上 下
244 / 262
第十三章 ブラッディフェスト 序章

241.クオードの作戦

しおりを挟む

ヴィオネットとクオードがディノール配下アギル、ダリアと戦闘を開始した頃、グローリア案内所では。



「ナヴィさん……」



「えぇ、始まったわ」



「北側、南側から共に激しい魔力のぶつかり合いを感じます」



「そうね」



「作戦通りになりましたね」



「えぇ、ここから上手くいけばいいけど……」







 遡ること、作戦会議。



「ということでどうだろう」



 クオードが各パーティーのリーダーと案内人に作戦を説明した。



「えーっと、つまりクオードさんの作戦は意図的に戦線に強弱を作り、押しきれていないところをカバーしにくるアギルとダリアを先に撃つということですか?」



「そういうことだナヴィちゃん。二体一気に来られてもどこまで対処できるか分かんねぇしな。危険な奴らは分散させて叩いた方がいい」



 その話を聞いていたヴィオネットがクオードに話しかける



「ほーん。それで、そこに行くのはお前と誰なんだ?」



「そんなの決まってんだろ。お前だ」



「「「な!」」」



 その場にいた二人以外の全員が驚いた。



「え、で、でもクオードさん。ヴィオネさんはここの指揮が」



「いや、ナヴィ。俺は行く」



「姉さま!?」



「そのためにお前らを鍛えてきたんだ。それに、もう俺がこの案内所にいなくてもお前らだけでやっていけるだけの力はあるだろ」



「そ、それは……」



 ヴィオネットの言葉にまんざらでもない顔をするレミア。



「まぁそういうことだ。ヴィオネットと俺でこいつら二人を倒せれば流れは一気にこっちのもんになる、だからお前らにはそれまでの戦線のコントロールを頼みたい」



 最初は困惑していたリーダーらはお互い顔を見合い、小さく頷いた。



「まぁこの案内所で最強なのは間違いなくお前らだからな」

「テンスシートを倒したのもお前らだし」

「案内人のヴィオネットさんに任せるのは冒険者としては情けないですが……」

「まぁでも二人なら逆に安心ね」



「お前ら……」



 冒険者の反応を見たヴィオネットがレミアとナヴィを見つめた。



「そういうことだ、時期が来たら頼んだぞ」



「「……はい!!」」





 そこから魔王軍とデンバード山脈の冒険者との戦闘が開始された。



「ヴィオネさん、クオードさん。物見からです。戦線はクオードさんの作戦通りの状況になっています!」



「よし! 流石あいつらだ!」



「誰が案内人してると思ってんだ。こんなところでへましてたら俺が殺す……」



「姉さま、それじゃ逆に冒険者様が委縮しちゃいますよ」



 案内所の外で戦況を確認する4人だったが、レミアがある魔力を察知した。



「!? これは……」



「どうしたレミア」



「姉さま、クオードさん。大きな魔力反応が北側、南側に一つづつ発現しました!」



「よし、来たな」



「はぁ、かったりーなー」



「何だよヴィオネット。やる気ねぇなぁ」



「あ? あたりめーだろ……だって」



 二人は武装を確認しそれぞれの方向へ歩き始めようとしたとき。



「姉さま、クオード様」



「「ん?」」



「ご健闘お祈りしています」



 涙ぐみ、胸の前で手を組んだレミア。



「死なないでくださいね」



 それを見たナヴィもレミアの肩を持ちクオードとヴィオネットに言葉を掛けた。



「おう、ありがとな!」



「ちっ、この程度で心配してんじゃねぇよ」



 笑顔で手を上げたクオードとは対照的にヴィオネットは振り返ることなく戦線へと向かっていった。







 その二人の姿を見送る二人だったが。



 ……っちゃだめ!!



「え?」



 行かせちゃだめ!



「……誰? 頭の中に……」



 ナミちゃん。ヴィオネットさんを、ヴィオネットさんを行かせちゃだめ!!



「ナ、ナヴィさん? どうかしましたか……ってナヴィさん!?」



 脳から聞こえる謎の声に頭を抱えたナヴィ。



「え?」



「ナヴィさん。泣いて、ます? そんなに二人が行くのが悲しかったんですか?」



 ナヴィの頬を伝う一滴の涙がきらりと光った。 



「……あれ、ほんとだ。左目から……あたし、そんなに悲しくなったつもりはないんだけど」



 たしかこんなこと、前にも……。



 それに。なんであたしの名前を……。



「まぁ、あの二人なら心配いりませんよ。なんせクオードさんはこのグローリア案内所のナンバーワン冒険者ですからね」



 泣いているナヴィを励ますかのように微笑みかけるレミア。



「……でもこの前はそいつらにやられて帰ってきたのよ? それが少し経ったくらいで力関係が変わるとは」



「まぁ、確かにそうですね。ただ、クオードさんの真価はパーティーではなくソロで戦う場面になってからです」



「あ、たしかそんなこと言っていたわね」



「はい。そしてそれは姉さまも同じです」



「なるほど。確かにあのヴィオネさんの全力をパーティーメンバーで足並み揃えようは無理な話よね」



「あははは、そうですね」



「そういえば、ヴィオネさん。さっき見たことないリングのネックレスを付けてたわ」



「あぁ。あれは……あれ?」



「ん?」



「どこかで見たことあると思ったらあれってまさか」



 急に顔から冷や汗が出始めたレミア。



「見覚えがあるの?」



「はい、そして。それを付ける理由があるとすれば……」



「ちょ! 待って待って! 全然話が追いつけてないんだけど! ってレミア!」



「ナヴィさんはそこにいてください!」



 レミアは急ぎ足で案内所の中へと戻っていった。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

世界樹の森でちび神獣たちのお世話係はじめました

カナデ
ファンタジー
 仕事へ向かう通勤列車の事故であっさりと死んだ俺、斎藤樹。享年三十二歳。  まあ、死んでしまったものは仕方がない。  そう思いつつ、真っ暗い空間を魂のままフラフラ漂っていると、世界の管理官を名乗る神族が現れた。  そこで説明されたことによると、なんだか俺は、元々異世界の魂だったらしい。  どうやら地球の人口が多くなりすぎて、不足する魂を他の異世界から吸い取っていたらしい。  そう言われても魂のことなぞ、一市民の俺が知る訳ないが、どうやら俺は転生の待機列からも転がり落ちたそうで、元々の魂の世界の輪廻へ戻され、そこで転生することになるらしい。  そんな説明を受け、さあ、じゃあ元の世界の輪廻へ移行する、となった時、また俺は管理官の手から転がり落ちてしまった。  そうして落ちたのは、異世界の中心、神獣やら幻獣やらドラゴンやら、最強種が集まる深い森の中で。  何故か神獣フェニックスに子供を投げ渡された。  え?育てろって?どうやって?っていうか、親の貴方がいるのに、何故俺が?  魂の状態で落ちたはずなのに、姿は前世の時のまま。そして教えられたステータスはとんでもないもので。    気づくと神獣・幻獣たちが子育てのチャンス!とばかりに寄って来て……。  これから俺は、どうなるんだろうか? * 最初は毎日更新しますが、その後の更新は不定期になる予定です * * R15は保険ですが、戦闘というか流血表現がありますのでご注意下さい               (主人公による戦闘はありません。ほのぼの日常です) * 見切り発車で連載開始しましたので、生暖かい目に見守ってくれるとうれしいです。 どうぞよろしくお願いします<(_ _)> 7/18 HOT10位→5位 !! ありがとうございます! 7/19 HOT4位→2位 !! お気に入り 2000 ありがとうございます!  7/20 HOT2位 !! 7/21 お気に入り 3000 ありがとうございます!

転生して異世界の第7王子に生まれ変わったが、魔力が0で無能者と言われ、僻地に追放されたので自由に生きる。

黒ハット
ファンタジー
ヤクザだった大宅宗一35歳は死んで記憶を持ったまま異世界の第7王子に転生する。魔力が0で魔法を使えないので、無能者と言われて王族の籍を抜かれ僻地の領主に追放される。魔法を使える事が分かって2回目の人生は前世の知識と魔法を使って領地を発展させながら自由に生きるつもりだったが、波乱万丈の人生を送る事になる

悪役貴族の四男に転生した俺は、怠惰で自由な生活がしたいので、自由気ままな冒険者生活(スローライフ)を始めたかった。

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
俺は何もしてないのに兄達のせいで悪役貴族扱いされているんだが…… アーノルドは名門貴族クローリー家の四男に転生した。家の掲げる独立独行の家訓のため、剣技に魔術果ては鍛冶師の技術を身に着けた。 そして15歳となった現在。アーノルドは、魔剣士を育成する教育機関に入学するのだが、親戚や上の兄達のせいで悪役扱いをされ、付いた渾名は【悪役公子】。  実家ではやりたくもない【付与魔術】をやらされ、学園に通っていても心の無い言葉を投げかけられる日々に嫌気がさした俺は、自由を求めて冒険者になる事にした。  剣術ではなく刀を打ち刀を使う彼は、憧れの自由と、美味いメシとスローライフを求めて、時に戦い。時にメシを食らい、時に剣を打つ。  アーノルドの第二の人生が幕を開ける。しかし、同級生で仲の悪いメイザース家の娘ミナに学園での態度が演技だと知られてしまい。アーノルドの理想の生活は、ハチャメチャなものになって行く。

妾の子だった転生勇者~魔力ゼロだと冷遇され悪役貴族の兄弟から虐められたので前世の知識を活かして努力していたら、回復魔術がぶっ壊れ性能になった

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
◆2024/05/31   HOTランキングで2位 ファンタジーランキング4位になりました! 第四回ファンタジーカップで21位になりました。皆様の応援のおかげです!ありがとうございます!! 『公爵の子供なのに魔力なし』 『正妻や兄弟姉妹からも虐められる出来損ない』 『公爵になれない無能』 公爵と平民の間に生まれた主人公は、魔力がゼロだからという理由で無能と呼ばれ冷遇される。 だが実は子供の中身は転生者それもこの世界を救った勇者であり、自分と母親の身を守るために、主人公は魔法と剣術を極めることに。 『魔力ゼロのハズなのになぜ魔法を!?』 『ただの剣で魔法を斬っただと!?』 『どうやってあの年齢であの強さを手に入れたんだ……?』 『あいつを無能と呼んだ奴の目は節穴か?』 やがて周囲を畏怖させるほどの貴公子として成長していく……元勇者の物語。

一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!

当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。 しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。 彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。 このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。 しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。 好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。 ※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*) ※他のサイトにも重複投稿しています。

王女の中身は元自衛官だったので、継母に追放されたけど思い通りになりません

きぬがやあきら
恋愛
「妻はお妃様一人とお約束されたそうですが、今でもまだ同じことが言えますか?」 「正直なところ、不安を感じている」 久方ぶりに招かれた故郷、セレンティア城の月光満ちる庭園で、アシュレイは信じ難い光景を目撃するーー 激闘の末、王座に就いたアルダシールと結ばれた、元セレンティア王国の王女アシュレイ。 アラウァリア国では、新政権を勝ち取ったアシュレイを国母と崇めてくれる国民も多い。だが、結婚から2年、未だ後継ぎに恵まれないアルダシールに側室を推す声も上がり始める。そんな頃、弟シュナイゼルから結婚式の招待が舞い込んだ。 第2幕、連載開始しました! お気に入り登録してくださった皆様、ありがとうございます! 心より御礼申し上げます。 以下、1章のあらすじです。 アシュレイは前世の記憶を持つ、セレンティア王国の皇女だった。後ろ盾もなく、継母である王妃に体よく追い出されてしまう。 表向きは外交の駒として、アラウァリア王国へ嫁ぐ形だが、国王は御年50歳で既に18人もの妃を持っている。 常に不遇の扱いを受けて、我慢の限界だったアシュレイは、大胆な計画を企てた。 それは輿入れの道中を、自ら雇った盗賊に襲撃させるもの。 サバイバルの知識もあるし、宝飾品を処分して生き抜けば、残りの人生を自由に謳歌できると踏んでいた。 しかし、輿入れ当日アシュレイを攫い出したのは、アラウァリアの第一王子・アルダシール。 盗賊団と共謀し、晴れて自由の身を望んでいたのに、アルダシールはアシュレイを手放してはくれず……。 アシュレイは自由と幸福を手に入れられるのか?

異世界王女に転生したけど、貧乏生活から脱出できるのか

片上尚
ファンタジー
海の事故で命を落とした山田陽子は、女神ロミア様に頼まれて魔法がある世界のとある国、ファルメディアの第三王女アリスティアに転生! 悠々自適の贅沢王女生活やイケメン王子との結婚、もしくは現代知識で無双チートを夢見て目覚めてみると、待っていたのは3食草粥生活でした… アリスティアは現代知識を使って自国を豊かにできるのか? 痩せっぽっちの王女様奮闘記。

愛すべきマリア

志波 連
恋愛
幼い頃に婚約し、定期的な交流は続けていたものの、互いにこの結婚の意味をよく理解していたため、つかず離れずの穏やかな関係を築いていた。 学園を卒業し、第一王子妃教育も終えたマリアが留学から戻った兄と一緒に参加した夜会で、令嬢たちに囲まれた。 家柄も美貌も優秀さも全て揃っているマリアに嫉妬したレイラに指示された女たちは、彼女に嫌味の礫を投げつける。 早めに帰ろうという兄が呼んでいると知らせを受けたマリアが発見されたのは、王族の居住区に近い階段の下だった。 頭から血を流し、意識を失っている状態のマリアはすぐさま医務室に運ばれるが、意識が戻ることは無かった。 その日から十日、やっと目を覚ましたマリアは精神年齢が大幅に退行し、言葉遣いも仕草も全て三歳児と同レベルになっていたのだ。 体は16歳で心は3歳となってしまったマリアのためにと、兄が婚約の辞退を申し出た。 しかし、初めから結婚に重きを置いていなかった皇太子が「面倒だからこのまま結婚する」と言いだし、予定通りマリアは婚姻式に臨むことになった。 他サイトでも掲載しています。 表紙は写真ACより転載しました。

処理中です...