162 / 262
第十一章 王都公認案内人 ナヴィ・マクレガン編
162.大繁盛
しおりを挟む『王都公認案内人適性試験』から一週間ほど経ったある日。
王都に構えている『王都公認の盾』が飾られているとある案内所にて。
「ここのマップをお願いしたいんだけど……」
「はい、只今」
案内人は店のバックルームに入る。
「ったく……どんだけ冒険者が来やがんだ」
「おいおいケビンだらしねぇな、前もこんな感じだったじゃねぇか」
「うるさいぞ! アーサー。お前も座ってるだけなら手伝え!」
店の中を縦横無尽に走り回り仕事をこなしていくケビン。
「はは、お前がそこまで言うなら手伝ってやらんこともないぜ! 金はいただくけどな」
「はぁ!? いつも俺がどんだけお前にただ働きされてるのか知ってるのか?」
「そりゃ昔からのよしみだろ、な、ほら顔パスってやつだ。それによ……見たか俺の胸のタトゥーを!」
アーサーの胸には六つのタトゥーが浮き上がっていた。それを見たケビンは顔に手を当て大きくため息をつく。
「もう何度も見せられた」
「俺はもうここらじゃ一番の冒険者といっても過言ではない。そんなやつにただ働きさせるのかお前は!」
「知らん。冒険者は冒険者だ。それ以上でもそれ以下でもな。それに……」
「それに……?」
「昔からのよしみっていうんならその概念は俺にも適用されるよな?」
「あ、あはははー? そ、そうか?」
「さぁ、お前のからかうために俺の店に来たその空いている両手を寄越せアーサー」
「あー! 今日もダンジョン攻略頑張るぞー!」
「あ、てめぇ逃げるな!!」
一瞬で店の外に出たアーサーを追いかけるケビン。
「お前が俺クラスにふさわしい案内人になったらいくらでも手伝ってやるよ!」
「……たく。遠くに行っちまったな。アーサー。お前もきっと次回の大規模侵攻に……」
「ケビンさーん! マップはまだ!?」
「すまん、今行く! くそ『王都公認』の名をもらってから明らかに依頼の量とレベルが変わってる……一人じゃ厳しいのか?」
王都ということもあるが俺の店でこの変わりよう。王都の人間しかほとんど来ないから俺の場合はまだ何とかなりそうだが。
王都から離れているルナの店は、さらにはルーカトリ街は上級冒険者がごろごろいることで有名な街だ。それにきっと俺以上に仕事があるだろう……。やってけてるのだろうか……。
ルーカトリ街にある『マリオット案内所』
店の中が狭い分、店外では列を何度も折り返すほどの大行列となしていた。
「あ、店外でお待ちいただいている冒険者の皆様、もう少々お待ちください!」
「えぇーもう一時間も待ってるよ!!」
「足疲れたわぁ」
「もう今日クエストできないじゃん」
「すみませんすみません!」
「その占いもうちょっと早くできないの?」
「すみません、占い自体のスピードは早くすることはできますが精度が著しく落ちてしまうので、皆様の安全を考慮するとおすすめはできません」
「あっそ、俺らも上級冒険者として忙しいんだから時間無駄にさせないでよね」
「か、かしこまりました……」
もう……あれから一週間ずっとこんな感じで休めないよ。
ルーカトリ街は上級冒険者も案内所の数も多いから分散していたはずなのに一気にわたくしのお店に集中しちゃってる。
それにあの物陰からじっとわたくしを見ている人……あれは向かいの案内所の……。
「おーい早くしてくれ!」
「は、はい!」
わたくしは日ごろ上級の冒険者の方のサポートをしている分数が増えただけですが、ナヴィさんたちは心配ですね。
あの活躍の仕方を知られればみんなナヴィさんのところに行くはず……。
でもナヴィさんたちの村は出発したての冒険者のほとんどが一番始めに向かう村。
「大丈夫でしょうか……ナヴィさん」
同じころ、オリバービレッジ『始まりの村』のマクレガン案内所にて。
店の扉が開いた。
「あのーすみません。案内人適性試験に合格したナヴィさんって方はいますかー?」
「わ、私です。冒険者様、大変申し訳ないのですが店の外で列ができていると思うので最後尾にお願いします!」
「え……この大行列って……」
「はい……全て私へ依頼しようとしている冒険者様です」
「嘘でしょ……だって何回折り返してるのあの大行列……」
「すみません。私も把握しかねています」
「そうかぁ、じゃあまた来るよ」
「またお待ちしております」
ちょっと待って、今の人もレベル四十クラス!?
ここ『始まりの村』よね……?
ちょっと来すぎじゃない?
王都公認の名をもらってからか上級冒険者の数が一気に増えて一つ一つの案件を捌ききる時間があまりにも長い……。
それに同行もこんなに。
「ちょっとエンフィーに連絡してみますか……」
簡易的な通信魔法を使い、隣に構えている初心者向けの案内所にいるエンフィーに連絡を取った。
「あーエンフィー? そっちの様子はどう?」
「いや、もう大変だよぉ。上級冒険者以外はみんなこっちだからお姉ちゃんの店の行列と同じぐらいできちゃってるよ……」
「ごめんね、いつまで続くかわからないけど、とりあえず稼ぎ時だと思って頑張りましょ!」
「はぁ。お姉ちゃんポジティブだね。でも異論はないよ!」
「マクレガン姉妹の力存分に発揮しましょ!」
0
お気に入りに追加
26
あなたにおすすめの小説
異世界王女に転生したけど、貧乏生活から脱出できるのか
片上尚
ファンタジー
海の事故で命を落とした山田陽子は、女神ロミア様に頼まれて魔法がある世界のとある国、ファルメディアの第三王女アリスティアに転生!
悠々自適の贅沢王女生活やイケメン王子との結婚、もしくは現代知識で無双チートを夢見て目覚めてみると、待っていたのは3食草粥生活でした…
アリスティアは現代知識を使って自国を豊かにできるのか?
痩せっぽっちの王女様奮闘記。
悪役貴族の四男に転生した俺は、怠惰で自由な生活がしたいので、自由気ままな冒険者生活(スローライフ)を始めたかった。
SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
俺は何もしてないのに兄達のせいで悪役貴族扱いされているんだが……
アーノルドは名門貴族クローリー家の四男に転生した。家の掲げる独立独行の家訓のため、剣技に魔術果ては鍛冶師の技術を身に着けた。
そして15歳となった現在。アーノルドは、魔剣士を育成する教育機関に入学するのだが、親戚や上の兄達のせいで悪役扱いをされ、付いた渾名は【悪役公子】。
実家ではやりたくもない【付与魔術】をやらされ、学園に通っていても心の無い言葉を投げかけられる日々に嫌気がさした俺は、自由を求めて冒険者になる事にした。
剣術ではなく刀を打ち刀を使う彼は、憧れの自由と、美味いメシとスローライフを求めて、時に戦い。時にメシを食らい、時に剣を打つ。
アーノルドの第二の人生が幕を開ける。しかし、同級生で仲の悪いメイザース家の娘ミナに学園での態度が演技だと知られてしまい。アーノルドの理想の生活は、ハチャメチャなものになって行く。
ブチ切れ世界樹さんと、のんびり迷宮主さん
月猫
ファンタジー
異世界へ拉致された主人公。目が覚めた先はボロボロの世界樹の中だった?!
迷宮の主となった主人公は、ダンジョンの能力【創造】により全く新しい”モノ”を世界に作り出し、現状の打破に挑む。
新しい魔物を創ったり、予想外な成長に困惑したり。
世界樹の愚痴を聞いたり、なだめたり。
世界樹のため、世界のため、世界樹の治療と環境改善を目指し、迷宮はどんどん大きくなる。そんなお話。
始めは少々危険な場面がありますが、ダンジョンが成長してからはその様な場面は少なくなり、周りの生物の方がダンジョンに抗う感じになります。
俺TUEEEならぬ、ダンジョンTUEEEもの。チート能力ならぬ、チートダンジョンの予定。
(チート能力者が居無いとは言っていない)
初投稿です。山なし谷なし作品ですが、暖かい目でみてください。
異世界なのだから、元の世界の常識が当てはまらなくても、おかしくないのでは? をコンセプトに、スキルやら魔法やらの仕組みを表現できたらと思っています。
※「小説家になろう」にも掲載
※ストックが切れたら、更新が遅くなると思います、ご容赦下さい
「第2章開始」エレ レジストル〜生き残り少女の冒険録〜
望月かれん
ファンタジー
エリスは生まれつき魔力の高い一家「テオドール」の生き残り。
武器より魔法が優遇されるこの世界では喉から手が出るほど欲しがられる人材だった。
両親と別れ、幼い頃身につけた薬学を活かして自作薬を売りながらひっそりと生きていた。
しかし、ある行動が発端で出自を疑われ、
国から追われることになってしまう……。
※この小説は「小説家になろう」にも
掲載しています。
一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!
当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。
しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。
彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。
このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。
しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。
好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。
※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*)
※他のサイトにも重複投稿しています。
【本編完結済み/後日譚連載中】巻き込まれた事なかれ主義のパシリくんは争いを避けて生きていく ~生産系加護で今度こそ楽しく生きるのさ~
みやま たつむ
ファンタジー
【本編完結しました(812話)/後日譚を書くために連載中にしています。ご承知おきください】
事故死したところを別の世界に連れてかれた陽キャグループと、巻き込まれて事故死した事なかれ主義の静人。
神様から強力な加護をもらって魔物をちぎっては投げ~、ちぎっては投げ~―――なんて事をせずに、勢いで作ってしまったホムンクルスにお店を開かせて面倒な事を押し付けて自由に生きる事にした。
作った魔道具はどんな使われ方をしているのか知らないまま「のんびり気ままに好きなように生きるんだ」と魔物なんてほっといて好き勝手生きていきたい静人の物語。
「まあ、そんな平穏な生活は転移した時点で無理じゃけどな」と最高神は思うのだが―――。
※「小説家になろう」と「カクヨム」で同時掲載しております。
王女の中身は元自衛官だったので、継母に追放されたけど思い通りになりません
きぬがやあきら
恋愛
「妻はお妃様一人とお約束されたそうですが、今でもまだ同じことが言えますか?」
「正直なところ、不安を感じている」
久方ぶりに招かれた故郷、セレンティア城の月光満ちる庭園で、アシュレイは信じ難い光景を目撃するーー
激闘の末、王座に就いたアルダシールと結ばれた、元セレンティア王国の王女アシュレイ。
アラウァリア国では、新政権を勝ち取ったアシュレイを国母と崇めてくれる国民も多い。だが、結婚から2年、未だ後継ぎに恵まれないアルダシールに側室を推す声も上がり始める。そんな頃、弟シュナイゼルから結婚式の招待が舞い込んだ。
第2幕、連載開始しました!
お気に入り登録してくださった皆様、ありがとうございます! 心より御礼申し上げます。
以下、1章のあらすじです。
アシュレイは前世の記憶を持つ、セレンティア王国の皇女だった。後ろ盾もなく、継母である王妃に体よく追い出されてしまう。
表向きは外交の駒として、アラウァリア王国へ嫁ぐ形だが、国王は御年50歳で既に18人もの妃を持っている。
常に不遇の扱いを受けて、我慢の限界だったアシュレイは、大胆な計画を企てた。
それは輿入れの道中を、自ら雇った盗賊に襲撃させるもの。
サバイバルの知識もあるし、宝飾品を処分して生き抜けば、残りの人生を自由に謳歌できると踏んでいた。
しかし、輿入れ当日アシュレイを攫い出したのは、アラウァリアの第一王子・アルダシール。
盗賊団と共謀し、晴れて自由の身を望んでいたのに、アルダシールはアシュレイを手放してはくれず……。
アシュレイは自由と幸福を手に入れられるのか?
スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活
昼寝部
ファンタジー
この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。
しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。
そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。
しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。
そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。
これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる