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第十二章 ナヴィとグローリア案内所

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 朝食を取り終え、開店時間を迎えたグローリア案内所はいつも通りの賑わいを見せていた。

「大変申し訳ございません。ただいまマスターのヴィオネットも含めて、どの案内人も同行は一か月先の予約までいっぱいで……」

 深々とお辞儀をするレミア。

「えーまじかよ。どうするー?」
「そしたらうちらだけで行くかー」
「レミアさん、そしたら過去の探索データを見せてもらってもいいかな、一応レベルの高いダンジョンだから対策を教えてもらいたい」

「かしこまりました。少々お待ちください」

 レミアは隣で受付をしていたナヴィに声を掛け、冒険者から聞いたメモを見せる。

「ナヴィさん。すみません、このダンジョンのデータなんですけど……」

「あぁ、それねあそこの棚の三段目の左から二十六番目のファイルよ」

「あ、えっと……」

「あーごめん。あたしが勝手にまとめちゃってたから分からないよね。冒険者さますみません少々お待ちいただいてもよろしいでしょうか?」

 ナヴィは担当していた冒険者に申し訳なさそうな顔をして許可を取る。

 二人組の冒険者は顔を見合わせ頷いた。

「えぇ」
「もちろんです。大丈夫ですよ」

「ありがとうございます! ついでにこちらのダンジョンの資料もお持ちいたしますね」

「助かるよ」
「ありがとう」

「少々お待ちください!」

 冒険者に笑顔を見せた後、資料を取りに行くナヴィ。

 その姿を見ていたレミアは手持ち無沙汰となりもじもじとしていた。

「ねぇレミアさん?」

 ナヴィが受付をしていた冒険者がレミアに話しかけた。

「あ、はい、もう少々お待ちいただけますか?」

「違う違う、そうじゃなくて」

「え?」

「あの子、ナヴィさんって言ったっけ。あの子この案内所に来てからずーっと裏で仕事してたけど、ものすごいテキパキしてるし解説も正確で驚いちゃったよ! なんで裏で仕事してたんだろう」
「ね、あたいもそう思った! ヴィオネットさんももちろんすごいけどあの子も相当な案内人よね」

 またナヴィさん。私じゃない。それに比べる相手も。

「受け答え一つ一つも丁寧だし、できれば専属でお願いしたいなぁ」
「あほ! あんな子なんだからそんなこといろんな冒険者に言われてるよきっと」

「あはは、そうですね……うちでも人気の案内人となりますので……」

 私の方が長く働いてるのに。

「でもナヴィさんって元は王都の近くにある小さな村の案内人なんだってよ!」
「あ、そうなんだ、じゃあどうしてこんなところに……」
「もしそっち戻るって言われたら困っちゃうなぁ」
「またまたそんなこと言って」

「うちとしてもナヴィがいなくなるのはかなりの痛手ですからね」

 私の方がナヴィさんよりもこの案内所でずっと努力してきたはずなのに。

 ってあれ、ナヴィさんがいなくなるのが痛手……? なんで私そんなことを。

「大変お待たせいたしましたー!」

「お、待ってたよナヴィさん!」
「随分早いわねぇ、あの棚見た感じものすんごい量の資料がしまってあるように見えるけど……」

「あーでも少し働いてたら全部覚えちゃって! はいレミア! これ!」

「あ、ありがとうございます。え、これ……」

 私が頼んだ資料じゃないのもありますね……。

「うん。レミアが受付してる冒険者さまの装備見た感じ苦労しそうなところとか、そのダンジョン行く前に素材集めができそうなところとかいくつかピックアップしておいたから、良ければそれも参考にどうかなって」

「そんなところまで……?」

「えぇ、もちろん! あたし達は案内人だからね!」

 ナヴィはレミアにウインクをし、受付に戻る。

「冒険者様大変お待たせいたしました! それでですね……」

 意味が分からないです。案内人だから? それだけでここまでの資料が集められるんですか……。

 ここに来た時は、こんな人が王都公認の案内人なんだって思って接していたはずだったのに。

 それがもう私の手の届かないところまで……。

 これじゃ、この案内所に私の居場所は……。

「あのーレミアさん? 顔が真っ青ですよ?」

 レミアが受付をしていた冒険者が心配そうにれみあの具合を尋ねた。

「あ、すみません……ただいま」
「すまんなうちのレミアが」

 レミアの後ろから同行を終えたヴィオネットが現れた。

「「ヴィオネットさん!」」

「!? 姉さま」

 ヴィオネットはレミアの顔を数秒間じっと見つめ冒険者に頭を下げた。

「すまん。今日は俺が受付をする、レミア少し休んで来い」

「え、なんで……ですか?」

「俺たち冒険者はまぁいいですけど。それにヴィオネットさんに受付してもらえるなんて稀だしな」
「えぇ、そうね」

 姉さまに受付してもらえる……? 私は姉さまがいないときの案内人?

「レミア。いいから下がれ」

「姉さま私大丈夫です」

「いや、今の状態で受付にいられても迷惑なのは冒険者達だ」

「……」

「お前の私情に付き合う気はない。邪魔だ、下がれ。後はナヴィと俺でやる」

「……そんな」

 やっぱり私はもう……。

 ヴィオネットに突き放されるように睨みつけられたレミアは肩をがっくりと落とし、バックルームへと戻っていった。

 その様子を見ていたナヴィがヴィオネットに声を掛ける。

「ヴィオネさん。あれは流石にやりすぎじゃ……。レミアどうにかなっちゃいますよ?」

「いや、これでいい。これでいいんだ」

 その後営業時間が終了するまでナヴィとヴィオネットは。バックルームから聞こえるレミアのすすり泣く声を背に仕事を続けた。
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