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第七章 王都公認 案内人適性試験編

70.強襲

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「人間の気配?」

 ルナの言葉にナヴィが驚いた。

「これはまずいことになったな」

 ケビンの額から汗が垂れていた。

「ケビンどういうこと?」

「憶測だが、この道の先にはもともとモンスターがいて、その先は多分一本道だろ」

「はい。わたくしの占いでもこの先は一本道だと思います」

「一本道だとどうだっていうの?」

「さっきの人間の気配がするっていうのが問題なんだ。モンスターとの戦闘中だったらまだいいが、もしその戦闘が終わり、先に進まれてたりでもしたら俺らが後手に回る。だがそれよりも怖いのは待ち伏せされて攻撃されることだ」

「……確かに。先に進んでいる方が主導権を握れるのは当たり前のことだよね」

「あぁ、どちらにせよ、ここからは俺達も大きく出なければならないな」

 一度大きく唾飲むナヴィ。その横でルナも不安そうな表情を続けていた。

「ふ、大丈夫だ。何かあったら俺が守ってやる。そのくらいの戦闘技術は身に着けてきたつもりだ」

 前を走っていたケビンは後ろに振り向き二人に微笑んだ。

「ケビン……」
「ケビンさん……」

 なによ。かっこつけちゃって……。

 ケビンの一言に頬を赤らめるナヴィだったが警戒し固くなっていた身体が少しほぐれていくのが実感できていた。

「お二方とも、もうすぐモンスターのいる部屋に到着します!」

「オーケーだ。目の前に見えてるあの部屋だな」


 三人はその部屋に到着した。

 基本的な構造は同じだが、開けた空間となっており、戦闘ができる広いスペースの作りになっていた。

 そして到着した三人の前には大型のカマキリ型のモンスターがすでに死骸となってり横たわっていた。


「う、凄い切り刻まれ方……」

「あぁ、斬撃の跡を見るに相当な剣術の使い手がいるようだ」

「ま、まぁわたくし達がこのモンスターと戦わなくて済むって考えたらラッキーかもしれないですね……」

 でもおかしいわ、それ以外は何もない……。人も出てこないし。やっぱりさっきのはルナの思い過ごしだったのかしら……。


「……!? 二人とも危ない!」

 ケビンがナヴィとルナを横に突き飛ばした。

「「きゃ!」」

 三人に対して、カマキリ型のモンスターの死角から炎属性の魔法攻撃が放たれた。

 間一髪のところで二人を攻撃から遠ざけることができたケビンだったが、腕全体に炎属性の攻撃が直撃し火傷を負った。

「ケビン! 大丈夫!?」

「あぁ。軽い火傷だ問題ない」

 安否の確認が終わり、その後ケビンが向けた視線の先には一人の案内人が立っていた。

「あなたは……」


「やぁナヴィさん」


「ブラン……さん? なんであなたがここに……」


「ふ、そんなの決まってるじゃないか」

 ブランはにやりと笑う。

「君らをここで落とすためさ」


「え……そんな」
「ナヴィ驚いている場合じゃない。迎え撃つぞ。ルナも立てるか?」
「はい、わたくしは大丈夫です」

 態勢を立て直し、三人は武器を構えた。

 それを見たブランは不思議そうな顔をしていた。

「ねぇ、君らちゃんと話聞いてたかな?」

「……どういうことだ」

 ケビンが鋭い眼光で睨みつけながら問いただす。

「君はケビンだろ? 上級クラスの冒険者並みの戦闘力を持つって言われてる。そんな君と戦うつもりはないよ。そもそも倒せるとも思ってないし」

「……?」

「だから言ったじゃん『君らをここで落とす』って」

 するとブランは剣を構え魔力を高め始めた。

「二人とも来るぞ! ナヴィ防御の魔法を」

「ええ、分かってるわ!」

 やばい、このスピードじゃ間に合わないかも……。ブランさんもすごい勢いで魔力を高めてるし。

「ふ、甘いね……」
<ファイアスラッシュ!>

 ブランが剣を一振りすると、炎の斬撃が生まれた。


「あたし達を守って!」
<エアシールド!>

 ナヴィはブランの詠唱を聞いた瞬間に空気の盾を作り出した。


「……てあれ?」

 斬撃が来ていない……そんな、確かに剣には炎が纏わりついていて。

「しまった。そういうことか!」

 何かに気づいたケビンが目を見開いた。

「ふふ、フェイクさ。そして何度も言うが目的は君らを落とすことだよ!」
<ファイアスラッシュ!>

「ナヴィ! 急いで天井に!」

「え! え!?」

 ブランの炎の斬撃は三人ではなくナヴィ達の天井に向かって放たれた。そしてその斬撃で天井の岩を砕きナヴィ達三人の前に大岩がいくつも落ちてきた。

「きゃぁぁぁぁ!」

「ってあんまりあたし達に落ちてきてない……?」

「ナヴィ、ルナ前を見ろ。」

「あ、しまった……」
「そんなこれじゃあわたくし達……」 

 ナヴィ達の前には落下してきた大岩がいくつも積み重ねられ、その大岩が先への道を遮断していた。

「おーい大丈夫かい?」

 積まれた大岩の奥から姿が見えなくなったブランの声が聞こえてきた。

「ブラン! 貴様ぁ!」

 ケビンは叫んだ。

「まさか死んではないよね。さぁ、どうする? 君らの予測は当たっている。ここが一番ゴールに近づける道だよ? 諦めて戻るか、少ない時間でこの大岩を全てどかすか。まぁどちらにしろ君らはもうここで終わりさ」


「ブランさん! 待って、どうして一次試験で優しく話してくれたあなたがあたし達にこんなことするの?」

 ナヴィは大岩のダメージを回復魔法で治しながらブランに尋ねた。

「君ら天才にはわからないよ。僕らの気持ちなんて……。」

 ……え? ブランさん。

「まぁ、君らはもうここで終わりだ。さっさとリタイアした方がいいんじゃないかい? じゃあ僕は先に行ってるパーティーの元へ戻るよ。じゃあね。『三人の若き天才上級ガイド』」

 そうしてブランの足音は徐々にナヴィ達から遠ざかり、やがて聞こえなくなっていった。
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