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第三章 冒険者同行編

24.『冒険者』と『ガイド』

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「これまでの罪を身をもって体感してもらう」
 デニス達を睨みつけたケビン。

 その後ずんずんとした足音がケビンの背後から近づいてくる。。

 ゆっくりとケビンが後ろを振り返ると、そこには鬼の形相でデニス達に向かうナヴィの姿だった。

 その顔はケビンも驚きを隠せないほど恐ろしかった。

「ねぇ」
 縄で木に縛られ、座らされているデニス達をナヴィは上から見下ろした。

「さぁどういうことか教えてもらおうじゃないの」

 くそ、さっきからこんなことばっかだ……アーサーやあの娘二人にも言われっぱなしだ。

 デニスは少し間を開けてぼそぼそとした声で言い返した。

「お前ら『ガイド』を利用してやったんだ」

「はっ。 何言ってんの?」

 ナヴィのその態度に苛立ちを覚えたデニスは、たまっていたものをすべて吐き出すかのように口を動かした。

「お前らは所詮生まれた時点で人生決まってるんだよ村人風情が!」

 唐突なデニスの叫び声に驚くナヴィ。

「お前ら『ガイド』は冒険者様をサポートするのが仕事なんだろ? ならその命を使ってでも冒険者を守るのは当たりめぇだろうが」

 ナヴィの体が硬直する。

「情報を売ること以外大した活躍もしねぇ、冒険もろくにできねぇが外に出たいと思う『ガイド』達に夢見させてやってんだよ! こんなうれしいことはねえだろ! アーサーもだからそいつを連れてんだろ!」

「おーい人が変わってるぞー」
 アーサーが茶々を入れた。


「お前ら『ガイド』は俺らとは一生かかっても肩を並べることができねぇ奴隷のような存在なんだよ! わかったら骨渡すから尻尾振ってついてくればいいんだよ!」

 デニスの声が草原に響き渡ると一瞬沈黙の間ができた。


「あなたねぇ。言いたいこと言わせておけば……」

 言い返そうと一歩前に出たナヴィの肩をケビンが持った。

「ん? ケビン?」

 デニスの前で大鎌を振りかざした。

「ひっ!」

「ケビン!」
 ナヴィが止めようとするが既にもう振り下ろされていた。

 デニスが恐る恐る目を開けると目の前にはケビンの見開いた紅い目がデニスの目にぴったりとくっついていた。

 そこから数秒ケビンはデニスを殴り続けた。


「これは……さすがに見てられないよ僕」
 見かねたハンナが止めににかかろうとするが、アーサーはすかさずハンナの手を取ってそれを止めた。

「ハンナちゃん。だめだ。これは『冒険者』と『ガイド』の論争だ。今の会話に俺らは介入できない。エンフィーちゃんも分かってるよな」

「……はい」

「エンフィー。でも死んじゃうんじゃ……」

「大丈夫だ。ケビンもあぁ見えて落ち着いている」

 殴り終えたケビンが、縛られている木に叩きつけた。その後血がべっとりと付いた右手でデニスの胸ぐらを掴む。

「おい。雑魚冒険者。いてぇか?」

デニスはもう歯が何本も折れ話すこともままならず、ほぼ瀕死の状態である。また、それをただただ傍観することしかできないデニスパーティーはケビンの姿に震えていた。

 そのままケビンはデニスに語り掛ける。

「お前が逃げた後一人で戦っていたナヴィの痛みはこんなもんじゃねえんだぞ」


 ナヴィがケビンを見つめる。
「ケビン……」

「物理的にだけじゃねぇ、置いてかれる側の気持ちってわかんねんだろうな。てめぇみてぇなクズには」

「なぁ、デニス。おかしいとは思わねぇか? なんで下に見てた『ガイド』にこんなにぼこぼこにされてんだよ」

「デニス。お前の言ってることは半分正解で半分不正解だ」

「俺達『ガイド』は確かにお前たちよりも融通は利かねぇしクラスが上がらねぇと制限ばっかだ」

「それでも、お前らみたいな雑魚冒険者が無駄死にしねぇように毎日毎日働いてるんだよ」

「だが、それを冒険者が奴隷のように扱っていい理由になるのはあまりにもお門違いじゃねぇか?」

「俺は『冒険者』にはなれない。だがお前らも『ガイド』になることはできない」

「俺はこの仕事に誇りを持って取り組んでいる」

「だから。この仕事を馬鹿にするやつは死んでも許さない」

「どんな職業でも、それが例え村人だったとしても、全うすれば輝くことができる」


 ナヴィが目を丸くしケビンを見る。
「え? ケビン。それは……」

「俺の師の言葉だ」

 なんで、ケビン……。

「ケビン。もう気を失っているぞ」

「アーサー。あぁ本当だ。つい」

「まぁいい。こいつも多分反省しただろ」

 ケビンがナヴィの前に立つ。

「すまない、お前も言いたいことがあったと思うのに先に口走ってしまった」

「そ、それは、まぁいいけどさ……」

 ナヴィは少し頬を赤めケビンから目を逸らす。

 ケビン。いいこと言うじゃない……。


「そーだ!ナヴィちゃん」

「なんですか、アーサーさん」

「こいつらをただ王都に連れてくだけじゃつまらないから、何か罰を与えられればなって思ってたんだけど、せっかくだからナヴィちゃんに決めてもらおう」

「え! いいんですか」
 目を輝かせるナヴィ。

「まぁ、被害を受けたのはお前だからな」

「そうね! じゃあ帰るまでにゆっくりじっくり考えさせてもらうわ」

「よし。ほら。ハンナ、エンフィー、早く帰るわよ!」

「あー!今行くよー!」
「待っておねぇちゃん!」


 こうして、五人と縄で縛られたデニスパーティーは密林の神殿を後にし、王都へ帰り始めた。

 そんな帰路での真夜中のことだった。人気のない森で休むナヴィ達。


「ん、なんか起きちゃった」

 ナヴィがテントから出ると外で見張りをしていたケビンの姿が見当たらなかった。

 ケビン?

 遠くから川の流れる音が聞こえてきた。

「ここの近くね。行ってみようかしら」

 誰も起こさないように川に向かうとそこには小さく座り込んでいたケビンがいた。


「…ビン。ケビン!」

「うお、なんだ。お前か」

 びっくりした表情もなんか新鮮だわ。ちょっとかわいいじゃない。

「お前じゃない。ナヴィです」
 そのままケビンの横にちょこんと座った。

「さっきはすまなかった。ナヴィの方がいろいろ思うことあったのに……」

「いいのよ。思ってることはほぼ全部あなたが言ってくれたわ」
 膝を抱えた座り方のナヴィがケビンに優しく微笑みかけた。

 ケビンはそのナヴィの姿に数秒見惚れていた。

「ケビン?」

「ん。んん。ならよかった」
 大げさに咳ばらいをするケビン。

「でもね、あなたには聞きたいことが山ほどあるのよ」

 目を瞑り一度大きく深呼吸をしたケビン。

「まぁそうだろうな」

「じゃあさっそく聞かせてもらおうかしら」


 あなたとあたしの祖父、トニーマクレガンの関係について……。
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