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第十二章 ナヴィとグローリア案内所

220.火の精

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 そう。その風が止んだ時、俺の目の前にいたのは、二体の赤銅色の龍だった。

「これがうちら『魔物』と呼ばれ。人間に突き放された怒りの姿だ」


 この話を聞いたヴィオネットは目を見開いた。

「おい、クオード。それは本当の話か?」

「あぁ。この目で見たんだぞ。間違いねぇ」

「でもヴィオネさん。ドラゴン属はもう今二人だけだって……」

「……俺もそう信じて今まで生きてきた。二年前の大規模侵攻でここに住んでいたドラゴン属の人間は当時のサーティーンプリンスターによってほぼ全滅させられた。大人も、子供もみんな」

「ならなんでクオードの前にドラゴン属が……理由が分からねぇ。なぁクオード、経緯は分かった。それもそうだがよくドラゴン属の二人から逃げきれたな」

「逃げきれた、というよりかは死んだと思われた、って感じだな」

「は?」


 二体の龍の姿を見た俺は今までの自分の冒険者としての記憶が走馬灯のように蘇ってきた。

「シャギー。サナ。ネリウル。アヴィロ……」

「なにあのおじさん。思い出に浸っちゃってるよ。だっさぁ」
「今から死ぬんだ。そのくらいはいいだろう」

 俺はもうここで死ぬんだ。

 そう思った。

「まぁみんな何もできずに死んじゃったからねぇ。結局うちらに指一本も触れれなかったしさ。あんなのうちらからすれば虫けら同然だっつーの! あはははは」
「笑いすぎだダリア。さっさとやるぞ」

「てめぇら。今なんて言った……」

「はははは、は?」

「俺の仲間を何て言った……」

「もう一度行ってほしいの? 虫けらって言ったんだよぉ! 人間どもはどいつもこいつも対して強くもねぇのに粋がりやがって。軽く力を入れたらあのざまだよ? 笑いが止まらないよねぇ」


「てめぇら。許さねぇ!!」

 死の覚悟はできた。だが、何もできずに死ぬのは先に逝っちまったあいつらに向ける顔がねぇ。

 こいつらを殺してやる。俺の腕が引きちぎれようとも。立ち上がる足を失おうとも。

「ここで、お前らを殺す!」

「ばかじゃないの!? 所詮はあんたもさっき殺したレベルの冒険者と同じでしょ?」
「……いや、ダリア。待て」

「!?」
「あいつの身体をよく見てみろ」

「ん? あいつの魔力、とんでもない勢いで跳ね上がっている……」
「ダリア。奴の突攻は危険だ。すぐに決める」

「同感だね」

 奴らは口を大きく開け、攻撃の準備に入っていた。

 だが、俺は必ず奴らを殺す。その一心で迎え撃った。

「うぉぉぉぉぉぉぉぉ! 力を貸せ! 火の神よ!」
<ガーディアン・ウルカヌス!>

「死ねぇぇぇぇ」
「終わりだ」

 俺がガーディアンを召喚した瞬間、二体の龍は高密度のエネルギー弾を放った。

 そして……。

「さて、どうなったかなっと……。はい、戻れたーやっぱ人間の姿の方がいいよね。可愛いしキュートだし」
「意味同じだぞ。ダリア。ふむ」

 龍から人の姿に戻った二人が俺を探してを辺りをきょろきょろと見渡していた。

「うん。もう塵だね。さっきの魔力の気配もなくなったし」
「あぁ、あれは一瞬だがヒヤッとした。まぁそれも使われなきゃただの余分な魔力だ」

「なーんか無駄に疲れちゃったし。もう帰ろ。うちお腹すいちゃった」
「その前にまずはディノール様に報告が先でしょ」

「はいはーい。んじゃまた来るよ。デンバード山脈のみんな」
「……」


「はぁはぁ、はぁはぁ」

 奴らは森の茂みまで吹き飛ばされた俺に気づかず、魔王城へと帰っていった。

「なんだよクオード! せっかく久々に召喚されたと思ったらすぐやられちまったじゃねぇか」

「るっせえな。色々大変だったんだよ、ウルカヌス」

「俺様がいなかったら間違いなく死んでいたな」

「あぁ。助かったぜ」

 あの二体の龍がエネルギー弾を放った瞬間に、危険を察知した俺の相棒のガーディアン、火の精、ウルカヌスが炎で俺の身を包んだおかげで塵にならずには済んだ。

 だが……。

「ウルカヌス」

「何だ?」

「俺の周りで死んでいた冒険者達はどうなった……」

「……さぁな」

「消えた……のか。あのエネルギー弾で……」

「……少なくとも俺様はお前を守るので精一杯だったぜ」

「そう……か」

 あの力……俺がウルカヌスと共闘してどこまでいける……? あいつらもいないんだぞ。

 俺は仲間の死を、奴らとの力の差を思い知り、打ちひしがれていた。

 その姿に見かねたウルカヌスは俺に言った。

「なぁクオード」

「何だ」

「お前くらいの奴ならそう簡単にはやられない。だが、他の冒険者や案内所はどうだ?」

「……他の冒険者?」

「あぁ、きっと奴らはまた攻めてくる。さっきやられた冒険者はお前が守り切れなかったから死んだんだ。お前が最初から全力で戦っていたらこんなことにはならなかった」

「……でも、それは相手の力量を見極めきれなかったから」

「見極めきれるまでは全力を出さなくていいなんて誰が言ったんだ。お前そうやってまた自分の仲間を殺すのか」

「……それは」

「現にそれで後悔してるんだろ」

「後悔なんて……後悔なんて」

「ならお前の左目から流れてるそれが俺様には分からんな」

「……グスッ。グスッ」

「俺様を従えるほどの奴だろ、お前は。立ち止まってる暇はないぞ。奴らはすぐ来る」

「……あぁ、分かってる」

 俺がこうしてる間にも奴らはきっと着々と準備を進めているはずだ。

 止まっていられない。今はとにかく動かなければ。

「ありがとな。ウルカヌス」

「ケッ。別に何もしてねーよ」

「次は絶対に勝つ。さぁもう戻れ。お前が出てくると疲れるんだ」

「はぁ? せっかく外に出れて窮屈な空間から抜け出せたんだから少しくらい外の空気吸わせろよー。それにお前もすぐ動くとせっかく俺様が塞いでやった傷口がまた開くぞ」

「うるせ。今は火急の事態だ。とにかくすぐに向かうぞ」

「向かうって?」

「グローリア案内所だ」 
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