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第十二章 ナヴィとグローリア案内所

197.夜闇の来訪者

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 ナヴィがダンジョン探索を終え、クオードと別れたころ、グローリア案内所ではレミアとヴィオネットが夕食を取っていた。

「レミアごっそーさん。今日もお前の料理は最高に旨かったぜ」

「ありがとうございます。昨日追い返した冒険者様の分もあって今日はいつも以上に忙しかったですからね、もしかしたらそれがスパイスになったのかもしれないですよ」

「かもな……」

 ヴィオネットはそのまま立ち上がり近くの窓から外を覗いた。

「あ、そういえばお姉さま。なんで夕食を三人分用意しろって……」

 テーブルの上には誰も手をつけていない綺麗に盛り付けされたプレートとスープが放置されていた。

「まぁなんだ。勘だよ」

「勘って。またいつもの奴ですか、でも今回ばかりは何もありません。片付けますよ」

 レミアは呆れた顔をし、残ったプレートに手を掛けた瞬間、窓の外を覗いていたヴィオネットがにやりと笑いレミアの手を止めさせた。

「いやレミア、その必要はない」

「え……」

「レミア、急いで完全武装の準備を」

「はっ? ど、どうして今!? まさか外にモンスター?」

「ふん。その方がよっぽど良かったぜ、お前からしたらな」

「どういうことですか……?」

「いいから急げ! 三分で済ませろ」

「は、はい!」

 状況を掴み切れていないレミアだったが、ヴィオネットの圧に負け、二階にある自室へと駆け上がっていった。

「日の出ていない夜にモンスターの襲撃なんて今まで一度もなかったのに。とにかく早く準備しないと」

 鎧を着ようと手を掛けたレミアはその鎧の細かな傷に目がいった。

「これ、ナヴィさんとの戦闘で付けられた傷……」
「だめだ、もうナヴィさんは帰ってこない。忘れないと……あとはグローブを付けてっと。よし」

 武装を終えたレミアは顔を数回横に振り急いでヴィオネットの元へと向かった。

「姉さま準備が終わり……あ、あれ。いない」

 一階へと降りたレミアは窓の外を覗いた。

「敵は暗くてよく見えないけど近くにいるのは姉さま。もう外に出て敵を食い止めているのかしら。とにかく急がなきゃ」

「姉さま! ご無事ですか!?」

 レミアは玄関の戸を勢いよく開けた。

「おう、遅いぞレミア」

「え……うそ」

 二十メートルほど離れていた敵だと認識していたものを見て、レミアは目を見開いた。

「ふふ。昨日振りね。レミア」

「姉さまなんで。なんでナヴィさんが戻ってきてるのですか!」

「さぁな。それは俺にもよく分からん。だが、あいつが言いたいことは分かる」

 レミアはヴィオネットからナヴィへと視線を移した。

「それはどういうこと……!?」

 ナヴィさんの顔が昨日と全然違う……。

 レミアの右足が一歩後退した。

「気づいたか、レミア」

「はい。あのナヴィさんの表情は昨日までの何かに縛られて自分を見失っていたような顔とは違います。前に進む意思を固めた覚悟の表情です」

「……だろうな」

 腰に手を当て誇らしげにナヴィの姿を見るヴィオネット。

「なんで姉さまが誇らしげなんですか。まさかまた姉さまの悪だくみが」

「失礼な。確かにちょこっといじくりはしたが。ここに来ようと決めたのはこいつ自身だ」

 ヴィオネットは数歩前に進み右手を口元に置きナヴィに問いかけた。

「ナヴィ! 何をしに来た。お前は首だといったはずだが」 

「姉さんさっき言いたいこと分かるって……」

 むすっとした表情をでぼそぼそ呟くレミア。

「うるせ! これは芝居だ」

「ヴィオネさん。レミア」

「なんだ」
「は、はい」

 ナヴィは真剣な表情で持っていた杖を捨て、頭を深々と下げた。

「この場所で。グローリア案内所であたしを働かせてください」

「……言ったはずだ。ここにお前の求めているものは提供できない、と」

「昨日までのあたしはそうでした。でもヴィオネさんやレミア、クオードさんって人の話や振る舞いを見て思ったんです」
「あたしは案内人です。ってこれだけじゃ説明になっていないかもしれないのですが」
「思ったんです。きっとここなら、グローリア案内所なら、あたしは案内人としてもっと高みに行けるって」

「ふ……意味わかんねーよ」

「姉さま。クオード様って」

 レミアの口を塞いだヴィオネット。

「それは今は言うな」

「え、まさか……」

「いいから黙っとけ。後で説明するから」

「わ、分かりました」

 冷や汗を拭ったヴィオネットは一息つきナヴィと問答を続けた。

「案内人としてもっと高みに行ける……か。漠然としてるな。うちがそんな場所だって思える根拠はなんだ」

「根拠がない自信は駄目でしょうか。あたしはここで働きたい。それ以上の理由はありません」

「ナヴィさん……って姉さま?」

 レミアは横で笑いを堪えプルプルと震えていたヴィオネットを見つめる。

「ふふ、ふははははは……根拠のない自信ね。いいじゃねぇじゃかそういうの。嫌いじゃないぜ」
「面白い。だがただで雇うわけにはいかない。うちは優秀だと思った案内人しか雇わない主義でね」

 ナヴィは武装していたレミアの方に視線を移した。

「……レミア」

「そうだ。察しがいいねぇ」

「姉さま……」

「準備いいか。レミア」

 ヴィオネットはナヴィに聞こえないほどの声でレミアに尋ねた。

「……はい」

 ヴィオネットの前に出るレミア。

「さぁ再戦といこうじゃないか。案内人ナヴィ・マクレガン!」
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