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第五章 逆襲の『ガイド殺し』 エンフィー奪還編

39.逆襲

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 ナヴィとルナが村に帰ろうとしていた夕暮れ時、エンフィーたちの案内所でも今日の勤務が終わろうとしていた。

「はい、ではそちらの同行依頼はまた後日お知らせしたいと思います!」

 エンフィーは冒険者たちにいつもの営業スマイルをしっかりと見せていた。

「あぁ、ありがとうエンフィーちゃん」

「いえ、むしろナヴィの方が不在している状態で大変申し訳ございませんでした。」

「いいよ、急ぎでもないしこの案内所もだいぶ使う人が増えてきたと思うしな。そんなに気にするこたぁねぇさ、ナヴィちゃんも同行が続いてて疲れてるだろうし」

「ありがとうございます、そういっていただけるとナヴィも助かると思います」

 ほんとエンフィーちゃんの笑顔は素敵だなぁ

「あのーどうされたんですか?」
 苦笑いで冒険者を見つめるエンフィーに冒険者も緩んでいた顔を元に戻す。

「あ、そういえばエンフィーちゃん」

「はい?」

「今日って駆け出し冒険者用の店は閉まってたけど何かあったのかい?」

「え? そんなことはないはずですが……」

「俺が店に来る間に何人か駆け出し冒険者らしきやつらとすれ違ったんだがみんな浮かない顔してたが……」

 なんでだろ、デニスさんとは朝会って今日の仕事内容確認してそれっきりだったけど。

「それに、俺も見てきたけどこっちの店はもうすぐ閉まるけど、一時間前くらいにはもうクローズになってたよ」

 手に顎を乗せ顔を傾けるエンフィー。

「そう……ですか、少し終わった後向こうの者と話してみますね。」

「まぁ別に大した事ねぇからそんなに気にしなくてもいいと思うけどな。あはは」

「こちらとしては職務怠慢ですので、きつく叱らなければなりませんから」

「おぉおっかねぇ」

「当然です! ご飯もちゃんと食べさせてあげてるのに。働かざるもの食うべからずです!」

 ただのパンとスープだけだけどね。

「じゃあそういうことで、また来るよ! ナヴィちゃんにもよろしく伝えておいてくれ」

「かしこまりました。またお待ちしております」

 エンフィーは深々とお辞儀をした後、営業スマイルだった顔が鬼の形相へと変わっていた。

「あのポンコツ冒険者デニスめ……絶対許さん。私の魔法でぼこぼこにしてやる」

 エンフィーは看板をオープンからクローズに反そうと、玄関の扉に手を掛けるとちょうど外側から誰かが開け始めたのに気が付いた。

「ん? デニスさん?」

「エンフィーさんお疲れ様です」

 何も知らないという顔をしていたデニスにエンフィーは腹を立て、その場で叱り始めた。

「デニスさん! あなたどうして今日店のクローズを早めたりしたの?」

「いえ、そんなことはしてないですよ」

「とぼけないで、駆け出し冒険者様が来てたけど情報もらえなかったり、クローズの看板になってるのが早かったって情報が来てるのよ」

「あはは、ばれてしまっていましたか。それは失敬」

「事情を話してくれるかしら」

「準備、ですかね」

 準備? そんな準備するようなことあったっけ……それに、あれ、後ろに人影が。

「何の準備かしら」

 警戒態勢になり魔力を溜め始めるエンフィー。

「やめてくださいエンフィーさん。我々はあなたには手を出しません。それに何の準備をしているかを教える必要もありません」

「え? 我々? ねぇ、その後ろの人たち。私あなた達をどこかで見た気はするのだけど気のせい?」


「あ? 気のせいだろ」
 大盾使いの男が小指を耳に入れながら話す。

「そーそー初対面よあたし達」
 弓使いの女もそれに続いた。

「ごめんなさい、大人しくしてくださいね」
 魔法使いの男は軽くお辞儀をする。


 デニスパーティーがどうして、ばらばらになったはずじゃ……

「さぁエンフィーさん、大人しく我々の人質になってくれませんか? そうすれば手出しはしません」

 またその不気味な笑み……最近もしてた。もうすでに作戦は企てていて、決行がお姉ちゃんがいない日ってことね。

「どうせ、ガイドにコケにされた腹いせでお姉ちゃんを殺そうっていう魂胆でしょ。相変わらずしょうもないわね。デニス」

「何のことでしょうか」

 デニスの顔色が変わった。それは完全に犯罪者の目をした人殺しの顔だった。

「甘いわね。私もお姉ちゃんの妹なのよ。なめてもらっちゃ困るわ」

 よし。魔力も練り上げれた。

「く、何か来るぞ! 警戒しろ!」

 デニスパーティーは防御の構えに入った。

<ブラックスモッグ!>

 エンフィーを中心に黒い煙が放出された。

「くそ、見えねぇぞ」

「落ち着け、目を凝らせば見えなくもない」

<インビシブル!>

「どこにもいないじゃない!」

「今<インビシブル>の魔法陣が一瞬見えました。多分視認じゃ無理です」


 よし今なら村の人に助けを求められる。村の冒険者様やハンナさんがいればこいつらには勝てるはず。とりあえずここから逃げないと。

 エンフィーは<インビシブル>で体を透明にし、デニス達の間を抜けていった。

 間を抜けていく瞬間、エンフィーは黒い煙からデニスパーティーが全員にやりと笑っているのが見えた。

 なんでこいつら笑ってるの……何かまだ策が? まぁいい。考えている暇はない。今は走らなきゃ。

 ここの庭を抜ければ!

 庭の出口のところでごんっという鈍く重い音とともにエンフィーは何かにぶつかった。

「いった! な、なに? 何もないのに、なんで」

「おっと、お嬢ちゃん前を見ないと危ないぜ」

 エンフィーの目の前には<インビシブル>の効果が切れ姿を現した、槍使いの新手の冒険者が立っていた。

「そんな……」

「<インビシブル>を使えるのはお嬢ちゃんだけじゃねーよ?」
 槍使いもデニス達同様にやりと笑った。

 ここまで想定していたの? やられた。おそらく五人ではなくもっといるはず。

「ちょっと眠っててくれよな」

 槍使いは槍の先端をくるりと変え、石突をエンフィーに思い切り差した。

「がぁ。ぐっ」

 突かれた腹を抱えて倒れこんだエンフィー。

「よくやった」
 デニス達が近づいてくる。

「まぁな、さぁ連れて行こうぜ」

 エンフィーの目の前は徐々に暗くなり始めた。

「お、おねえ……ちゃん。」

「しぶといな、もう一発食らわせてやれ」

 上から見下ろすデニスの声がかすかに聞こえた。

「あいよ」

「お、お姉ちゃん。ご、ごめん……」

 次の一突きでエンフィーの目の前は真っ暗になった。

「あぁ、何の準備という質問に答えてあげましょうかね、エンフィーさん」



「『逆襲』の準備。ですよ」
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