上 下
173 / 262
第十一章 王都公認案内人 ナヴィ・マクレガン編

173.もう一人の刺客

しおりを挟む
「ミモザ、そこまでだ」

「だ、誰だ!?」

 ミモザの横に新手の刺客が現れた。

「黒いマントに深く被ったフード……それに二メートル近い巨体……なんなの?」

 エンフィーは戦意を失ったナヴィの身体を摩りながらもその刺客を凝視した。

「そ、そんな、ど、どうしてあなた様が……」

 ミモザが驚いてる……? あなた様ってことはやはり魔王軍の手先。だけど、魔力はそこまで感じない。さっきのミモザほどじゃないのに……なんであそこまで。

「何をしている、もう集合の時間だぞいつまでここでちんたらしているつもりだ」

「も、申し訳ございません。今すぐ、今すぐにこ奴らを……」

 その会話をしている最中にナヴィは立ち上がった。

「あ、あんたはいったい何なの……ミモザの味方なの」

 そう話しかけられた刺客はナヴィの目の前に瞬間移動をし、ナヴィの全身を舐めるように見た。

「い、いきなり目の前に!?」

「ふむ……ミモザ、この娘は……」

「はっ。魔王ディアボリクス様がおっしゃっていたマクレガンの」

「ふふ、そうか、お前があのマクレガンの……」


「……だったら何よ」

「このボス部屋の崩壊具合にお前のボロボロな体。ふむ魔王様の用心深さもここまで来ると病的だな」

「どういうこと……」

 その刺客は上から見下すようにナヴィを睨みつけた。

「調べに来る必要もなかったってことだ」

「……っ!?」

 な、なにこいつの目……ミモザとはまた違う、威圧的で鋭い目眼光……体が……う、動かない。そ、それに。

 もう、この瞬間に分かった。あたしじゃこいつの足元のも及ばない。


「大丈夫か? 震えているぞ娘」

「あ、ああ、あああ」

 駄目、体の震えが止まらない。こわい。

 怖い怖い怖い怖い怖い。このままだと殺される。

「お、お姉ちゃん!!」

「はっ! あ、あたしは……」

 呼吸をするのも忘れるほど硬直していたナヴィがエンフィーの呼びかけにより正気に戻った。

 その姿を見た刺客が先程までの眼光から柔らかい目に変わり、ナヴィの頭を撫でる。

「ふふ、安心しろ。別にお前らに興味はない。もちろんここで殺すことはない」

「な、ディノール様!! それはどういう……」

「ミモザ、むしろお前はこんな娘一人を殺すのにどれだけの時間を要するのだ」

「……そ、それは……」

「言い訳はいらん。それはお前の油断と慢心の他ならない、城に戻ったら覚悟しておけ」

「……し、しかし!!」

「ほう、お前ごときの身分でフォースシートの俺に指図するのか? イレブンスシート。ミモザ・フリューゲル」

「フォ、フォースシート……?」

 ミモザが十一番目で、このディノールってやつが、よ四番……!? それに今の魔力の爆発的な上がり方、ミモザの比じゃない。

「ひっ、そんな私は……」

「話は後で聞く。城に戻るぞ」

「は、はっ!」

「娘」

 ミモザの元に歩くディノールは一度足を止め、ナヴィに話しかけた。

「な、なに」

「忠告だ。祖父の後を追うのはやめておけ。お前の今の実力じゃトニー・マクレガンの足元にも及ばない」

「なんであなたがおじいちゃんを……。それにあなたには関係ない……」

「……まぁいい。今回は見逃すが、次俺の目の前に現れたら必ず殺す」

「……」

「ではさらばだナヴィ・マクレガンよ」

 ミモザとディノールはエンフィーとナヴィの前から黒い炎とともに消えていった。

「はぁはぁはぁ……うっ」

「お姉ちゃん!!」

 ディノールたちが消えていった瞬間、ナヴィは崩れるように倒れていった。

「エ、エンフィーさん、ナヴィさん!」

 岩陰に隠れていたアミスも合流する。

「ごめんエンフィーあたし、二人を守れなかった」

 エンフィーはナヴィを抱きかかえる。

「そんなことない、私もアミスさんも無傷なのよ。お姉ちゃんがミモザの攻撃から全部守ってくれたんだよ」

「……あ、あはは、そ、そっか。ならよかった……」

「それより今は安静にして、かなりの大怪我だよ……」
<ヒール!>

「くっ……簡単なこれで傷は治せるけど、一つ一つの傷が深すぎる……」

「ありがとうエンフィー。とりあえず村まで帰れれば大丈夫だから……色々と報告もしないといけないしね」

「う、うん。じゃあもう少し休憩したら戻ろうか……」

 こうして三人は小休止をした後ダンジョンの出口へと向かっていった。

 ナヴィは歩くのがやっとの状態でアミスとエンフィーの肩を借りながら歩いていた。

「はぁはぁはぁ」

「お、お姉ちゃん。もう少し休憩していく?」

「ううん。大丈夫……大丈夫」

「体、震えてるけど……」

「あ、足ががくがくでね、心配かけさせてごめんね」

 魔王軍幹部のサーティーンプリンスター。イレブンスシートのミモザにフォースシートのディノール。

 ものすごい力だった。正直舐めていた、案内人のあたしでも少しは対抗できるって……でもそんなこと一ミリもなかった。

 ミモザの攻撃はなんとか防げてはいたけどあの最後の黒い禍々しいオーラ。本来の力はあっちだ。それにディノール……あの眼光を見た瞬間、あたしの震えが止まらなかった。

 きっとあいつもミモザみたいに力を隠している状態ではあるはずだけど……。

 そんなディノールが四番目。あれよりも更に強いのが魔王を含めて四体。

 おじいちゃんはそんなやつらと戦っていたの……?

 それに比べてあたしは

 あたしは

 あたしはなんて無力なんだ……。

「ぐすっ……だめだ。こんなんじゃ。あたしは何もできなかった」

「お姉ちゃん……」
「ナヴィさん……」

 エンフィーとアミスはそれ以上声を掛けることはなくナヴィの背中を摩りながらゆっくりとした足取りで村へと帰っていった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

DTガール!

Kasyta
ファンタジー
異世界転生したTS幼女がチート魔力で活躍したり、冒険したり、たまに女の子にHな悪戯をしたり、たまに女の子からHな悪戯をされたりするお話。 基本的に毎週土曜日0時に最新話を公開。 更新できないときは近況ボードにて事前報告すると思います。

英雄はのんびりと暮らしてみたい!!誤って幼児化した英雄は辺境貴族生活を謳歌する!

月冴桃桜
ファンタジー
史上最強の英雄は心底疲れていた。それでも心優しき英雄は人の頼みを断れない。例え、悪意ある者たちの身勝手な頼みだったとしても……。 さすがの英雄も決意する。……休みたいと……。 でも、自分が『最強』であり続ける限りは休めないと思い、《すべての力》を魔法石に移して、ある工夫で他人でも使えるようにしようと魔方陣を構築。大魔法を実行。 しかし、何故か幼児化してしまう。しかも、力はそのままに……。 焦るものの、ふとこのままでいいと思い、隠蔽魔法ですべてを隠蔽、証拠捏造。おそらく『自分の弟子』以外には見破れないと思う。 従魔と一緒に旅立つ準備中に屋敷を訪ねて来たとある辺境貴族。事情知った彼の辺境の領地で彼の子供として暮らすことに。 そこで幼児なのにチート級にやらかしていきーー!?

収容所生まれの転生幼女は、囚人達と楽しく暮らしたい

三園 七詩
ファンタジー
旧題:収容所生まれの転生幼女は囚人達に溺愛されてますので幸せです 無実の罪で幽閉されたメアリーから生まれた子供は不幸な生い立ちにも関わらず囚人達に溺愛されて幸せに過ごしていた…そんなある時ふとした拍子に前世の記憶を思い出す! 無実の罪で不幸な最後を迎えた母の為!優しくしてくれた囚人達の為に自分頑張ります!

転生料理人の異世界探求記(旧 転生料理人の異世界グルメ旅)

しゃむしぇる
ファンタジー
 こちらの作品はカクヨム様にて先行公開中です。外部URLを連携しておきましたので、気になる方はそちらから……。  職場の上司に毎日暴力を振るわれていた主人公が、ある日危険なパワハラでお失くなりに!?  そして気付いたら異世界に!?転生した主人公は異世界のまだ見ぬ食材を求め世界中を旅します。  異世界を巡りながらそのついでに世界の危機も救う。  そんなお話です。  普段の料理に使えるような小技やもっと美味しくなる方法等も紹介できたらなと思ってます。  この作品は「小説家になろう」様及び「カクヨム」様、「pixiv」様でも掲載しています。  ご感想はこちらでは受け付けません。他サイトにてお願いいたします。

貴族の家に転生した俺は、やり過ぎチートで異世界を自由に生きる

フリウス
ファンタジー
幼い頃からファンタジー好きな夢幻才斗(むげんさいと)。 自室でのゲーム中に突然死した才斗だが、才斗大好き女神:レアオルによって、自分が管理している異世界に転生する。 だが、事前に二人で相談して身につけたチートは…一言で言えば普通の神が裸足で逃げ出すような「やり過ぎチート」だった!? 伯爵家の三男に転生した才斗=ウェルガは、今日も気ままに非常識で遊び倒し、剣と魔法の異世界を楽しんでいる…。 アホみたいに異世界転生作品を読んでいたら、自分でも作りたくなって勢いで書いちゃいましたww ご都合主義やらなにやら色々ありますが、主人公最強物が書きたかったので…興味がある方は是非♪ それと、作者の都合上、かなり更新が不安定になります。あしからず。 ちなみにミスって各話が1100~1500字と短めです。なのでなかなか主人公は大人になれません。 現在、最低でも月1~2月(ふたつき)に1話更新中…

戦国魔法奇譚

結城健三
ファンタジー
異世界の冒険者が、1570年代の戦国時代に転移してしまう 武田信玄と徳川、織田の連合軍が戦う三方ヶ原 翌年病死するはずの武田信玄の病を治し 変わっていく歴史 しかし転移してきたのは、冒険者だけでは無かった!

目が覚めたら異世界でした!~病弱だけど、心優しい人達に出会えました。なので現代の知識で恩返ししながら元気に頑張って生きていきます!〜

楠ノ木雫
恋愛
 病院に入院中だった私、奥村菖は知らず知らずに異世界へ続く穴に落っこちていたらしく、目が覚めたら知らない屋敷のベッドにいた。倒れていた菖を保護してくれたのはこの国の公爵家。彼女達からは、地球には帰れないと言われてしまった。  病気を患っている私はこのままでは死んでしまうのではないだろうかと悟ってしまったその時、いきなり目の前に〝妖精〟が現れた。その妖精達が持っていたものは幻の薬草と呼ばれるもので、自分の病気が治る事が発覚。治療を始めてどんどん元気になった。  元気になり、この国の公爵家にも歓迎されて。だから、恩返しの為に現代の知識をフル活用して頑張って元気に生きたいと思います!  でも、あれ? この世界には私の知る食材はないはずなのに、どうして食事にこの四角くて白い〝コレ〟が出てきたの……!?  ※他の投稿サイトにも掲載しています。

力も魔法も半人前、なら二つ合わせれば一人前ですよね?

カタナヅキ
ファンタジー
エルフと人間の間から生まれたハーフエルフの子供の「レノ」は幼少期に母親が死亡し、エルフが暮らしている里から追放される。人間を見下しているエルフにとっては彼は汚らわしい人間の血筋を継いでいるというだけで子供の彼を山奥へと放置した。エルフの血を継ぐレノは魔法を使う事が出来たが、純粋なエルフと比べるとその力は半分程度しか持ち合わせていなかった。 偶然にもレノは山奥に暮らしていたドワーフの老人に育てられるが、彼が元剣士だとしってレノは自分に剣を教えて欲しい事を伝える。しかし、ハーフエルフのレノの肉体は並の人間よりは少し高い程度でしかなく、ドワーフと比べたら非力な存在だった。 腕力も魔法の力も半人前、何の取柄もないと落ちこぼれとエルフ達から虐げられてきた彼だったが、ここでレノは気付いた。腕力も魔法の力も半人前ならば二つを合わせれば一人前になるのではないかと―― ――これは世界で初めての「付与魔術」と呼ばれる技術を生み出した少年の物語である。

処理中です...