9 / 11
クーデター:薔薇の女王編
8.アンとクーデターの話
しおりを挟む暖かい風が心地よい。
アンは自分の髪を撫でる柔らかい感触にゆっくりと目を開けた。
「ポポ」
自身を膝枕してくれている栗色の髪の少女にアンは話しかけた。
少女はアンに微笑みかけると優しくアンを撫でる。
アンが視線をずらすと少女のすぐそばで快活そうな青年がこちらを覗き込んでいた。
「また甘えてんのか?」と揶揄うようにアンを見る彼にアンは微笑む。
……あぁ、ここにずっといたい。
この暖かい場所でもう一度眠ろうとすると少女が口を開いた。
「将軍、起きてください」
それは男の低い声だった。
ギョッとなって汗だくで目を覚ますと目の前に美しい少年の顔があった。
シロメだ。
シロメはアンの目が覚ましたとわかるとにっこり笑った。
「お兄さん、起きた?」
「起こすなっていっただろうか!!!」
アンは八つ当たり気味にシロメの顔を枕で殴った。
「お兄ちゃん! おひとつどーだい!」
「こっちも安いよ!!」
朝の市場は活気がある。
屋台の商人の呼びかけをすり抜けながらアンはシロメと歩いていた。
あの後、シロメを殴り二度寝しようとしたアンは彼にベッドから引き摺り出されて一緒に朝食を食べ歩くことになってしまった。その際、明らかにアンサイズの上等な白い服を取り出してきてアンは多いにドン引きながらいつもの灰色のローブを羽織った。
「ひとつくれ」
アンは揚げパンの屋台を見つけて腹持ちも良さそうなので購入した。当然のようにその会計はシロメが払っている。アンは何も考えないことにした。
アンが揚げパンに齧り付くと隣で歩くシロメは「灰色もいいけれどやっぱりお兄さんには白じゃないかな?」と囁いてくる。
白い服は人形将軍のトレードマークだ。
コイツやっぱり皇帝の回し者か? とアンはシロメの顔を見る。
見れば見るほど良い男ではある。浅黒い肌に瑠璃色の瞳が映え、整った顔立ちを包む銀髪が一層彼の魅力を引き立てている。そしてそこに若さゆえの万能感からか不敵な笑みを合わさるときた。女性からしたら目が離せないものがあるだろう。
……そう、魅力的な男ではあるのだが。
「いや、お前汚いな!!!」
アンは思わず叫ぶ。
シロメはキョトンとした目で「なぁにお兄さん?」とアンに問いかける。
アンは目の前の光景が信じられなかった。
シロメはアンと共に買った揚げパンにこれでもかと砂糖をトッピングした後にハチミツをかけてそれを嬉しそうに食べるあまりに口周りがベタベタになっていたのだ。
その様子に本人は気づいていないのがまたミスマッチだった。
シロメはベタベタの顔でいつもの妖しい雰囲気を醸し出しているのだ。
アンは耐えきれなくなり持っていたハンカチをシロメの胸に押しつける。
「ほら! これでふけ!」
「何を?」
「あぁ、もう!」
何も理解していないシロメにアンはめんどくさくなり彼の口元を乱暴に殴ってやった。
アンがゴシゴシと強めに拭いた後にベタベタになってしまったハンカチをシロメに押しつける。
「後で洗ってかえせよ」
「う、うん」
ようやく何が起こっていたのが理解したのかシロメはうっすらと顔を赤らめた。その様子が妙に子供っぽく写り、アンは何とも言えない気持ちになった。
揚げパンを食べた後、アンは胡椒がこれでもかと塗された串焼きにかぶりついていた。隣ではシロメがデザートと評してフルーツに砂糖をまぶしたものを食べている。
「お前いつかデブるぞ……」とアンは心の内で突っ込んだ。
串焼きを早々に食べ終えたアンはニコニコとまだ砂糖フルーツを貪っているシロメに軽い調子で言った。
「腹ごしらえも済んだしここでお別れだ。一晩だけどまぁまぁ楽しかったぜ。じゃあな」
「僕はまだ貴方と一緒にいたいな」
まだ付いてくるつもりかよ。とアンが内心舌打ちする。
アンの苦いは顔にも出ていたのかシロメは「そんなに嫌な顔しないで欲しいな」と笑った。
「僕だったらお兄さんが知りたがってるクーデターの話だって詳しいよ」
「……っ」
アンが思わず反応してしまうとシロメは「やっと僕に興味持ってくれたね。お兄さん?」と口の端を吊り上げた。
0
お気に入りに追加
24
あなたにおすすめの小説
やり直せるなら、貴方達とは関わらない。
いろまにもめと
BL
俺はレオベルト・エンフィア。
エンフィア侯爵家の長男であり、前世持ちだ。
俺は幼馴染のアラン・メロヴィングに惚れ込み、恋人でもないのにアランは俺の嫁だと言ってまわるというはずかしい事をし、最終的にアランと恋に落ちた王太子によって、アランに付きまとっていた俺は処刑された。
処刑の直前、俺は前世を思い出した。日本という国の一般サラリーマンだった頃を。そして、ここは前世有名だったBLゲームの世界と一致する事を。
こんな時に思い出しても遅せぇわ!と思い、どうかもう一度やり直せたら、貴族なんだから可愛い嫁さんと裕福にのんびり暮らしたい…!
そう思った俺の願いは届いたのだ。
5歳の時の俺に戻ってきた…!
今度は絶対関わらない!
平凡顔のΩですが、何かご用でしょうか。
無糸
BL
Ωなのに顔は平凡、しかも表情の変化が乏しい俺。
そんな俺に番などできるわけ無いとそうそう諦めていたのだが、なんと超絶美系でお優しい旦那様と結婚できる事になった。
でも愛しては貰えて無いようなので、俺はこの気持ちを心に閉じ込めて置こうと思います。
___________________
異世界オメガバース、受け視点では異世界感ほとんど出ません(多分)
わりかし感想お待ちしてます。誰が好きとか
現在体調不良により休止中 2021/9月20日
最新話更新 2022/12月27日
悪役令息に憑依したけど、別に処刑されても構いません
ちあ
BL
元受験生の俺は、「愛と光の魔法」というBLゲームの悪役令息シアン・シュドレーに憑依(?)してしまう。彼は、主人公殺人未遂で処刑される運命。
俺はそんな運命に立ち向かうでもなく、なるようになる精神で死を待つことを決める。
舞台は、魔法学園。
悪役としての務めを放棄し静かに余生を過ごしたい俺だが、謎の隣国の特待生イブリン・ヴァレントに気に入られる。
なんだかんだでゲームのシナリオに巻き込まれる俺は何度もイブリンに救われ…?
※旧タイトル『愛と死ね』
【完結】魔法薬師の恋の行方
つくも茄子
BL
魔法薬研究所で働くノアは、ある日、恋人の父親である侯爵に呼び出された。何故か若い美人の女性も同席していた。「彼女は息子の子供を妊娠している。息子とは別れてくれ」という寝耳に水の展開に驚く。というより、何故そんな重要な話を親と浮気相手にされるのか?胎ました本人は何処だ?!この事にノアの家族も職場の同僚も大激怒。数日後に現れた恋人のライアンは「あの女とは結婚しない」と言うではないか。どうせ、男の自分には彼と家族になどなれない。ネガティブ思考に陥ったノアが自分の殻に閉じこもっている間に世間を巻き込んだ泥沼のスキャンダルが展開されていく。
溺愛お義兄様を卒業しようと思ったら、、、
ShoTaro
BL
僕・テオドールは、6歳の時にロックス公爵家に引き取られた。
そこから始まった兄・レオナルドの溺愛。
元々貴族ではなく、ただの庶子であるテオドールは、15歳となり、成人まで残すところ一年。独り立ちする計画を立てていた。
兄からの卒業。
レオナルドはそんなことを許すはずもなく、、
全4話で1日1話更新します。
R-18も多少入りますが、最後の1話のみです。
買われた悪役令息は攻略対象に異常なくらい愛でられてます
瑳来
BL
元は純日本人の俺は不慮な事故にあい死んでしまった。そんな俺の第2の人生は死ぬ前に姉がやっていた乙女ゲームの悪役令息だった。悪役令息の役割を全うしていた俺はついに天罰がくらい捕らえられて人身売買のオークションに出品されていた。
そこで俺を落札したのは俺を破滅へと追い込んだ王家の第1王子でありゲームの攻略対象だった。
そんな落ちぶれた俺と俺を買った何考えてるかわかんない王子との生活がはじまった。
新しい道を歩み始めた貴方へ
mahiro
BL
今から14年前、関係を秘密にしていた恋人が俺の存在を忘れた。
そのことにショックを受けたが、彼の家族や友人たちが集まりかけている中で、いつまでもその場に居座り続けるわけにはいかず去ることにした。
その後、恋人は訳あってその地を離れることとなり、俺のことを忘れたまま去って行った。
あれから恋人とは一度も会っておらず、月日が経っていた。
あるとき、いつものように仕事場に向かっているといきなり真上に明るい光が降ってきて……?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる