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第十一章 王都公認案内人 ナヴィ・マクレガン編

163.派遣要請

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 あれからまた数日が経った日の入り時。

「お姉ちゃん。私……もう。無理」

「な、なに言ってるの、まだまだこんなもんじゃないわよ……」

 ナヴィの方の店のカウンターで机に突っ伏しながら会話をしているナヴィとエンフィー。

「お姉ちゃん。私今日何人捌いたと思ってるの?」

「百人くらい?」

「冗談はやめて三百人よ」

「……よく頑張ったわね。後でいい子いい子してあげる」

「いりません。それよりお姉ちゃんの方は?」

「百件ね」

「な、私の三分の一じゃない」

「馬鹿言わないで。上級冒険者の依頼内容はより高度で神経を使うのに……」

「そうだよね……ねぇお姉ちゃん。同行の依頼の方はどうなってる?」

「うーんと三か月先までは入っている状態ね」

「やば……」

「うーんやっぱりあれに頼らざるを得ないかなぁ」

 ナヴィはカウンターの裏から一通の手紙を取り出した。

「ん? 何それ」

「これね、試験が終わった後に本部ってかスーザンさんから届いた手紙なんだけど……」

「手紙……?」

「うん、見てみる?」

 ナヴィはエンフィーにその手紙を渡した。

「どれどれ……。え……うーん、これほんとに頼るの?」

「まぁ、ね。正直今のままでやっていきたい気持ちもあるけど、それでもこの状況が続くならあたしもエンフィーももたないでしょ?」

「それはそうだけど……まぁ、お姉ちゃんがそういうなら……」

「……? 何むくれた顔してるのエンフィー?」

「……何でもない。そろそろ夕飯の支度しよっか」

「え、えぇ」

 そんな悪いことは書いてないはずなんだけどな……。

 とにかく今のままじゃ店の経営とかじゃなくてあたし達が潰れちゃう。とりあえずスーザンさんに相談してみよう。




 それから数日後、王都案内所本部にて。

「スーザンさん! アミスです。スーザンさん宛に手紙届いていたのです! それも三通もです!」

「あら、もう来たのかしら。入っていいわよ」

「ありがとうございますなのです。失礼します」

 秘書室に入ったアミスがそのままスーザンに手紙を手渡した。

「ご苦労様」

「それではアミスはこれで失礼するのです」

「アミス待ちなさい。まだここにいて」

「へ?」

 なんでだろうと思いつつもそれを口にせずスーザンの前で待つアミス。

「ふーん。まぁそりゃそうよね。あんだけ派手にやってたらこういう状況にもなるわ」

「……スーザンさん?」

「あぁ、いや、こっちの話。それよりアミス。あなた今何歳だっけ」

「今年で十六歳ですけど……それがどうかしたのです? っていやなんですかその不適な笑みは」

「ふふ。じゃあもう大丈夫ね。ガイドになってもう半年ぐらいでしょ?」

「は、はぁ」

「はい、この手紙読んでみな」

 スーザンは三通もらったうちの一通をアミスに渡した。

「え? 読んでもいいのですか?」

「えぇもちろん」

「えーなになに」

「王都公認案内所、理事長秘書スーザンアレク殿っと……」
「……ですので大至急本部の人事からマクレガン案内所への派遣をお願い申し上げます……へ? これが何かあるのですか? ってそもそも誰から来てるのか……」

 アミスの質問に対し、呆れた顔をするスーザン。

「あなたねぇ、今読んだ通りよ。まぁ名前自体は封筒に書いてあったけど見ないようにって言ってるしね?」

「……?」

「とりあえずもう一度最後の文を読んでみなさい」

「はぁ……。大至急本部の人事からマクレガン案内所への派遣を……マクレガン? マクレガン!?」

「もう。やっと気づいたのね……アミス」

「マクレガンってあの最近の試験に合格した天才上級ガイドの一人、ナヴィ・マクレガンさんですよね!! うそ!?」

 震える手で手紙を持ちながらぴょんぴょんと飛び跳ねるアミス。

「嘘じゃないわ。彼女の実力ならこうなるのも当たり前よ、で、どうしたい? アミス」

「アミスが行くのです! 行かせてほしいのです!!」

 スーザンの机に両手を置きバシバシと机を叩いた。

「まったく……ほんと子供みたい……」

「え!? それはアミスのことですか!!」

「それ以外に誰がいるのよ」

「うースーザンさんひどいのですぅ」

「ふふ、まぁあなたナヴィさん大好きだからね」

「はい! あの最終試験での活躍はもちろんですが、本部にファイリングされている一次試験のナヴィさんの見事な解答の数々! 一言一句全てに感動したのです!」

「今の子たちにもあれくらいやってもらわないとね」

「はい! 頑張るのです!」

「まぁ、あなたがまだナヴィさんの元に行くかは分からないわ」

「え? そういえば残りの二通って」

「頭のキレるあなたならもうわかってるでしょ、アミス」

「まさか!?」

 あることに気づき目を見開くアミス。

「えぇ。仕事中だと思うけど、リタとセクトを呼んできてもらってもいいかしら?」

「リタとセクトですか? わかりました! すぐ連れてくるのです!」

 ナヴィからの手紙を持ったままアミスは秘書室を飛び出した。

「アミス。嬉しいのはわかるけどあそこまではしゃぐか……」

 まぁいい。人材の確保も大切だけど内部の人間の成長はそれ以上の価値になる。

「有能な人材にはその有能さを引き継がせる有能な部下を配置すべしっと」

「さぁてこれからまた忙しくなるわよ!」 
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