上 下
192 / 262
第十二章 ナヴィとグローリア案内所

192.才能の壁

しおりを挟む
「インターハイ陸上女子 100m走 第一位 北大路ナミ」

「「「うおぉぉぉぉ!」」」

「はぁ。はぁ。勝った! 優勝だ」

 これでお父様にいい報告ができる。

「さっすが北大路財閥のご令嬢だよな。金持ちで運動神経もいいとかそんなのありかよ」
「まーなでも今年は不作らしいぜ。オリンピックの強化指定選手の選考も今年の三年生からは選出されないとか」
「確かに一位だが歴代の記録と比べると、なぁ」
「他の年ならいいとこ三位とかだろ」

「「くすくすくす」」

 なんだこいつら。
 あたしが何かしたっていうの?

「うわすっげ、また北大路が学年トップだ!」
「主要五教科で点数は四百九十点。総合一位、何だけど……」
「各教科の順位はどれも二位とか三位とかだな。一位が一つもないぞ」
「まぁそれでもすげーんじゃねーの」
「テストなんて暗記ゲーだろ。友達もろくにいないお嬢様は勉強と陸上しかやることが無いんだから忙しい俺らと違って勉強が友達ですって感じだろ」
「それにこういうなんでもできる奴より一教科だけ百点とかっていう尖ったやつが案外学者とか研究職で花咲かすんだよ」

「「くすくすくす」」

 あたしよりも下の奴らのただの僻みだ。気にするな。こいつらに向けようとしている怒りを勉強で、陸上で発散しろ。

 そうすればあたしは誰にも負けない。

 今日の夜はお父様が帰ってくるし色々と報告しよう。

「お父様、先日のインターハイ無事に優勝することができました」

「そうか」

「え……?」

「なんだ」

「え、い、いや。あ、あと本日テストの成績の張り出しがあり無事に総合一位を取ることができました」

「そうか」

「総合一位、だけか」

「……」

「ふ、そんなことで話しかけてくるな。北大路の名を継ぐものだ。それぐらいは容易にやってもらわないとな」

「……」

「話はそれだけか」

「……はい」

「では私は部屋に戻る」

「……はい」


 あたし北大路ナミは人よりもたくさんの才能を授かった。

 と思っていた。

 幼少期からの父の厳しい教育方針の下で鍛え上げられ、周りにいる子たちと圧倒的な差をつけていった。

 小学生の頃から塾やピアノのコンクール、激しい競争社会の中に放り込まれ一位以外は許されない。

 あの頃はそれでもよかった。上手くなる実感が手に取るようにあったから。それに小学生の頃は才能よりも努力でどうにかなる分野が多かった。

 けど。中学生になってそれが一気に逆転した。

「ピアノ部門ジュニアの部 優秀賞 北大路ナミ!」

「え……」

「そして最優秀賞は。佐藤大地!」

「よっしゃー! あの北大路に勝ったぞー!」

「「うぉぉぉぉぉ!」」

「……そんな」

 生まれも育ちもきっと大したことのない人だった。でもそんな人に負けたあたしはもっと大したことないやつなんだ。

 あたしはそれ以降白と黒の鍵盤を触れることも見ることもしなかった。

 いいところまでいくけど才能という絶対的な壁に蹴落とされ。また別の道を模索する。そんな繰り返しの日々だった。

 そんな中でも初めて自分にはこれだと持ったものがあった。それが陸上だ。

 小さいころから走るのが好きだった。

 なんかこう気持ちがぱーっと開放される感じ、そしてあたしよりも前に人がいない爽快感がたまらなかった。

 けど、それも結局インターハイ優勝どまり。オリンピックなど夢のまた夢ともニュースや新聞では書かれた。

 勉強もそうだ。

 オリンピックに出れるほどの才能もなく。学者になれるほど頭も良くない。

 じゃああたしは何のために……これから何をすれば。

「えーっと、おほん。北大路さん」

「あ、はい、先生」

「進路相談中なんだからぼーっとするのは流石にね……」

「失礼しました、えっとそれで……」

「まぁ北大路さんは陸上も勉強も頑張ってたし進学先はそこら中にあるはずだと思うけど、どうしたいんだい?」

「……どうしたい?」

「うん。北大路さんはこれからどうやって生きていきたいのかな。やっぱり陸上? それとも研究職とか?」

「……分かりません」

「……?」

「あたしは何がしたいんでしょうか」

 あたしは……あたしは……。


「はっ!!」
「はぁ、はぁ、はぁ 夢?」

 ナヴィはグローリア案内所の自室のベッドの上で目を覚ました。

「ナヴィさん。大丈夫ですか、凄い汗ですよ?」

 ベッドの横にはリンゴのようなフルーツをナイフで器用に向いているレミアがいた。

「レミア……そっか。あたし、負けたのか」

 布団の裾をしわになるまで強く握ったナヴィ。

「すみません……」

「なんでレミアが……」

「おい、起きたか」

「ヴィ、ヴィオネさん」 

 扉を足で蹴りどかどかと入ってくるヴィオネット。

「レミア、ご苦労だった。今日はもう休め」

「はい、姉さま……ナヴィさん。それでは」

「え、えぇ」

 レミアは扉の前で一礼をし自室へと戻っていった。

 そしてレミアの座っていた丸椅子にヴィオネットが足を広げ座った。

「気分はどうだ、負け犬」

「あはは、何も言えません。そして最悪です」

 苦笑いをし、悔しさをごまかすナヴィ。

「だろうな。なぁナヴィ、一騎打ちをする前の約束覚えてるか?」

「あ、あぁ。もう諦めました、雑務でも何でもやります。同行も諦めます」

「そのことなんだが、もうその必要はない」

「え……?」

「お前はクビだ。明日荷物をまとめてここを立ち去れ」

「……なんで」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

願いの守護獣 チートなもふもふに転生したからには全力でペットになりたい

戌葉
ファンタジー
気付くと、もふもふに生まれ変わって、誰もいない森の雪の上に寝ていた。 人恋しさに森を出て、途中で魔物に間違われたりもしたけど、馬に助けられ騎士に保護してもらえた。正体はオレ自身でも分からないし、チートな魔法もまだ上手く使いこなせないけど、全力で可愛く頑張るのでペットとして飼ってください! チートな魔法のせいで狙われたり、自分でも分かっていなかった正体のおかげでとんでもないことに巻き込まれちゃったりするけど、オレが目指すのはぐーたらペット生活だ!! ※「1-7」で正体が判明します。「精霊の愛し子編」や番外編、「美食の守護獣」ではすでに正体が分かっていますので、お気を付けください。 番外編「美食の守護獣 ~チートなもふもふに転生したからには全力で食い倒れたい」 「冒険者編」と「精霊の愛し子編」の間の食い倒れツアーのお話です。 https://www.alphapolis.co.jp/novel/2227451/394680824

巻き込まれ召喚・途中下車~幼女神の加護でチート?

サクラ近衛将監
ファンタジー
商社勤務の社会人一年生リューマが、偶然、勇者候補のヤンキーな連中の近くに居たことから、一緒に巻き込まれて異世界へ強制的に召喚された。万が一そのまま召喚されれば勇者候補ではないために何の力も与えられず悲惨な結末を迎える恐れが多分にあったのだが、その召喚に気づいた被召喚側世界(地球)の神様と召喚側世界(異世界)の神様である幼女神のお陰で助けられて、一旦狭間の世界に留め置かれ、改めて幼女神の加護等を貰ってから、異世界ではあるものの召喚場所とは異なる場所に無事に転移を果たすことができた。リューマは、幼女神の加護と付与された能力のおかげでチートな成長が促され、紆余曲折はありながらも異世界生活を満喫するために生きて行くことになる。 *この作品は「カクヨム」様にも投稿しています。 **週1(土曜日午後9時)の投稿を予定しています。**

転生したので好きに生きよう!

ゆっけ
ファンタジー
前世では妹によって全てを奪われ続けていた少女。そんな少女はある日、事故にあい亡くなってしまう。 不思議な場所で目覚める少女は女神と出会う。その女神は全く人の話を聞かないで少女を地上へと送る。 奪われ続けた少女が異世界で周囲から愛される話。…にしようと思います。 ※見切り発車感が凄い。 ※マイペースに更新する予定なのでいつ次話が更新するか作者も不明。

不遇職とバカにされましたが、実際はそれほど悪くありません?

カタナヅキ
ファンタジー
現実世界で普通の高校生として過ごしていた「白崎レナ」は謎の空間の亀裂に飲み込まれ、狭間の世界と呼ばれる空間に移動していた。彼はそこで世界の「管理者」と名乗る女性と出会い、彼女と何時でも交信できる能力を授かり、異世界に転生される。 次に彼が意識を取り戻した時には見知らぬ女性と男性が激しく口論しており、会話の内容から自分達から誕生した赤子は呪われた子供であり、王位を継ぐ権利はないと男性が怒鳴り散らしている事を知る。そして子供というのが自分自身である事にレナは気付き、彼は母親と供に追い出された。 時は流れ、成長したレナは自分がこの世界では不遇職として扱われている「支援魔術師」と「錬金術師」の職業を習得している事が判明し、更に彼は一般的には扱われていないスキルばかり習得してしまう。多くの人間から見下され、実の姉弟からも馬鹿にされてしまうが、彼は決して挫けずに自分の能力を信じて生き抜く―― ――後にレナは自分の得た職業とスキルの真の力を「世界の管理者」を名乗る女性のアイリスに伝えられ、自分を見下していた人間から逆に見上げられる立場になる事を彼は知らない。 ※タイトルを変更しました。(旧題:不遇職に役立たずスキルと馬鹿にされましたが、実際はそれほど悪くはありません)。書籍化に伴い、一部の話を取り下げました。また、近い内に大幅な取り下げが行われます。 ※11月22日に第一巻が発売されます!!また、書籍版では主人公の名前が「レナ」→「レイト」に変更しています。

聖女召喚されて『お前なんか聖女じゃない』って断罪されているけど、そんなことよりこの国が私を召喚したせいで滅びそうなのがこわい

金田のん
恋愛
自室で普通にお茶をしていたら、聖女召喚されました。 私と一緒に聖女召喚されたのは、若くてかわいい女の子。 勝手に召喚しといて「平凡顔の年増」とかいう王族の暴言はこの際、置いておこう。 なぜなら、この国・・・・私を召喚したせいで・・・・いまにも滅びそうだから・・・・・。 ※小説家になろうさんにも投稿しています。

無能だとクビになったメイドですが、今は王宮で筆頭メイドをしています

如月ぐるぐる
恋愛
「お前の様な役立たずは首だ! さっさと出て行け!」 何年も仕えていた男爵家を追い出され、途方に暮れるシルヴィア。 しかし街の人々はシルビアを優しく受け入れ、宿屋で住み込みで働く事になる。 様々な理由により職を転々とするが、ある日、男爵家は爵位剥奪となり、近隣の子爵家の代理人が統治する事になる。 この地域に詳しく、元男爵家に仕えていた事もあり、代理人がシルヴィアに協力を求めて来たのだが…… 男爵メイドから王宮筆頭メイドになるシルビアの物語が、今始まった。

理不尽に追放されたので、真の力を解放して『レンタル冒険者』始めたら、依頼殺到で大人気な件

たかたちひろ【令嬢節約ごはん23日発売】
ファンタジー
★これはパーティーを追放された男が、その実力で上り詰め、唯一無二の『レンタル冒険者』として無双を極めるお話です。 「君みたいな平均的な冒険者は不要だ」 この一言で、パーティーリーダーに追放を言い渡されたヨシュア。 しかしその実、彼は平均を装っていただけだった。 レベル35と見せかけているが、本当は350。 水属性魔法しか使えないと見せかけ、全属性魔法使い。 あまりに圧倒的な実力があったため、パーティーの中での力量バランスを考え、あえて影からのサポートに徹していたのだ。 それどころか攻撃力・防御力、メンバー関係の調整まで全て、彼が一手に担っていた。 リーダーのあまりに不足している実力を、ヨシュアのサポートにより埋めてきたのである。 その事実を伝えるも、リーダーには取り合ってもらえず。 あえなく、追放されてしまう。 しかし、それにより制限の消えたヨシュア。 一人で無双をしていたところ、その実力を美少女魔導士に見抜かれ、『レンタル冒険者』としてスカウトされる。 その内容は、パーティーや個人などに借りられていき、場面に応じた役割を果たすというものだった。 まさに、ヨシュアにとっての天職であった。 自分を正当に認めてくれ、力を発揮できる環境だ。 生まれつき与えられていたギフト【無限変化】による全武器、全スキルへの適性を活かして、様々な場所や状況に完璧な適応を見せるヨシュア。 目立ちたくないという思いとは裏腹に、引っ張りだこ。 元パーティーメンバーも彼のもとに帰ってきたいと言うなど、美少女たちに溺愛される。 そうしつつ、かつて前例のない、『レンタル』無双を開始するのであった。 一方、ヨシュアを追放したパーティーリーダーはと言えば、クエストの失敗、メンバーの離脱など、どんどん破滅へと追い込まれていく。 ヨシュアのスーパーサポートに頼りきっていたこと、その真の強さに気づき、戻ってこいと声をかけるが……。 そのときには、もう遅いのであった。

私が産まれる前に消えた父親が、隣国の皇帝陛下だなんて聞いてない

丙 あかり
ファンタジー
 ハミルトン侯爵家のアリスはレノワール王国でも有数の優秀な魔法士で、王立学園卒業後には婚約者である王太子との結婚が決まっていた。  しかし、王立学園の卒業記念パーティーの日、アリスは王太子から婚約破棄を言い渡される。  王太子が寵愛する伯爵令嬢にアリスが嫌がらせをし、さらに魔法士としては禁忌である『魔法を使用した通貨偽造』という理由で。    身に覚えがないと言うアリスの言葉に王太子は耳を貸さず、国外追放を言い渡す。    翌日、アリスは実父を頼って隣国・グランディエ帝国へ出発。  パーティーでアリスを助けてくれた帝国の貴族・エリックも何故か同行することに。  祖父のハミルトン侯爵は爵位を返上して王都から姿を消した。  アリスを追い出せたと喜ぶ王太子だが、激怒した国王に吹っ飛ばされた。  「この馬鹿息子が!お前は帝国を敵にまわすつもりか!!」    一方、帝国で仰々しく迎えられて困惑するアリスは告げられるのだった。   「さあ、貴女のお父君ーー皇帝陛下のもとへお連れ致しますよ、お姫様」と。 ****** 週3日更新です。  

処理中です...