まだ部屋のないメイドです。

炭酸水『しっぽのきもち』

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ワインと花束

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 夜のオークラルドの大通り、ビアホールでフィンリーとウォルターは遅い食事を取っていた。外は雪が降り始めていた。

 灯る明かりにタバコの煙が重なり、ビアグラスや食器が重なる音、懇談する紳士達の声が賑やかな店内。ホテルには歩いて帰れる距離で、二人はのんびりと今日の成果を語り合っていた。

 ただでさえ煩いビアホールに、けたたましいサイレンの音が乱入する。近くで火災が起きたと、店の玄関際では騒ぎとなった。

 ウォルカーがガタンと音を鳴らして立ち上がり、フィンリーを促す。「ホテルの方かもしれない! 」と険しい顔をすると、二人は混乱するビアホールの人集りを掻き分け、店外に飛び出した。

 解体前の古いホテルだ。防災設備も不十分。燃えやすい条件が揃っている……嫌な予感が的中した。本来なら街灯がその元だけを照らす程度の暗がりが、ホテルから立ち上がる炎が通りの石畳みをオレンジ色に染め上げていた。

「上階……僕たちの部屋が燃えている! 」

 苦々しい顔でフィンリーとウォルカーは、野次馬の隙間をぬってホテルの前に駆け出した。雪と火の粉が舞って、冬の冷気に熱風が混ざる。

「マティー、ルナ!! 」

 野次馬の人垣を超えると、消防隊に止められた。火の手は、ホテルの下にまで降りて、どの窓からも真っ赤な炎が噴き出している。

「ここのホテルのオーナーの身内だ!通してくれ! 」

 息を切らしながらウォルカーが頼むが、消防隊が「危険だ! 下がれ! 」と力づくで野次馬の中に押し返された。声を荒げ抵抗すると、近くにリーザが立っていた。

「リーザ!! 」

 何故こんなところに! という言葉を喉に押し込み、ウォルカーとフィンリーが見たリーザの横顔は、赤々と照らされ笑っている様にも見えた。

「リーザ!! 」

 二度呼び掛けると、リーザが振り向いた。「お兄さま、フィンリー様? 」と、おっとりと反応するリーザの腕をウォルカーは掴んで引き寄せた。

「すまない、リーザを安全な場所に連れて行く」

「ああ! 」

 ウォルカーにそう告げられてフィンリーは残されると、野次馬の後方を回り込んでホテルの裏側に走った。

 燃え盛るホテルに打つ手がなかった。周りの建物への延焼を止めようとする消防隊の動きは忙しなく、人々を避難させる動きの合間に、二人の姿が見えた。

「ルナ! マティー! 」

 安堵の声を上げてフィンリーは二人に駆け寄った。すすけたシーツを被って、ルナとマティーは肩を寄せ合っていた。二人の手には、花束とワインが握り締められていた。それを見て、フィンリーは苦笑した。

「……君たちは、パーティーの準備中だったんだね」

「ま、そんなところね」

 マティーが腰に手をやってワインを構えて見せると、ルナも花束を口元まで寄せるとくすりと笑う。

「危うく自分たちが香草焼きになるところだったわ」

 と、答えた。
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