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第二章 初めての王都編

11.『上級ガイド』と『ガイド』

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「え、上級ガイドがいるんですか……」

 驚くナヴィを見た冒険者が話を続けた。

「『上級ガイド』になったのは最近だそうだが、実力的には『上級ガイド』でも上位に食い込むことができるほどだぜ」

 年齢はほぼ同い年。それに実力はすでに『上級ガイド』の上位…。これはこれから先ライバルになりそうな予感がするわ。

 真剣な顔をして熟考する姿を見た冒険者が頭を掻きながらナヴィに言った。

「俺も今からここに入るし、よければ会ってみるかい?」

「え、いいんですか!?」

「情報屋だから別にダンジョン以外でも聞きたいことがあったらいいんじゃないか?」

「確かにそうですね。あ、申し遅れました。あたしナヴィです。よろしくお願いします!」
 ナヴィはぺこりと頭を下げる。

「流石ガイド。礼儀正しいんだな。俺はアーサーだ!よろしく!」

 二人は軽く握手をし、話しながら数十分ほど並ぶと店の奥から若い男性の声が聞こえた。

「次の方どーぞ」

 ドアを開けるとナヴィの店とそう大差ない広さだった。

「うわー、あたし達のお店と同じくらいの狭さね!」

 おい、ナヴィ!悪気がないのはわかるが…。

 アーサーが急いでナヴィの口を手で押さえる。

「何か?」

 目の前には褐色の肌をした男が髪で隠れていない左目でナヴィをぎろりと睨む。

 こ、こわ!これが上級ガイド? とりあえず第一印象は最悪ね。

「お互い様だけど」

「え、どうしてわかったの!?」

「そんな感じがしたから。アーサー、なんでこんなやつ連れてきた」
 ナヴィを睨んでいた目がアーサーに切り替わる。

「あーこの子があんまりにもケビンに会いたいって言ってたから、ついな」

「ケビン? あなたがあのケビン?」
 ナヴィはカウンターを挟んでケビンに近づく。

 凄い。本物だわ。本の中では何回か登場してテリウス様達を助けるのよね。


 ナヴィのサファイアの瞳がケビンに向くと、

 あ……。

 あわてて顔をそらしながらケビンが話した。
「なんだよ。初対面だろ。なんで俺の名前を……」

 まさかな…。

「あ、ま、まああれよ。風の噂ってやつよ。あははは」

 本で見たって言っても信じてくれないだろうしね。

「嘘だな」

「げ。また分かったの」

「お前人間の中でも相当分かりやすい部類だな」
「それでご用件は?」

「あーえーっと。うん。王都に来るのが初めてで魔法適性を調べてくれる場所があるって聞いたんだけどどこにああるのかしら」

「それならこの店を出て右にずっとまっすぐ進むと、魔法道具の絵が描いてある看板が見えてくる。そこだ」

「あ、ありがとう」

 ケビンは手のひらをナヴィに差し出した。

 あら、握手かしら。結構いいやつなのかも…。
 ナヴィも手を差し出そうとすると。

「違う。千ゴールドだ」

「せ!千ゴールド!?今の情報で?」

「うちは高いんだ。嫌なら警備兵に突き出すが」

「わ、分かったわ。分かったわよ!払います。ほら。千ゴールド」

 あたし達の店の十倍。王都が原因なのかケビンの値段設定が原因なのか…。
 本の中ではもっといい人だった気がするんだけどなぁ。

「はい。確かに」

 差し出そうとした瞬間ナヴィの千ゴールドが握られた手をケビンが強引に引っ張り顔を近づけた。

「えっ!」
 ナヴィは動揺した。

「ケビン!」
 アーサーが止めに入ろうとする。

「アーサー大丈夫だ。顔を見ているだけだ。それにこの瞳」
 数秒間、数センチの感覚で二人は無言で向き合う。

 やばい。近くで見るとめっちゃかっこいい……。このままキスとか……。

「……名前はなんだ」

「へっ?」

「お前の名前はなんだ」

「え、あ、あぁ、あたしはナヴィ」

「ナヴィ。下の名前は」
 ケビンの眉間にしわが寄る。

「マクレガン。ナヴィ・マクレガンよ」

 それを聞いたケビンは急に目の色を変え、ナヴィを突き飛ばした。

「いった!ちょっと何するの!」
 ナヴィは壁の方まで突き飛ばされ尻もちをついた。

「ケビンやめろ! この子は関係ない!」
 アーサーが止めにかかるがそれをものともしない力でナヴィに近づいていく。

「ナヴィ。お前が、お前が」

「みんな! 止めてくれ!」
 アーサーが店の中にいた冒険者を呼び、数人の力を借りて何とかケビンを止めることができた。


「お嬢ちゃん?大丈夫かい?」
「え、えぇ。なんとか」
 ナヴィの口から血が流れていた。

 それにしてもすんごい力ね。冒険者よりも強いんじゃ…。

「ん?ポーション……?」

 ナヴィに向かって転がってきた。

 ケビンが尻もちをついたナヴィの前に立ちに吐き捨てるように言った。
「突き飛ばしたことは悪かった。ポーションだ。これを持って出てけ」

 うっざ。

 さっと立ち、スカートに付いたゴミを払った。

「ポーションなんていらない。言われなくても出てくわ。あなたみたいな人が『上級ガイド』だなんて聞いてあきれるわ。ガイドなんてやめてその力で冒険者にでもなれば。もういい。さよなら!」

 ずんずんと店の外に出ようと歩くナヴィ。


 玄関に立つと一瞬ナヴィの体が止まり、体の向きを変え、ケビンの方に近づいてくる。

「なんだ」
 ケビンの冷たく見下すような目は変わっていなかった。

「千ゴールド」

「は」

「あんたあたしに名前聞いたんだから千ゴールド!あたしもガイドなんだしお金を頂くのは当たり前でしょ」

 その言葉を聞いてケビンは目を丸くしたがすぐに先ほどの冷たい目になった。

「フン。これ持ってさっさと出てけ」

「もうこんなとこ一生来ないしあんたにも一生会わないわ。楽しい『上級ガイド』生活を」

 ナヴィは千ゴールドを奪うように取り玄関を出ていった。



 アーサーはカウンターに座った。

「あーあ、怒らせちゃったなケビン」

「うるさいぞアーサー」

「でも、あそこまで取り乱したお前見たの初めてだぞ。そりゃ俺も名前聞いて驚いたけどさ」

「アーサーにはわからないだろ。あの名前は俺にとって特別なんだ。それをあの女は」

「でも、俺はわかるぜ。お前はまたいつかあの子と巡り合う」

「冗談でもやめろ。アーサー」

「そろそろ出発するか。ケビン。さっきの見た感じ体は仕上がってるみたいだしな」

「あぁ。中々だ。今回のダンジョンは骨が折れそうだしな」
 ケビンは店の角に立て掛けられている竜を模した鋼の槍を手に取った。

「今日はもう店じまいだ。残りは一週間後」



 王都の中央広場を歩き門に向かうケビンとアーサーのパーティー。

「おい、あれ噂のアーサーのパーティーと上級ガイドのケビンだよな」

「王都でもトップクラスのパーティーと、ガイドだが戦闘力では並みの冒険者数十人分の戦力を持つケビンか」

 街全体がざわついていたが意に介せずアーサー達は歩く。

「ケビン。お前もだいぶ有名になってきたな」

「ふっ。そりゃアーサーのパーティーに同伴してたらそうなるだろ。いつの間にか胸のタトゥーも五つになったそうじゃないか」

「流石、情報が早いな」

「……」

「ケビン。今ナヴィちゃんのこと考えてたろ」

「アーサー!」
 パーティーのメンバーが止める。

「いつかは和解できるといいな」
 アーサーは笑顔でケビンの方を見たが、ケビンは前を向きながら返した。

「そんな日が来るとは思えない。だが、また巡り合うって言ってたのは何となく俺も感じている。」
「だが所詮はトニーさんの孫娘ってだけだ。トニーさんじゃない。あいつもただのモブだ」
 ケビンの眉間にまたしわが寄った。

「あーはいはい。根に持ちすぎな。そろそろ出るぞ。王都を」

 ナヴィ、お前自身に特に恨みはない。だが俺は常にお前の先をいく。
 トニーさんの最期の言葉を聞くことができたお前だけには絶対に負けない。

 せいぜいのほほんと暮らしているんだな。
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