屋の外へ連れていけ! ここは危険だ。時間は私たちが作る!」



「わ、分かった。立てるか? 行くぞ!」



 そうしてパーティーのメンバーは皆俺を外へと逃がした。



「大丈夫か? とりあえずここで安静にしてろ」



「ビリー、だめだ。俺達の実力じゃ……」



「……」



「みんな死ぬぞ、ここは逃げて態勢を立て直してから」



「……分かってる」



「死にに行くようなもんじゃないか!」



「あぁ、お前の言う通りだ、だが、こうしている間にもデンバード山脈の冒険者たちは勇敢に戦っている」



「……」



「自分のためじゃない。このデンバード山脈を守るため。それに、あいつを俺らが倒さねぇで誰が倒すって言うんだ」



「そ、それは」



「俺達は、今俺たちができることをやるだけだ。それはここで逃げることじゃない……わりぃな。すぐ戻ってくっから、俺らが帰ってきたときに<ヒール>を使えるように休みながら魔力を練っててくれ」



「……」



 ビリーのあの目はもう覚悟を決めた目だった。



 いや、その目を見なくてもビリーやメンバーの性格上どうするかは分かっていた。



「じゃ、また後でな!」



「……ビリー、ビリー!!」



 俺はその時ビリーの大きな背中がいつもより小さく見え小刻みに震えている姿が目に焼き付いた。







「少し前の話だ、それに今も戦闘の爆発音が聞こえている、ヴィオネット」



「あぁ、悪いな、せっかく止めてくれたのに」



「いや、もしあいつを倒せるとしてももうあんたたちだけだ。無茶なお願いなのは分かってる。ビリー達を助けてくれ!!」



 大粒の涙を流しながらクオードとヴィオネットに頼む冒険者。



 二人はその冒険者の力を振り絞り握りしめた手をしっかりと握り返した。



「あぁ!」

「もちろんだ!」

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