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第十章 王都公認 案内人適性試験 最終試験 決勝戦編
133.ねじれ
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ルナからテリウスの話を聞いた翌日。
ナヴィはサテラとともに朝早くから壁外で最後の特訓を行っていた。
「はぁ!」
<ウインディアフォースフィールド!>
二人の周りに台風並みの強さを持つ風が出現する。
「よし! ここで一気に固めて……っわ!」
「サテラちゃん!」
サテラはその風を凝縮させようとした瞬間、コントロールを見誤り風のフィールドを固めている最中に破裂させてしまう。
そしてサテラ自身もその破裂の勢いに吹き飛ばされた。
「う、うぅ」
「少し休憩しようか……?」
「……はい」
サテラの鼻に絆創膏を貼るナヴィ。
「あ、ありがとうございます」
「いいのよ、それよりもどうしたの? ここに来て技の成功率が落ちてきてるけど」
「はい、自分自身でも分からないんです。ダリウスと戦った時は確実に成功するっていうイメージがあったのですが……」
「ですが?」
「なんというか、あのナターシャの<バーサーク>の姿を見て、勝てるイメージが想像できなくて……魔法を使うたびに手が震えるんです。あの子に勝てないんじゃないかって」
しゅんとした表情を見せるサテラに対し、ナヴィは優しくサテラの頭をなでる。
「ナヴィさん」
「サテラちゃん。勝つことももちろん大事だけどそんなに気負わなくていいのよ」
「え、何を言っているんですかナヴィさん」
サテラは予想外のナヴィの言葉に目を丸くする。
「サテラちゃん、決勝まで来れただけでも本当にすごいことなんだよ。だからその決勝戦であたしはあなたが特訓の成果をしっかりと出し切って自信に繋げてくれればそれでいいと思ってるわ」
「でもそしたら、ナヴィさんは公認の案内人には……」
「あぁ、まぁその時はその時よ。別に今すぐじゃなくてもいいしね……きっと次回にでも」
「良くないです!」
サテラの割れんばかりの大声が草原に響き渡った。
「え……サテラちゃん?」
「良くないです! ナヴィさんはそれでいいんですか、私が負けてもいいんですか!?」
「サテラちゃん……落ち着いて。あたしが言ってるのはそういうことじゃなくて」
ナヴィは苦笑いをしながらサテラの両肩を持とうとするが、サテラはその手を払い、すっと立ち上がる。
「今日の残りの時間は私一人で特訓させてください」
「あ、ちょっと、サ、サテラちゃん! 待って」
ナヴィは無理やり引き留めようとするも全速力で走り出したサテラには間に合わなかった。
「サテラ……ちゃん」
ナヴィのサテラに向かって出された右手からはどんどんとサテラが小さくなっていく。
「あーあ、やっちゃったねナヴィ」
「ハンナ……今日はあたしたち二人だけの特訓だって言ったのに……」
「ちょっと散歩がてらで見に来たら、何やってんのさナヴィ」
「見てたの……?」
「ナヴィ。あれは流石に僕でも怒るよ。あれじゃ負けてもいいよって言ってるようなもんだよ」
「え、あたしはそんなつもりでいったんじゃ……」
「それは君が案内人だからだ。さっきのナヴィの寄り添い方は冒険者を目指す彼女にとっては一番聞きたくない言葉だっただろうね」
「あたしはサテラちゃんの無事を第一に考えて……」
「それはサテラちゃんが望んでそうしてほしいって言ったことなの?」
「……そ、それは……」
「ナヴィ。それは君の慢心だ、僕にはどうすることもできない。案内人として、冒険者にどう寄り添うべきか、ちゃんと考えるべきだと思う」
「そんなの……」
「とにかくあの様子じゃサテラちゃんは戻ってこないだろうね」
「ナヴィも少し疲れてるだろう。休みながら考えてごらん」
ハンナはあたしにそういうと王都へ帰っていった。
あの振り返りざまのハンナの冷たい失望したような目は初めて見た……。
あたしはどうすればよかったのかしら……。
そして、ハンナの言った通り、その日サテラちゃんは最後まであたしの前には来なかった。
決勝戦当日。
控室ではナヴィとサテラ、ケビンとナターシャがそれぞれ準備をしてた。
「ケビンさん、ケビンさん」
ケビンの耳元で囁くナターシャ。
「何だナターシャ」
「あの二人の様子なんか変じゃないですか?」
「そうだな、一昨日まではあんなに仲良さそうに話してたのに」
「何かあったんですかね」
「知らん。それよりナターシャ、今は試合に集中しろ。昨日通りにやればお前は勝てるぞ」
「もちろんです。この心配はいったん飲み込んであたしが勝ってから聞きたいと思います」
「よし、それじゃ。勝ちに行くぞ」
「はい!」
先に準備を終えたケビンとナターシャが控室を出て行った。
サテラはその二人の姿羨むようなを目で見届け、再度準備に手を動かす。
それまでお互い口を閉じたまま準備を行っていたがサテラの様子を見たナヴィが口を開けた。
「サテラちゃん。あの、昨日は」
「あぁ、大丈夫ですよ。ナヴィさん」
ナヴィの話を真顔で食い気味に返すサテラ。
「え、じゃあ昨日のことは」
「もう昨日のことは気にしていません」
「……?」
「私は今日一人で戦うので」
「え……」
準備を終えたサテラはナヴィをおいて控室を出て行った。
「サテラちゃん……」
ナヴィはサテラとともに朝早くから壁外で最後の特訓を行っていた。
「はぁ!」
<ウインディアフォースフィールド!>
二人の周りに台風並みの強さを持つ風が出現する。
「よし! ここで一気に固めて……っわ!」
「サテラちゃん!」
サテラはその風を凝縮させようとした瞬間、コントロールを見誤り風のフィールドを固めている最中に破裂させてしまう。
そしてサテラ自身もその破裂の勢いに吹き飛ばされた。
「う、うぅ」
「少し休憩しようか……?」
「……はい」
サテラの鼻に絆創膏を貼るナヴィ。
「あ、ありがとうございます」
「いいのよ、それよりもどうしたの? ここに来て技の成功率が落ちてきてるけど」
「はい、自分自身でも分からないんです。ダリウスと戦った時は確実に成功するっていうイメージがあったのですが……」
「ですが?」
「なんというか、あのナターシャの<バーサーク>の姿を見て、勝てるイメージが想像できなくて……魔法を使うたびに手が震えるんです。あの子に勝てないんじゃないかって」
しゅんとした表情を見せるサテラに対し、ナヴィは優しくサテラの頭をなでる。
「ナヴィさん」
「サテラちゃん。勝つことももちろん大事だけどそんなに気負わなくていいのよ」
「え、何を言っているんですかナヴィさん」
サテラは予想外のナヴィの言葉に目を丸くする。
「サテラちゃん、決勝まで来れただけでも本当にすごいことなんだよ。だからその決勝戦であたしはあなたが特訓の成果をしっかりと出し切って自信に繋げてくれればそれでいいと思ってるわ」
「でもそしたら、ナヴィさんは公認の案内人には……」
「あぁ、まぁその時はその時よ。別に今すぐじゃなくてもいいしね……きっと次回にでも」
「良くないです!」
サテラの割れんばかりの大声が草原に響き渡った。
「え……サテラちゃん?」
「良くないです! ナヴィさんはそれでいいんですか、私が負けてもいいんですか!?」
「サテラちゃん……落ち着いて。あたしが言ってるのはそういうことじゃなくて」
ナヴィは苦笑いをしながらサテラの両肩を持とうとするが、サテラはその手を払い、すっと立ち上がる。
「今日の残りの時間は私一人で特訓させてください」
「あ、ちょっと、サ、サテラちゃん! 待って」
ナヴィは無理やり引き留めようとするも全速力で走り出したサテラには間に合わなかった。
「サテラ……ちゃん」
ナヴィのサテラに向かって出された右手からはどんどんとサテラが小さくなっていく。
「あーあ、やっちゃったねナヴィ」
「ハンナ……今日はあたしたち二人だけの特訓だって言ったのに……」
「ちょっと散歩がてらで見に来たら、何やってんのさナヴィ」
「見てたの……?」
「ナヴィ。あれは流石に僕でも怒るよ。あれじゃ負けてもいいよって言ってるようなもんだよ」
「え、あたしはそんなつもりでいったんじゃ……」
「それは君が案内人だからだ。さっきのナヴィの寄り添い方は冒険者を目指す彼女にとっては一番聞きたくない言葉だっただろうね」
「あたしはサテラちゃんの無事を第一に考えて……」
「それはサテラちゃんが望んでそうしてほしいって言ったことなの?」
「……そ、それは……」
「ナヴィ。それは君の慢心だ、僕にはどうすることもできない。案内人として、冒険者にどう寄り添うべきか、ちゃんと考えるべきだと思う」
「そんなの……」
「とにかくあの様子じゃサテラちゃんは戻ってこないだろうね」
「ナヴィも少し疲れてるだろう。休みながら考えてごらん」
ハンナはあたしにそういうと王都へ帰っていった。
あの振り返りざまのハンナの冷たい失望したような目は初めて見た……。
あたしはどうすればよかったのかしら……。
そして、ハンナの言った通り、その日サテラちゃんは最後まであたしの前には来なかった。
決勝戦当日。
控室ではナヴィとサテラ、ケビンとナターシャがそれぞれ準備をしてた。
「ケビンさん、ケビンさん」
ケビンの耳元で囁くナターシャ。
「何だナターシャ」
「あの二人の様子なんか変じゃないですか?」
「そうだな、一昨日まではあんなに仲良さそうに話してたのに」
「何かあったんですかね」
「知らん。それよりナターシャ、今は試合に集中しろ。昨日通りにやればお前は勝てるぞ」
「もちろんです。この心配はいったん飲み込んであたしが勝ってから聞きたいと思います」
「よし、それじゃ。勝ちに行くぞ」
「はい!」
先に準備を終えたケビンとナターシャが控室を出て行った。
サテラはその二人の姿羨むようなを目で見届け、再度準備に手を動かす。
それまでお互い口を閉じたまま準備を行っていたがサテラの様子を見たナヴィが口を開けた。
「サテラちゃん。あの、昨日は」
「あぁ、大丈夫ですよ。ナヴィさん」
ナヴィの話を真顔で食い気味に返すサテラ。
「え、じゃあ昨日のことは」
「もう昨日のことは気にしていません」
「……?」
「私は今日一人で戦うので」
「え……」
準備を終えたサテラはナヴィをおいて控室を出て行った。
「サテラちゃん……」
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