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一章〜はじまり〜
透明の私
しおりを挟むこれは、中学3年生の少女。平崎梨奈の話だ。
私は観察が得意だ。
本当の私はいない、存在しない、透明だ。
私は私じゃない。だから、私は周りのみんなを観察する。観察して、真似をして生きている。
これが私の特技、かな。
この特技のおかげで、私は今この場所にいる。そう、救われてきた。
クラスでは、明るく目立ってる子達のそばにいつも居るから、私は「ぼっち」になんてならない。一人になっても、すぐに「友達」が寄ってくる。
「可愛い」「すごい!」「いいなぁ」「私も嫌い」
こんな単純な単語を使って、悪口に共感したり、自慢話に付き合ってあげて、自分はあなたを慕ってる、ということを表明すれば友人関係は完成する。簡単。
絆とかそんなの一ミリもない。なくてもいいと思ってる。
だけど本当にこの場所が好きなんだ。いじめられたり、はぶかれたりすることもなく、毎日楽しく過ごせる、この人間関係の立ち位置が。
そんな、透明な私に、色付き始める出来事があった。
私のクラスに「夏輝」という女子がいた。
夏輝はクラスで唯一悪目立ちしている女子だ。
夏輝が悪目立ちし始めたきっかけは、本当にくだらなかった。
体育祭のリレー練習についてクラスで話し合いをしている時だった。
「みんなで話し合って順番を決める方がいいと思います。リレーは、配点高いし、出席番号なんかで決めたらまた隣のクラスのC組に負けるに決まってます」
夏輝が意見を言った。言っただけだ。
しかしクラスのみんなの反応はつれなかった。
だって、今までの話し合いで、「時間は無い」という理由で出席番号順か、誕生日順かで話していたからだ。夏輝は少しタイミングが悪かっただけなんだ。
クラスの男子で一番の主導権を握る、「叶斗」は腹が立った。そして、夏輝を嘲笑うように言った。
「意味分かんねえよ。でしゃばんじゃねぇ。」
クラスのみんなは笑った。馬鹿にした。
夏輝と友達のはずの子までも肩を震わせてクスクスしていた。
そう。叶斗の言葉で夏輝は孤立した。クラスから。学校から。人間関係から。
夏輝は言葉を発さなくなった。
話しかければ応答はしてくれる。けれど、授業中の発言はもちろんしないし、学級会では他人事のようにぼーっと俯いている。
そんな夏輝を見て、観察が特技な私だからこそ感じられることを私は感じた。
妥協。妥協。妥協。妥協。
彼女の姿からこの言葉を読んだ。この言葉を何度も唱えているように見えた。ぼーっとしてるんじゃない。彼女は自分で自分を縛ってた。自由に生きることにリミッターをかけていた。
あの日から、周りの視線が、彼女を苦しめていたんだ。
私はその時始めて、自分の意思を持った気がした。
「何か……何かしなくちゃ。」
静かに苦しんでる人がいる。観察してるからわかる。
夏輝の心が叫び続けてたのを私は気づいてあげることができたから。
今の私のままじゃだめだ。
透明の私が色付き始める。。
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