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第十章 王都公認 案内人適性試験 最終試験 決勝戦編

134.独り

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 時間の経過とともに溝が深まるナヴィとサテラ。

 そのぎくしゃくとした関係は修復しないまま決勝戦の開始時刻となる。

 入場口ではナヴィペア、ケビンペアの二組が並んで待っていた。

 サテラの横に立っていたナターシャが小声でサテラに話しかける。

「ねぇサテラ」

「なにナターシャ、もうすぐ試合が始まるよ」

 サテラは目を合わせないままナターシャに言葉を返す。

「あ、うん、そうなんだけど……ナヴィさんと何かあったの?」

 そのナターシャの言葉を聞いてサテラは眉間にしわを寄せた。

「何も。ナターシャ、あなた私の心配している暇あるの?」

「……そうなんだけど、控室から気になっちゃってて」

「そんな気持ちで戦うんだったら今日は『私』が勝たせてもらうから」

「サテラ……」


 その様子を見ていたケビンは隣で顔を下に向けていたナヴィの肩を叩いた。

「おい、サテラに何をした?」

「あ、あたしは、何も……」

「いや、何もしてなかったらこんなにならんだろ……」

「……実は」

 ナヴィは一連の経緯をケビンに話した。

「なるほどな」

「ねぇ、あたし何がいけなかったんだろう」

「ナヴィ。お前がサテラに掛けた言葉は案内人としては正解かもしれない。だがな、案内人がこうした方がいいと思うことと、冒険者が掛けてほしい言葉は違う。それが分からないのならば。今日の勝負の勝敗はもうついた」


『では、選手に入場してもらいましょう! まずはケビン、ナターシャペア!』


「スーザンさんの声だな。先に行く」

「え、えぇ」

「ふっ、サテラも気の毒だな」

「どういうこと?」

 ケビンとナターシャがフィールドに向かって歩き出す。

 ケビンはその歩き出しの瞬間にナヴィを一度ぎろりと睨む。

「自分のことを信じてくれない案内人とペアを組まされたことが、だ」

「違う! あたしは……」

「サテラが負ける姿を指くわえて見ていろ」


ナターシャとケビンは二人の様子を話し合いながらフィールドへと歩いていた。

「ケビンさん、サテラは……」

「あぁ、ばらばらだ」

「なんでここに来て、『私が勝たせてもらう』だなんて」

「ナターシャ、同情はするな」

「分かってます。こういう形での試合になったのは不本意ですが。全力で叩き潰します」

「分かってるならいい」


『二人が到着しました! 続いてナヴィ、サテラペアです!』

「行きますよナヴィさん」

「……えぇ」

 ナヴィの後ろにいたサテラは一人で歩き始めた。

 ナヴィはその後を追うようにサテラの後ろを歩く。


「ナヴィさん。さっきも言った通り私は一人で戦います」

「……」

「ですからアドバイスもタイムアウトも必要ありません」

「サテラちゃ……」

「私は私一人でナターシャとケビンさんに勝ちますから」

「……」

 サテラちゃん。一度もあたしの顔を見ないし、振り返ろうともしない。やっぱり本当に独りで……。




「ハンナさん」

「なにエンフィー?」

「私が昨日一日中買い物している間に二人に何があったんですか? 観客席からでもわかりますよ二人の空気感が良くないこと」

「んーそうだなぁ、何があったかって言われればそういえばあったような、なかったような……」

「む、私と武器屋で買い物している間にいなくなったくせに……」

 エンフィーは頬を膨らませ目を細めてハンナを睨む。

「あはは、ごめんごめん。まぁ詳しいことは試合を見ながら話していくよ」

「え、なんでですか?」

「エンフィーには二人の関係がどんな感じなのか、試合を見ればわかると思うよ」

「今二人が歩いている時でも十分わかるのですが……」

「そうだね、でももっとわかると思う。それに……」

「それに?」

 この気持ちは案内人には分からない。僕のような同じ冒険者にしか分からないんだ。案内人は共感することはできるけど、その気持ちを共有することはできない。

「ナヴィ。君はここからどうするんだい……」


『両者フィールドに揃いました! それでは案内人はフィールドの外へ、アカデミー生は距離を取ってください』


「ねぇ、サテラ」

「なに」

「あたしは今のあなたには絶対に負けないよ……」

 サテラを憐れむ顔をするナターシャ。

「何その顔……同情なんて敵に向けるものじゃないよ」

「だってサテラ、あなた両手が震えてるじゃない」

「え……」

 あれ、なんで……。

「そんな状態で本当に戦えるの?」

「う、うるさい! そんなのやってみなきゃわからないでしょ!」

「あたしには今のサテラはナヴィさんという翼が無くなった小鳥にしか見えないよ」

「ナターシャ。あなた、私が一人でじゃ戦えないって言いたいの」

「うん。今のあなたなんて何も怖くない。言ったでしょ。翼が無くなったただの小鳥だって」

 その言葉を聞いたサテラはいつもの優しい眼差しからは想像もできないほどの鋭い目つきに変わり、ナターシャに突っ込んでいった。

「ナターシャァァァ!」


「え、ちょっとサテラちゃん! 私まだ試合開始って言ってないわよ!」

「大丈夫です。スーザンさん。始めてください」

 ナターシャは落ち着いた声のままスーザンに試合開始の促した。

「もう、しょうがないな!」

『し、試合開始!』

 突っ込んでくるサテラに見て、ナターシャは大鎌を構える。

「ごめんねサテラ。一瞬で終わらせてあげるから」

 ナターシャの魔力が蓋を開けたかのように一気に噴き出した。

「!? うそ、なにこの魔力……」

 驚きから減速したサテラに対し、ナターシャはサテラとの距離を一気に詰めた。 

<ボルティックサイズ!>

「ぐあああぁぁぁぁぁ!!」

「サテラちゃん!」

 サテラを呼ぶナヴィの声とナターシャの攻撃が直撃したサテラの叫び声が会場中に響いた。
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