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第十二章 ナヴィとグローリア案内所
201.ヴィオネットの思惑
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「さて、と、仕事始めますか」
朝食を取り終えたナヴィは一階のデスクに向かい仕事の準備を始めようと腕をまくる。
「あれ……なんか、書類の量が、お、おかしいな」
「あ、言ってなかったか?」
背後からヴィオネットがすっと顔を覗かせた。
「ひぇっ! ヴィオネさん!?」
「どうしたそんな驚いて、タスクが少なそうなら増やすことはいくらでもできるが?」
ヴィオネットの輝かせた目を見たナヴィは額に汗をかきながら苦笑いで返答した。
「ヴィ、ヴィオネさん? あの、むしろ逆で……前回あたしが働いていた時の更に倍はあるんですが……」
「なーに言ってんだアホ、てめぇは昨日一日さぼっただろうが」
「はい? 昨日はあたし出て行くって……」
「いいからさっさと仕事に取り掛かりやがれ、冒険者は待ってくれねぇぞ」
「むーなんか誤魔化されている気にもならないけどとりあえずやるしかないか」
ナヴィは一度大きくため息をつき山積みされた書類に手を掛ける。
「まぁ、タスクの量は確かに倍だ。だが、それ以上の見返りになってくるとは思うぜ」
「え、ヴィオネさん? それってどういうことですか」
「それは多分やってったら自ずと気づいていくはずだ。終わったらレミアに確認してもらえ」
「は、はぁ」
相変わらずこの最後まで言わない感じはヴィオネさんらしいというか……もったいぶらずに教えてくれればいいのに。
「おっともう始業時間ね。さっさとやらないと今日中に終わらないわ!」
ナヴィは早速仕事に取り掛かった。
そこから数時間後。
「あのーナヴィさん……?」
「……」
異様な集中力で書類一つ一つにしっかりと目を通し書き込みをしているナヴィにレミアが声を掛けるもナヴィは仕事をする手を止めない。
「えーっと」
「あ、ごめんレミア! 全然気づかなかった!」
「あぁ、いえ、仕事を始めてから一歩もデスクから動いてなかったので様子を見に来たのですが……あ、これコーヒーです」
「え? そんなにかしらってうそ!? もう四時?」
「はい……やっぱり気づいてなかったんですね」
苦笑いをしながらカップを取り換えるレミア。
「うーんなんかすごい集中してたみたいね……自分でもびっくりだわ」
「その証拠にお昼ご飯のサンドイッチ取りに来なかったので、私がデスクに置いたんですけど、その状態のままですからね」
「あ! ほんとだ、これも気づかなかった……」
「私たち案内人も冒険者様と同じで体が資本なんですからあんまり無理しすぎちゃだめですよ、それに体も凝り固まってしまいますから適度に伸ばしてあげてくださいね」
「ありがとう。なんだかレミアあたしのお母さんみたいね」
「あはは。何言ってるんですかもう。あと少しで終業時刻になりますからもう少しだけ頑張りましょうね」
「ええ、ありがとう。サンドイッチも頂くわね」
「はい、では、失礼します」
レミアは受付の仕事へと戻っていった。
「いやぁびっくりしたぁ。レミアに言われなかったら多分まだお昼ぐらいの感覚でいた」
「それにヴィオネさんが言ってたこと本当にその通りだったわ」
『まぁ、タスクの量は確かに倍だ。だが、それ以上の見返りになってくるとは思うぜ』
前までのあたしだったら分からなかったことがたくさんあった。
正直グローリア案内所の資料や探索記録はアナログというか余計なことが多く情報過多。
ダンジョンの地層なんか調べても意味なんてないと思っていたし。
ボスモンスターの倒し方も冒険者の一挙手一投足全部書くようにしているのもこれだけの膨大な数があるんだから正直処理しきれない。
そんなことばかり考えていた。そんな前までのあたしの取り組みは、あくまでも仕事を早く終わらせる『ノルマをこなす』って意識だった。
けど、今ならわかる。
この一つ一つの資料や情報が頭に染み込んでくる。
それと同時に一見関係ない情報が格子状にそれぞれが繋がっていくイメージができている。
クオードさんとのダンジョン探索で無意識にダンジョンのガイドができたのも膨大な量の情報処理をし、知らぬ間に身についていた産物ってことかしら。
あの反抗期みたいなあたしの状態でもそれほどできたってことは、今この情報一つ一つと向き合うことの意義、そしてその見返りがどれほどのものなのかが今日一日で痛いほど実感できた。
「もしかしてヴィオネさんはあたしがこうなることを最初から分かっていて……」
冒険者と会話をしているヴィオネットの方に視線を向けるナヴィ。
『ただ一つはっきりと言えるのは、姉さまはあぁ見えて非常に思慮深いお方です」』
そういえばレミアがこんなこと言ってたっけ……。
「もし本当なら思慮深いなんてもんじゃないわね……何者なのあの人は……」
「さぁ、そろそろ終業時間だレミア、ナヴィ、店を閉めるぞ」
「「あ、はい!」」
「ういーっす、ヴィオネットはいるかぁ?」
二人が店を閉める準備を始めようとした瞬間だった。
「うそ、冒険者さま? めっちゃギリギリだけどって……え?」
「おう。ご苦労だっだなクオード!」
「あぁ大丈夫だぜ。お、しっかり戻れたんだな、ナヴィちゃん!」
入り口からナヴィに向かいクオードは手を振った。
「まさか……これもヴィオネさんが」
ってことはここまでの流れはやっぱり全部ヴィオネさんが……。
体をプルプルと震わせヴィオネットを睨みつけたナヴィ。
「にかっ!」
ヴィオネットは満点の笑顔でナヴィに笑いかけた。
「なんかやだーー!!!」
ナヴィの叫び声が店いっぱいに響き渡った。
朝食を取り終えたナヴィは一階のデスクに向かい仕事の準備を始めようと腕をまくる。
「あれ……なんか、書類の量が、お、おかしいな」
「あ、言ってなかったか?」
背後からヴィオネットがすっと顔を覗かせた。
「ひぇっ! ヴィオネさん!?」
「どうしたそんな驚いて、タスクが少なそうなら増やすことはいくらでもできるが?」
ヴィオネットの輝かせた目を見たナヴィは額に汗をかきながら苦笑いで返答した。
「ヴィ、ヴィオネさん? あの、むしろ逆で……前回あたしが働いていた時の更に倍はあるんですが……」
「なーに言ってんだアホ、てめぇは昨日一日さぼっただろうが」
「はい? 昨日はあたし出て行くって……」
「いいからさっさと仕事に取り掛かりやがれ、冒険者は待ってくれねぇぞ」
「むーなんか誤魔化されている気にもならないけどとりあえずやるしかないか」
ナヴィは一度大きくため息をつき山積みされた書類に手を掛ける。
「まぁ、タスクの量は確かに倍だ。だが、それ以上の見返りになってくるとは思うぜ」
「え、ヴィオネさん? それってどういうことですか」
「それは多分やってったら自ずと気づいていくはずだ。終わったらレミアに確認してもらえ」
「は、はぁ」
相変わらずこの最後まで言わない感じはヴィオネさんらしいというか……もったいぶらずに教えてくれればいいのに。
「おっともう始業時間ね。さっさとやらないと今日中に終わらないわ!」
ナヴィは早速仕事に取り掛かった。
そこから数時間後。
「あのーナヴィさん……?」
「……」
異様な集中力で書類一つ一つにしっかりと目を通し書き込みをしているナヴィにレミアが声を掛けるもナヴィは仕事をする手を止めない。
「えーっと」
「あ、ごめんレミア! 全然気づかなかった!」
「あぁ、いえ、仕事を始めてから一歩もデスクから動いてなかったので様子を見に来たのですが……あ、これコーヒーです」
「え? そんなにかしらってうそ!? もう四時?」
「はい……やっぱり気づいてなかったんですね」
苦笑いをしながらカップを取り換えるレミア。
「うーんなんかすごい集中してたみたいね……自分でもびっくりだわ」
「その証拠にお昼ご飯のサンドイッチ取りに来なかったので、私がデスクに置いたんですけど、その状態のままですからね」
「あ! ほんとだ、これも気づかなかった……」
「私たち案内人も冒険者様と同じで体が資本なんですからあんまり無理しすぎちゃだめですよ、それに体も凝り固まってしまいますから適度に伸ばしてあげてくださいね」
「ありがとう。なんだかレミアあたしのお母さんみたいね」
「あはは。何言ってるんですかもう。あと少しで終業時刻になりますからもう少しだけ頑張りましょうね」
「ええ、ありがとう。サンドイッチも頂くわね」
「はい、では、失礼します」
レミアは受付の仕事へと戻っていった。
「いやぁびっくりしたぁ。レミアに言われなかったら多分まだお昼ぐらいの感覚でいた」
「それにヴィオネさんが言ってたこと本当にその通りだったわ」
『まぁ、タスクの量は確かに倍だ。だが、それ以上の見返りになってくるとは思うぜ』
前までのあたしだったら分からなかったことがたくさんあった。
正直グローリア案内所の資料や探索記録はアナログというか余計なことが多く情報過多。
ダンジョンの地層なんか調べても意味なんてないと思っていたし。
ボスモンスターの倒し方も冒険者の一挙手一投足全部書くようにしているのもこれだけの膨大な数があるんだから正直処理しきれない。
そんなことばかり考えていた。そんな前までのあたしの取り組みは、あくまでも仕事を早く終わらせる『ノルマをこなす』って意識だった。
けど、今ならわかる。
この一つ一つの資料や情報が頭に染み込んでくる。
それと同時に一見関係ない情報が格子状にそれぞれが繋がっていくイメージができている。
クオードさんとのダンジョン探索で無意識にダンジョンのガイドができたのも膨大な量の情報処理をし、知らぬ間に身についていた産物ってことかしら。
あの反抗期みたいなあたしの状態でもそれほどできたってことは、今この情報一つ一つと向き合うことの意義、そしてその見返りがどれほどのものなのかが今日一日で痛いほど実感できた。
「もしかしてヴィオネさんはあたしがこうなることを最初から分かっていて……」
冒険者と会話をしているヴィオネットの方に視線を向けるナヴィ。
『ただ一つはっきりと言えるのは、姉さまはあぁ見えて非常に思慮深いお方です」』
そういえばレミアがこんなこと言ってたっけ……。
「もし本当なら思慮深いなんてもんじゃないわね……何者なのあの人は……」
「さぁ、そろそろ終業時間だレミア、ナヴィ、店を閉めるぞ」
「「あ、はい!」」
「ういーっす、ヴィオネットはいるかぁ?」
二人が店を閉める準備を始めようとした瞬間だった。
「うそ、冒険者さま? めっちゃギリギリだけどって……え?」
「おう。ご苦労だっだなクオード!」
「あぁ大丈夫だぜ。お、しっかり戻れたんだな、ナヴィちゃん!」
入り口からナヴィに向かいクオードは手を振った。
「まさか……これもヴィオネさんが」
ってことはここまでの流れはやっぱり全部ヴィオネさんが……。
体をプルプルと震わせヴィオネットを睨みつけたナヴィ。
「にかっ!」
ヴィオネットは満点の笑顔でナヴィに笑いかけた。
「なんかやだーー!!!」
ナヴィの叫び声が店いっぱいに響き渡った。
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