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第十章 王都公認 案内人適性試験 最終試験 決勝戦編

135.私たち

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 ナターシャの <ボルティクサイズ>を全身で受けたサテラは数秒間倒れたままの状態でいた。

「サテラちゃん!」

「ま、まさか、本当に一瞬で終わっちゃうなんて」

 スーザンはサテラの様子を確認しようとフィールドの中に入ってきた瞬間。

「まだ……まだ戦えます」

 剣を杖のように扱いながらなんとか身体を起こしたサテラ。

「サテラちゃん。本当に大丈夫?」

「大丈夫です。スーザンさん。試合は続きます。早く外へ……」

「う、うん」

 スーザンを外へ出るように促したサテラ。

「ナターシャ。試合はまだ始まったばかりよ」

 サテラはぎこちなく双剣を構えなおす

「そのボロボロの身体じゃ何もできないよ。サテラ」

「はぁぁぁ!」


 そこから数分間、サテラはナターシャの攻撃を受け続けた。

「サテラちゃん! もうやめて、あたしもう棄権を」

「ナヴィさんやめてください!」

 サテラは後ろにいるナヴィに届く声で叫んだ。

「え!?」

「私はそんなこと頼んでません、勝手に自分の判断で決めるのはやめてください」

「でもそれじゃあなたの身体が」

「だから私はそんなこと望んでない!」

「……サテラちゃん」

「それに私はまだ何も力を出してない」

「!? あの構えは! <ウインディアフォースフィールド>を展開する構え」

 でも……その弱点はすでにケビンは掴んでるはず……。

「はぁぁぁぁ!」

 魔法を放つ構えに入り、魔力を溜めるサテラ。

「ケビンさんの言った通りだ」

「うそ、もう私の懐に……」

「あの大技を放つときのこの大きな隙、ダリウスは見逃してたけど、『あたし達』は見逃さないよ」

「これで倒れなさい!」
<バーニングサイズ!>

 サテラの懐からナターシャの炎を纏った大鎌の一撃が炸裂した。

「がはっ!」

「サテラちゃん!」

 やっぱりあの技は隙が大きすぎる。それに<ウインディアフォースフィールド>は膨大な量の風を扱うため大量の魔力消費とそれを一点に集中させる繊細な魔力コントロールが必要になる……。

 あんなボロボロの身体と精神状態でできるものじゃない。

 精神状態……。これってあたしのせいだ……。でもサテラちゃんに案内人としてのあたしの声は届かない。

「う!」

 ナターシャの攻撃を受け続けたサテラはナヴィの目の前まで後退させられていた。

「サテラちゃん!」

「話しかけないでください! 今のあなたとは話すつもりはありません」

「え……」

 今のあたし……。

「案内人ではなく、私が知りたいのはナヴィさんとしての答えです」

 サテラは顔を横に向けた。ナヴィはその横顔を見て目を見開いた。

「サテラちゃん……」

「そんな話しながらじゃあたしの攻撃は避けられないよ!」

「ナターシャ! くっ!」

「しぶといなぁ! さっさと倒れて! っよ!」

「きゃっ!」


「サテラちゃんもうやめて、立ち上がらないで! それ以上攻撃を受けるとあなたの身体は……」

 ナヴィは涙目になりながらサテラに訴えかけた。

「はぁ、はぁ。いいえ、まだです」

「サテラ……ちゃん」

 ナターシャはサテラの前に立ち大鎌を振りかざした。

「まだ立ち上がるの? 正直これ以上は私の良心が痛むんだけど……」

「はぁ、はぁ、まだよナターシャ。だって私はまだ立ち上がれるでしょ。それに……」

「……?」

「サテラちゃん……?」

 サテラは振り返り、ナヴィの顔を見る。



「『私たち』の力はまだ一パーセントも出してない!」


「!?」
 サテラちゃん……。もしかして、まだあたしを。


「はぁぁ!」

 サテラは左の剣で大鎌を受け止め右手でナターシャを振り払う。

「くっ、どこにまだそんな力が……」

「ナターシャ。力が弱まってるよ」
<ウインドスラッシュ!>

「ぐあぁ!」

 風を纏ったサテラの短剣が初めてナターシャに攻撃を通した。

「ちっ、攻撃を受けながら反撃の機会を狙っていたのか。ナターシャ。大丈夫か!?」

「ケビンさん……大丈夫です。ぷっ」

 ナターシャは口の中で流血していた血を吐き出した。

「ケビンさん。ごめんなさい。あたしやっぱりこのままじゃサテラを倒しきれない。あれを使います」

「……そうみたいだな。だが。百パーセントはだめだ。セーブしながらやれ」

「分かってます」

 ナターシャは肩に担いでいた大鎌を下に降ろし、ゆっくりと息を吐きながら体勢を低く取り始めた。

「はぁぁぁぁぁ」



「ルナ見て! あの構え! あれはおいらの時と同じ」

 観戦していたロイが隣にいるルナの裾を引っ張りながら話す。

「えぇ、あれは……もう決めに掛かろうとしている。けど……」

「ん? どうしたのルナ」

「あの時感じた時よりも……なんていうか……浅い?」

「浅い?」

「んー詳しいことは分からない。けど、一つ言えるのは、あの時に使った代物とは少し違うってことね」

 どういうことかしら。もしかして手を抜いて勝とうとしてるつもりなんですか? ケビンさん……。




「サテラ、あなた一人でも十分強くなったのね……」

「あ、当たり前でしょ」

「でも、あなた一人で強くなったわけじゃない」

「……それは」

「だから今一人で戦おうとしているあなたにあたしは倒せない。これで決めてあげる。はぁぁぁぁぁ!」

「な、すごい覇気、それにこの魔力は……」

 ……って見惚れてる場合じゃない、今がチャンスだ! もう一度<ウインドスラッシュ>を。

 サテラはナターシャとの距離を詰め、攻撃を仕掛けようと走り始めた。

 その瞬間だった。

<バーサーク>

 小声でそう唱えると、ナターシャの身体から虎模様の痣を纏い、筋肉が浮き上がり始めた。


「ガァァァ!」

 ナターシャの咆哮がサテラの足を止めた。

「しまった……遅かったか!」

「ふぅー。さぁサテラ。こっからはあたしの本気の力だよ」

「の、望むところよ」

 その様子を見たナヴィはナターシャのあることに気づき驚いた。

 まずい、この状態じゃ流石に……って待って、ナターシャちゃんのあの<バーサーク>。

 なんで普通に話せてるの……?
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