123 / 262
第九章 王都公認 案内人適性試験 最終試験 準決勝編
123.少し上で
しおりを挟む
マーラに再開したあの日から俺は仕事に行かず、自室に引きこもり続けていた。
カーテンも閉め切っているが、今日はその隙間から差し込んでくる朝日がいつにも増して眩しく感じる。
あの日、彼女にあぁは言われたが俺はお前とじゃないと意味がないんだ……お前に何と言われようと俺はもう案内人はやらない。
「ごめん、マーラ。俺はこれからどうすれば……」
その瞬間部屋の外からガンガンとノックをする音が聞こえてきた。
「おい、ブラン。いるんだろ! 俺だ、出てこい」
「……マスター」
なんでマスターがここに。きっと仕事を勝手にさぼってた俺を見かねて家まで来たのだろう。でもまぁ顔も合わせずらいし居留守を使えば……。
「ブラン、今日来たのは仕事のことじゃない。手紙だ。マーラからの」
え、マーラからの……?
「俺宛だったがもう一通入っていて、これを今日お前に渡してほしいと書いてあってな。それを届けに来た」
マーラからの、マーラからの……。
「て、がみ、です、か?」
「何だ、出てこれるじゃないか。片言になっているが大丈夫か」
「マスター、す、すみません、俺……」
「髪の毛伸びたなぁ。体も一回り小さくなったんじゃないか? ご飯も食べてないだろ。ほら、ハンバーガー買ってきたぞ。これでも食え」
マスターはこんな迷惑かけてばかりの俺なんかにいつも優しくしてくれる。本当に心の温かい人だ。
「どうぞ、中に入って下さい。汚いし臭いですが」
「あ、あぁ」
マスターは床に散乱している服やごみを踏まないように避けながら椅子に腰かけた。
「マスターそれでマーレからの手紙って」
「そうだな、これだ」
「ありがとうございます」
俺はその手紙の日付を確認して驚いた。
「マスターこの日付って……」
「あぁ、お前がマーラの実家に行って実情を知る前日に送られてきた手紙だ。お前には今日渡してほしいと俺宛の手紙に書いてあってな」
「なんでそんなこと……」
「そりゃお前にこうなってほしくなかったからだろ」
「え……?」
「まぁいいや、細かいことはもう言わない。後はその手紙読んで飯食ったらじっくり考えろ。案内所はお前がいなくてもなんとか回ってる。お前の気持ちの整理がついたらでいい。俺はお前の帰りを気長に待ってるよ。それじゃあな」
マスターはそういうとさっき通ったルートをそのままなぞり、部屋を出て扉をゆっくりと閉めて出て行った。
「マスター……」
俺は封を開け二つ折りになった手紙を黙読した。
ーーブランへーー
ブラン。元気してる?
ってんなわけないか。多分君はマスターに言われてそのまま実家に来て、きっと私の姿を見ちゃったもんね。
そのくせ、私達の夢も勝手にブラン一人に背負わせちゃったし。本当にごめんなさい。
あ、この手紙、字が私の字じゃないのはお母さんに代筆してもらってるからね。そりゃ腕が動かないんだから書けるわけないし。
さて、君は今きっと大好きな私がこんな姿になって落ち込んで仕事にもいけてないんじゃないかな?
気持ちはわかる。だって同じ仕事仲間なのに、あんなに頑なにダンジョン同行を止めるんだもん。
でもね、もしそうだったとしたら、私は君を怒るよ? だって私が託した夢を放棄されたってことだよね。
ブラン。あなたはもう私のことなんて心配しなくていいんだよ。だってもう。私は……。
とにかく、君がスーパーアドバイザーになって私の前に現れてくれることを楽しみにしてるよ。
あなたが案内人として輝ける日が来ることを願って、私は少し上の方で待ってます。
それじゃ、また会いましょう。愛してるわ。ブラン。
ーーマーラよりーー
「……なんだよこれ、お前。なんでそんな嘘ついたんだよ。少し上って……お前もうここにはいないのかよ。ふざけんなよ。なんでそんなことする必要があったんだよ。なぁ、マーラ」
この手紙、濡れていた紙が渇いたようなしわがある……きっとおばさんもそれを知りながら書いたんだよな。
「それに……また俺が濡らしちまった……」
「マーラ、お前がここまで言うなら……俺は……必ず」
それから一か月後。
「いらっしゃいませ、お、ブラン。帰ってきたな!」
「はい。マスター」
マーラ。俺は君の言った通り俺たちの夢を叶えてみせる。
「ん? なんか顔つきが変わったな。目つきとか鋭くなったんじゃないか?」
「それなりの覚悟だと思っていただければ」
だけど、君のやり方では、だめだった。
「ふむ。まぁいいだろう。なら早速今日から働いてもらうぞ」
「はい。よろしくお願いします」
冒険者はただの探検好きや武器好き、身の程をわきまえない奴らばかりだ。俺はマーラをあんな姿にした冒険者を絶対に信用したりしない。
「この数か月お前への依頼が溜まってるんだ。頑張って消化しろよ」
「任せてください」
俺は、俺のやり方でスーパーアドバイザーになる。
「お、ブランさんが戻ってる!」
「いらっしゃいませ、冒険者様」
そしていつか必ず君の前に……。
カーテンも閉め切っているが、今日はその隙間から差し込んでくる朝日がいつにも増して眩しく感じる。
あの日、彼女にあぁは言われたが俺はお前とじゃないと意味がないんだ……お前に何と言われようと俺はもう案内人はやらない。
「ごめん、マーラ。俺はこれからどうすれば……」
その瞬間部屋の外からガンガンとノックをする音が聞こえてきた。
「おい、ブラン。いるんだろ! 俺だ、出てこい」
「……マスター」
なんでマスターがここに。きっと仕事を勝手にさぼってた俺を見かねて家まで来たのだろう。でもまぁ顔も合わせずらいし居留守を使えば……。
「ブラン、今日来たのは仕事のことじゃない。手紙だ。マーラからの」
え、マーラからの……?
「俺宛だったがもう一通入っていて、これを今日お前に渡してほしいと書いてあってな。それを届けに来た」
マーラからの、マーラからの……。
「て、がみ、です、か?」
「何だ、出てこれるじゃないか。片言になっているが大丈夫か」
「マスター、す、すみません、俺……」
「髪の毛伸びたなぁ。体も一回り小さくなったんじゃないか? ご飯も食べてないだろ。ほら、ハンバーガー買ってきたぞ。これでも食え」
マスターはこんな迷惑かけてばかりの俺なんかにいつも優しくしてくれる。本当に心の温かい人だ。
「どうぞ、中に入って下さい。汚いし臭いですが」
「あ、あぁ」
マスターは床に散乱している服やごみを踏まないように避けながら椅子に腰かけた。
「マスターそれでマーレからの手紙って」
「そうだな、これだ」
「ありがとうございます」
俺はその手紙の日付を確認して驚いた。
「マスターこの日付って……」
「あぁ、お前がマーラの実家に行って実情を知る前日に送られてきた手紙だ。お前には今日渡してほしいと俺宛の手紙に書いてあってな」
「なんでそんなこと……」
「そりゃお前にこうなってほしくなかったからだろ」
「え……?」
「まぁいいや、細かいことはもう言わない。後はその手紙読んで飯食ったらじっくり考えろ。案内所はお前がいなくてもなんとか回ってる。お前の気持ちの整理がついたらでいい。俺はお前の帰りを気長に待ってるよ。それじゃあな」
マスターはそういうとさっき通ったルートをそのままなぞり、部屋を出て扉をゆっくりと閉めて出て行った。
「マスター……」
俺は封を開け二つ折りになった手紙を黙読した。
ーーブランへーー
ブラン。元気してる?
ってんなわけないか。多分君はマスターに言われてそのまま実家に来て、きっと私の姿を見ちゃったもんね。
そのくせ、私達の夢も勝手にブラン一人に背負わせちゃったし。本当にごめんなさい。
あ、この手紙、字が私の字じゃないのはお母さんに代筆してもらってるからね。そりゃ腕が動かないんだから書けるわけないし。
さて、君は今きっと大好きな私がこんな姿になって落ち込んで仕事にもいけてないんじゃないかな?
気持ちはわかる。だって同じ仕事仲間なのに、あんなに頑なにダンジョン同行を止めるんだもん。
でもね、もしそうだったとしたら、私は君を怒るよ? だって私が託した夢を放棄されたってことだよね。
ブラン。あなたはもう私のことなんて心配しなくていいんだよ。だってもう。私は……。
とにかく、君がスーパーアドバイザーになって私の前に現れてくれることを楽しみにしてるよ。
あなたが案内人として輝ける日が来ることを願って、私は少し上の方で待ってます。
それじゃ、また会いましょう。愛してるわ。ブラン。
ーーマーラよりーー
「……なんだよこれ、お前。なんでそんな嘘ついたんだよ。少し上って……お前もうここにはいないのかよ。ふざけんなよ。なんでそんなことする必要があったんだよ。なぁ、マーラ」
この手紙、濡れていた紙が渇いたようなしわがある……きっとおばさんもそれを知りながら書いたんだよな。
「それに……また俺が濡らしちまった……」
「マーラ、お前がここまで言うなら……俺は……必ず」
それから一か月後。
「いらっしゃいませ、お、ブラン。帰ってきたな!」
「はい。マスター」
マーラ。俺は君の言った通り俺たちの夢を叶えてみせる。
「ん? なんか顔つきが変わったな。目つきとか鋭くなったんじゃないか?」
「それなりの覚悟だと思っていただければ」
だけど、君のやり方では、だめだった。
「ふむ。まぁいいだろう。なら早速今日から働いてもらうぞ」
「はい。よろしくお願いします」
冒険者はただの探検好きや武器好き、身の程をわきまえない奴らばかりだ。俺はマーラをあんな姿にした冒険者を絶対に信用したりしない。
「この数か月お前への依頼が溜まってるんだ。頑張って消化しろよ」
「任せてください」
俺は、俺のやり方でスーパーアドバイザーになる。
「お、ブランさんが戻ってる!」
「いらっしゃいませ、冒険者様」
そしていつか必ず君の前に……。
0
お気に入りに追加
26
あなたにおすすめの小説
悪役に転生したけどチートスキルで生き残ります!
神無月
ファンタジー
学園物語の乙女ゲーム、その悪役に転生した。
この世界では、あらゆる人が様々な神から加護と、その神にまつわるスキルを授かっていて、俺が転生した悪役貴族も同様に加護を獲得していたが、世の中で疎まれる闇神の加護だった。
しかし、転生後に見た神の加護は闇神ではなく、しかも複数の神から加護を授かっていた。
俺はこの加護を使い、どのルートでも死亡するBADENDを回避したい!
【書籍化進行中】魔法のトランクと異世界暮らし
猫野美羽
ファンタジー
※書籍化進行中です。
曾祖母の遺産を相続した海堂凛々(かいどうりり)は原因不明の虚弱体質に苦しめられていることもあり、しばらくは遺産として譲り受けた別荘で療養することに。
おとぎ話に出てくる魔女の家のような可愛らしい洋館で、凛々は曾祖母からの秘密の遺産を受け取った。
それは異世界への扉の鍵と魔法のトランク。
異世界の住人だった曾祖母の血を濃く引いた彼女だけが、魔法の道具の相続人だった。
異世界、たまに日本暮らしの楽しい二拠点生活が始まる──
◆◆◆
ほのぼのスローライフなお話です。
のんびりと生活拠点を整えたり、美味しいご飯を食べたり、お金を稼いでみたり、異世界旅を楽しむ物語。
※カクヨムでも掲載予定です。
貴族の家に転生した俺は、やり過ぎチートで異世界を自由に生きる
フリウス
ファンタジー
幼い頃からファンタジー好きな夢幻才斗(むげんさいと)。
自室でのゲーム中に突然死した才斗だが、才斗大好き女神:レアオルによって、自分が管理している異世界に転生する。
だが、事前に二人で相談して身につけたチートは…一言で言えば普通の神が裸足で逃げ出すような「やり過ぎチート」だった!?
伯爵家の三男に転生した才斗=ウェルガは、今日も気ままに非常識で遊び倒し、剣と魔法の異世界を楽しんでいる…。
アホみたいに異世界転生作品を読んでいたら、自分でも作りたくなって勢いで書いちゃいましたww
ご都合主義やらなにやら色々ありますが、主人公最強物が書きたかったので…興味がある方は是非♪
それと、作者の都合上、かなり更新が不安定になります。あしからず。
ちなみにミスって各話が1100~1500字と短めです。なのでなかなか主人公は大人になれません。
現在、最低でも月1~2月(ふたつき)に1話更新中…
【完結】やり直しの人形姫、二度目は自由に生きていいですか?
綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
「俺の愛する女性を虐げたお前に、生きる道などない! 死んで贖え」
これが婚約者にもらった最後の言葉でした。
ジュベール国王太子アンドリューの婚約者、フォンテーヌ公爵令嬢コンスタンティナは冤罪で首を刎ねられた。
国王夫妻が知らぬ場で行われた断罪、王太子の浮気、公爵令嬢にかけられた冤罪。すべてが白日の元に晒されたとき、人々の祈りは女神に届いた。
やり直し――与えられた機会を最大限に活かすため、それぞれが独自に動き出す。
この場にいた王侯貴族すべてが記憶を持ったまま、時間を逆行した。人々はどんな未来を望むのか。互いの思惑と利害が入り混じる混沌の中、人形姫は幸せを掴む。
※ハッピーエンド確定
※多少、残酷なシーンがあります
2022/10/01 FUNGUILD、Webtoon原作シナリオ大賞、二次選考通過
2022/07/29 FUNGUILD、Webtoon原作シナリオ大賞、一次選考通過
2021/07/07 アルファポリス、HOT3位
2021/10/11 エブリスタ、ファンタジートレンド1位
2021/10/11 小説家になろう、ハイファンタジー日間28位
【表紙イラスト】伊藤知実さま(coconala.com/users/2630676)
【完結】2021/10/10
【同時掲載】小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
目が覚めたら異世界でした!~病弱だけど、心優しい人達に出会えました。なので現代の知識で恩返ししながら元気に頑張って生きていきます!〜
楠ノ木雫
恋愛
病院に入院中だった私、奥村菖は知らず知らずに異世界へ続く穴に落っこちていたらしく、目が覚めたら知らない屋敷のベッドにいた。倒れていた菖を保護してくれたのはこの国の公爵家。彼女達からは、地球には帰れないと言われてしまった。
病気を患っている私はこのままでは死んでしまうのではないだろうかと悟ってしまったその時、いきなり目の前に〝妖精〟が現れた。その妖精達が持っていたものは幻の薬草と呼ばれるもので、自分の病気が治る事が発覚。治療を始めてどんどん元気になった。
元気になり、この国の公爵家にも歓迎されて。だから、恩返しの為に現代の知識をフル活用して頑張って元気に生きたいと思います!
でも、あれ? この世界には私の知る食材はないはずなのに、どうして食事にこの四角くて白い〝コレ〟が出てきたの……!?
※他の投稿サイトにも掲載しています。
拾ったものは大切にしましょう~子狼に気に入られた男の転移物語~
ぽん
ファンタジー
⭐︎コミカライズ化決定⭐︎
2024年8月6日より配信開始
コミカライズならではを是非お楽しみ下さい。
⭐︎書籍化決定⭐︎
第1巻:2023年12月〜
第2巻:2024年5月〜
番外編を新たに投稿しております。
そちらの方でも書籍化の情報をお伝えしています。
書籍化に伴い[106話]まで引き下げ、レンタル版と差し替えさせて頂きます。ご了承下さい。
改稿を入れて読みやすくなっております。
可愛い表紙と挿絵はTAPI岡先生が担当して下さいました。
書籍版『拾ったものは大切にしましょう〜子狼に気に入られた男の転移物語〜』を是非ご覧下さい♪
==================
1人ぼっちだった相沢庵は住んでいた村の為に猟師として生きていた。
いつもと同じ山、いつもと同じ仕事。それなのにこの日は違った。
山で出会った真っ白な狼を助けて命を落とした男が、神に愛され転移先の世界で狼と自由に生きるお話。
初めての投稿です。書きたい事がまとまりません。よく見る異世界ものを書きたいと始めました。異世界に行くまでが長いです。
気長なお付き合いを願います。
よろしくお願いします。
※念の為R15をつけました
※本作品は2020年12月3日に完結しておりますが、2021年4月14日より誤字脱字の直し作業をしております。
作品としての変更はございませんが、修正がございます。
ご了承ください。
※修正作業をしておりましたが2021年5月13日に終了致しました。
依然として誤字脱字が存在する場合がございますが、ご愛嬌とお許しいただければ幸いです。
DTガール!
Kasyta
ファンタジー
異世界転生したTS幼女がチート魔力で活躍したり、冒険したり、たまに女の子にHな悪戯をしたり、たまに女の子からHな悪戯をされたりするお話。
基本的に毎週土曜日0時に最新話を公開。
更新できないときは近況ボードにて事前報告すると思います。
司書ですが、何か?
みつまめ つぼみ
ファンタジー
16歳の小さな司書ヴィルマが、王侯貴族が通う王立魔導学院付属図書館で仲間と一緒に仕事を頑張るお話です。
ほのぼの日常系と思わせつつ、ちょこちょこドラマティックなことも起こります。ロマンスはふんわり。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる