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第三章 冒険者同行編

17.暗雲

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「あいつらの王都での通り名は『ガイド殺し』だ」

「え」
 エンフィーはそれ以上の声が出なくなっていた。

「僕も詳しくはわからないんだけど、王都ではその呼び名で通っているため、ターゲットをその名が周知していないところに移したと聞いてはいたけど。まさかナヴィがそれに掛かるなんて」

 無言でエンフィーが動き始める。奥の部屋に入りガサゴソと部屋を漁り始めた。

「ちょっと、ナヴィちゃん。どうしたの」

「助けに行きます。お姉ちゃんを」
 準備しながらハンナの問いに答えた。

「だめだ、君はまだ外に出たことないだろ。誰も君を守ってやることはできないんだよ?」

 ハンナの言葉をかき消すほどの声でエンフィーは叫ぶ。

「それでも!」

「それでも。もう大切な人がいなくなるのは嫌なの」
 エンフィーは今にも泣きそうな顔になりながらハンナの方を向いた。

「エンフィーちゃん」

 くそ、これはもう聞かないね。

「分かった。エンフィーちゃん。いや、エンフィー。僕は君を止めない」

「え、ハンナさん……」
 ゆっくりと視線をハンナに向けた。


「だけど、僕も同行させてもらう」

 ハンナの胸のタトゥーが三つ光った。

「もうそんなレベルまで……」

 そっか、心配なのは私だけじゃないよね。ハンナさんも心配なんだ。

「僕を連れてく。そして必ず僕の言うことを聞く。それなら許す」
 ハンナはいつもの笑顔でにかっと笑った。

「よ、よろしくお願いします!」
 エンフィーは涙を堪えながらその場に立ち、ハンナにお辞儀をした。

「エンフィー。君は僕が必ず守るよ。ナヴィのためにもね」

「じゃあ準備ができ次第出発しよう」

「はい!」

 エンフィーは店を閉め数刻が過ぎた後、準備ができた二人は店を後にした。


 
 ナヴィ、エンフィーを連れていくことどうか許してくれ。
 そして君に何もないことを心から願う。



 エンフィー達がナヴィを追いかけて三日が過ぎた。



 その頃デニス達はあと少しでダンジョンに着くという位置にまで来ていた。

 ダンジョンまでの道のりは湿地草原になっており動物型のモンスターが時折出現していた。

「ひっ、狼」

「危ない!」
<エアシールド!>

ナヴィは狼型のモンスターに襲われそうになっていた弓使いの手前に見えない盾を出す。

「いい子にしてろよ」
 デニスが盾にぶつかったモンスターを側面から切りつける。
 その一撃でモンスターが倒れて消えていった。

「ありがとうナヴィさん。助かったよ。すごい盾だね」

「いえ、あの盾はまだ下級魔法ですのでそこまでです」

「あら、その言い方まだまだ上がありそうね。流石といったところかしら」

 何なのこの弓使い。この程度のモンスターで……正直足手まといだわ。


「では、先を急ぎましょうデニス様」

「あぁ、引き続き案内を頼むよ」



 ナヴィの案内もありそこから数十分でデニスたちは『密林の神殿』の入り口に着いた。

「ふーようやくここまで着いたな」
 大盾の男が話し始めた。

「はぁここまでのモンスターも結構強かったよね……」
 弓使いの女性はへとへとになりながら話している。


「ナヴィさんの魔法で何とかって感じですよ。流石は『上級ガイド』ですね。実力もしっかりと伴ってますし」
 魔法使いの男も同じようにへとへとである。


 いいや、ある程度のレベルがあればここまでは順調に来れたはず。あたしの見立てではダンジョンまで三日はかからないはずだったわ。


「まぁまずはここまで着いたことを喜ぼう。酒でも飲むか。」
 デニスが倒れていた木に腰を掛けながら言った。

「「いいですね!」」

「ナヴィさんもどうだい?」

「え、えぇ。頂きます」

 大盾使いがついだ酒をナヴィは一口飲んだ。

 何なのよこいつら……。そういえば戦い方もぎこちなかった。これならハンナやサム様達のパーティーの方がよっぽど実力があったわ。なんかいちいち引っかかるのよね。

 頭をガシガシとかくナヴィ。

「少しお疲れですかなナヴィさん」

「デニス様、えぇ三日間ほとんど動きっぱなしだったことがこれまでありませんでしたので」

「あははは、ナヴィさんもまだまだですね。我々は体力だけが取り柄ですので。さて、そろそろ行きましょうかね」

「え、今日行くんですか? せっかくついたのですから今日は休んでしっかりと体力を回復させてからの方が……」

 デニスがナヴィの顔をぎろりと睨む。

 っ!

 その後一瞬で笑顔に戻った。

「大丈夫です。それにナヴィさんも妹さんの元に少しでも早く戻りたいでしょう」

「そ、それはそうですね」

「では、行きましょうか」

 あれ、もしかして、今あたし相当やばいかしら。


 ダンジョンに入ったデニス達。外観はピラミッド型のダンジョンになっており、中はエジプトをモチーフにしたかのような、黄金の壁面と狭い通路が続いていた。

 ダンジョンに出てくるモンスターに苦戦しながらもナヴィのガイドで少しずつだが先に進んでいった。

 ナヴィはその道中でデニスに尋ねた。
「デニス様、失礼を承知でお聞きいたします。改めてですがどうしてこのダンジョンに入ろうと?」

「ふふふ。それはですね。お金ですよ」

「お金?」

「俺達冒険者はダンジョンの完全攻略をしなくても、その詳細を伝えたりするだけでこのレベルのダンジョンだと高額の報酬が得られるのですよ。私たちはそれ狙いなんです」

 レベルも上がるしな……。

「なるほど、ではかなり先に進んだのでそろそろ引き返した方がよいのでは」
 ナヴィの冷たい視線がデニスに向いた。

「それはできません」

「え」

「前を見てください」

「あ、しまった」
 ナヴィの心の声が漏れた。

 そこには黒いオーラをまとっている大きな扉があった。ボスの部屋だ。

 デニスがそのまま話を続ける。

「ここまで来たらもうやるしかないでしょう。大丈夫です。ナヴィさんの補助魔法もありますし、きっと勝てます」

 くそ、またこの歪んだ顔であたしの肩を触りやがって。

 しかし数秒考え、ナヴィは意を決した。

 ここまで来たらもう後には引けない……か。

「分かりました。全力で支援いたしましょう」

「ありがとう。では行きますよ」

 デニスはボスの扉を開けた。



「来たか」
 そこには二本の切れ味鋭い黒刀とアヌビスのマスクを被った人型モンスターが立っていた。 
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