異世界攻略コントラクト[2]俺たち in the デス·レース

喪にも煮

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 便器を前にブツを取り出しホッとひと息。ふぅ間に合った。開放感に強張っていた体から力が抜ける。思ったより溜まっていたようで、健康的な放物線を描きながら勢い良く放出する。あのサイダー、俺のだけ利尿剤が入ってたんじゃないか?そう疑いたくなるくらいの量だ。


「キャーー!」


 安堵に呆けていたその時、簡易トイレの外から空気を切り裂くがごとく叫び声が突き抜けた。なんだ、何事だ。だが確認しようにも放尿は直ぐには止まれない。
 聞こえた声が明らかにカッパーレッドの悲鳴だったとしても、外には貧弱小向とレディがいる。焦りだけが先行し、身動きがとれない状況がもどかしい。
 ああなぜ小向を一人置いてきてしまったんだ。一緒に連れてこればよかった。サロメピンクはレンジャー歴が長いから俺の助けなど必要ないかもしれないが小向は別だ。あいつはただの民間人よりもきっと無力だ間違いない。尿意をもよおしてしまった自分を心の底から恨んだ。
 やっと最後の一滴を出しきるか否か、俺はトイレの外に飛び出した。


「げへへゆるさねぇぞおお! こいつらはお仕置きの刑に処す」

「悪い子はたぁーぷりと折檻してやらねえとな。血を抜き取って発酵させて酒池肉林開催してやる!」

「ちょっとどこ触ってんのよ! セクハラよ!!」


 そこには牛と馬の頭をした大柄な二人のヒト型が、小向とサロメピンクを俵担ぎしていた。ガタイがいい二人?は鼻の穴をふがふがと収縮させながら下品な笑い声をあげている。
 牛頭に担がれてるサロメピンクは添えられた手の位置が気に入らないらしくセクハラだと喚き倒していた。でもよく見ると腰の位置だからまだセーフかな?と思う。
 問題は小向だ。小向を担いでいる馬頭は確実に小向の臀部を鷲掴みしている。挙句割れ目に指先が食い込んでいるではないか。あれこそがセクハラだ。


「どういう状況?」

「俺たちが肉食ったのが逆鱗に触れたみたいだ……」

「肉?」


 対角線上にあたる簡易トイレの近くで抱き合いガタガタ震えているカッパーレッドとマラカイトグリーンに事情を聞く。あの二人は牛頭鬼と馬頭鬼と名乗ったらしく、唐突に奇襲をかけられあれよあれよと二人は捕らえられたようだ。
 なんでも肉を食ったのが許せないと。罰を与えると。そう言えばさっきの食事の具材に肉が入っていた。それか。


「まて! 小向はまだ肉を食べていない、無実だ!」


 見ると小向の口からまだパンダのパンの耳が見えている。俺が取り置きしていたシチューは先程の所に置かれたままだ。


「連れて行くなら俺にしてくれ!」

「いやだ。おんながいい」

「おんな? 小向は女じゃないよ!?」

「うるさいうるさいうるさーい! お前は嫌だ! いーやーだー!」


 全力で拒絶され若干凹む。交渉の余地は残されておらず、馬頭鬼は小向を放す気はないようだ。そんなに小向がいいのか。
 カッパーレッドとマラカイトグリーンは怯えているがぶっちゃけあの二人の眼中に入ってない気がする。現に牛頭鬼と馬頭鬼は最初っからサロメピンクと小向を捕らえたらしいし、本当に罰を与えるだけが目的なのか?
 いや違う、少なくとも馬頭鬼は絶対に違う。すごい小向のお尻を撫でているぞ……性的な意味合いがないなんて誰が信じるだろうか。


「そもそも俺たちが食ったの牛肉じゃないし。鶏肉だし」


 カレーには牛肉が入っていた気がするが、まぁいいや。


「鶏肉だからって許されると思うなよ! うちには閻婆先輩がいるんだ。知ったらきっと怒り心頭で暴れまわるぞ」

「えんば先輩?」

「閻婆度処を棲家にする巨鳥だ。あのお方は無慈悲で有名だからな、バレたら俺たちよりもっと酷いことされるんだからな!」

「そうだそうだ俺たちだけだったのを感謝しろ。 俺たちだったら殺すまではしねぇ、さっきは血を抜くとか大袈裟にいったが、ちょっと体におしおきするだけだ……ひさしぶりの生身の肉体だ、げへへ」


 とうとう本音を出しやがった。肉を食べたとかいちゃもんつけているが結局はドスケベしたいだけなんだろう。百歩譲ってサロメピンクは女だから分かる。だがなぜそこで小向をチョイスするかなぁ。変態にモテすぎじゃないか小向。
 ここで二人を連れて行かれたら大変な事になる。いやだって牛頭鬼も馬頭鬼も、身丈二メートル以上ゆうにこえてる大柄だ。無理無理無理無理。
 今にも小向とサロメピンクを抱えたままとんずらしそうな二人組に、焦燥感で心臓がバクバクとうるさい。


「……あんたたち放笑戦隊ダジャレンジャーなんだろ? 戦えるんだろ?」


 怯えている二人に静かに語りかけた。仮にもヒーローを名乗るんだ。地獄の住民に怯えていて世界が救えるのか?仲間を助けられないで世界が救えるのか?笑わせんな。
 俺の声に落ち着きを取り戻した二人の震えは止まった。一歩前に出たカッパーレッドはキッと牛頭鬼と馬頭鬼を見据え、叫ぶ。


「靴がくっついた!」

「……はぁ? なんだこいつ、ダジャレとか言っちゃってるし頭おかしいんじゃねーの? いこうぜ」

「おうおう。ゲヘヘいっーぱい可愛がってーーっ! なんだと、足が動かねえ!!」


 カッパーレッドの技で足を動かせなくなった二人組はあわあわと慌て、俺たちから注意がそれた。いまだ。俺たちは一気に間合いを詰め、戦闘を開始する。


「ボクサーは僕さぁ!」

「カッターを買ったーそして使ったー!」

「魔導師が現れた! まぁどうしましょう!」


 ボクサーになった俺は激しいパンチの雨を降らせた。カッター剣士のカッパーレッドは斬撃だ。杖をふり、敵の服の色を変えていくマラカイトグリーンは今や完璧な魔導師。


「「ギャヒーン!」」


 頭部を集中的に殴られた後に腕の薄皮を血が出ないレベルで切り刻まれ、最終的に漆黒から純白に服の色を変えられた牛頭鬼と馬頭鬼は、腕の中から小向とサロメピンクを放り出して情けない声をあげながら気絶した。ナイスコンビネーション。俺たちの勝利だ。


「やればできるじゃん二人とも」

「ふっ誰にものをいっている……俺は放笑戦隊ダジャレンジャーのリーダーか行レンジャー、カッパーレッドだ」

「同じくま行レンジャー、マラカイトグリーン。正義が勝つのは当たり前さ」


 土壇場での腹のくくり方はさすが歴戦を乗り越えてきただけはある。あんなに怯えていたのに、やる時はやってくれるカッパーレッドとマラカイトグリーンはやっぱり戦隊ヒーローだ。頼りになると見直した。


「二人とも大丈夫?」


 放り出されて地面に転がっている二人に駆け寄る。サロメピンクはもうすでに起き上がっており、土をはらいながら自嘲の笑みを浮かべていた。


「セクハラにカッとなって技を忘れてしまったわ。まだまだね私も」


 助かったわありがとう。そう呟くサロメピンクはしかし、自分も戦隊ヒロインだというプライドからすごく悔しそうだった。気を失っている牛頭鬼を足蹴にしてストレスを発散している。
 小向はというと


「もぐもぐもぐ」


 パンダのパンの耳まで口の中に頬張り、パンダのパン完食を目指して奮闘中だった。
 あまりにも食べることに一生懸命で起き上がる事を忘れているようなので、しょうがないから抱き起こしてやる。ついでについた土もはらってやった。
 だがお尻についた土をはらっている時、俺は衝撃の真実を目の当たりにする。お尻のとこ破れてる!!小向のバトルスーツのお尻の割れ目の部分が切り裂かれて中身が見えそうになっていた。少し動けばペロンとめくれそうなくらい裂けている。事実、土をはらった衝撃でちょっと見えた。
 あの変態馬面……事もあろうに俺の目の前で堂々と変態行為を小向に強いていたなんて。
 さっきトイレで確認したが変身するとノーパンになるらしく、バトルスーツの中はすっぽんぽんだった。故にバトルスーツを突破されると途端にそこは無防備になる。


「じー」


 馬頭鬼への怒りに燃えぷるぷるとうち震えてる俺は、ふと視線を感じて顔を上げた。正体は目の前の小向で、その視線は俺というより俺の下の方を見ている気がする。視線を辿り、俺は視線の意味を悟った。


「……へんたい」


 どうやら俺はトイレを出る時慌て過ぎて、ナニをしまい忘れていたようです。
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