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父親を殺した日
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今日は朧にとって、これでもかというくらい不運で間の悪い日だった。
晴れ予報を信じていたら、家から出て数分歩いて引き返すのが絶妙に面倒な距離で結構な雨が降り始め。
書類を作ろうとしたら割と新しい機種のパソコンがダブルフリーズし書いていた内容も飛び。
母親に買い出しを頼まれて氷点下二桁の外を歩いてスーパーに行き、結構な量の荷物をビニール袋に入れたら重みで袋が裂けて卵や弁当がぐちゃぐちゃになる。
そして目の前で、乗りたかったタクシーは割込みの客に先に乗られてしまった。
タクシーにはその後乗れたものの、あまりにもストレスが溜まって母親に荷物を無言で押し付け、ワンフロア上の自室に戻った。
不機嫌を察した母親からは『少し寝なさい』と言って、夕飯を好きな時に食べにきていいとメッセージが来ていた。
友人に愚痴のSMSを送ってから横になり漫画やら動画やら見ていると、割と単純な朧はストレスを少し忘れている状態になった。
時間をみると帰ってきてから一時間経過していた。
昼は何も食べていない。今日の夕飯はスーパーで買った催事の弁当だ。
…食べるか。
だが一つ、懸念がある。飲んだくれのくそったれアル中であるアホ親父が今日は居間に昼から張り付いているのだ。
朧にとって一番の怒りの種はこの親父だった。
理解力も知恵もなく、ただ実家が世襲制の所で長男として生まれたため跡取りになっただけのは白痴野郎だ。
なんでも人に任せればよく、自分は何かをしても何も悪くなくて、咎められれば『俺は』悪くない、と逆上する。
朧の母(妻)に自分で覚えなければいけないことを聞き、知らないというと『俺も知らないんだ』『なんで覚えていないんだ』と云う。
そのくせステータスと世の中では言われるクラブ…遊び人の集いの場に本職かという勢いで入れ込み、その移動のための航空券の手続きなどは朧に丸投げしてくる。
頼ってくれているといえば聞こえはいいのかもしれないが、まだ五十代のいい歳した大人が航空券を自分で取れない、管理できないのはどういうことなのか?
そして極めつけに、父親はアホで害悪なアル中だった。勿論本人は認めていない。
酔って暴力を振るうことはあまりないが、とにかく絡んでくるのである。
腹が立つと言ってニュースの討論を見て延々と『くだらない』『馬鹿なのか』『世の中が悪い』だのと愚痴をいい、人がテレビを見ていればバカバカしいと勝手にチャンネルを変え、人が居るのを関係なしに親父の趣味の動画サイトの音楽や落語を大爆音で延々と流している。
勿論、こちらが少しでも咎めれば『俺に指図するな』『家長は俺だ』と言い、寝る前に妻に『みんな俺のことを馬鹿にしている、ふざけやがって』と眠剤を飲んでいる妻を叩き起こしてひとしきり訳の分からない怒りをぶつけシレッと寝るのだ。
そんな父親は自分が尊敬されて当たり前だと思っている様なのだが、朧から見れば屑以下のぶっ殺して要りたい奴ぶっちぎり一位だった。
母親や朧の兄弟には『お前が大人になれ』『トラブルだけはやめてくれ』と言われ、朧は気が短いながらも殴り掛かるのを自分の中で堪えていた。
弁当を取りに、朧は二階の居間に降りた。
アルコールが入ってるのは知っていたが、親父の顔を見るなり結構酔ってるのが分かる。
最悪だ。弁当を部屋に持っていくか…そう思って今のテーブルにある弁当を手に取ろうとした時、ニュースを見ていた親父が口を開いた。
そのときのニュースは、世を騒がせた放火事件の裁判のことだった。
『病んでんなあ、こんなやつ生かす必要もないだろ、死刑しかねえだろ、こんなバカが溢れてる世の中になったな、精神疾患なんて逃げなのに、バカばっかり』
…それ以上は覚えていないが、聞いていて腹が立つワードのオンパレードだ。馬鹿はてめえだよとイライラを再燃させながら弁当を持ち、無言で階段に向かった。
「おい、クラブの飛行機のチケットとってくれや。航空便埋まってきてるっていうんだよ」
親父が酔った声で朧にそう言った。
なんで賛同もしていない遊び人の集まりのために酔っ払いの意味不明な説明と悪態を聞きながら自分が取らなければならないのか?
「JTいけよ」
「はあ?なんで反抗するんだ?お前はいつも俺に反抗しやがって。もう少しで日程決まるから、俺は分かんねえし立場があるから取れや」
「…」
朧は耐えろ、と思って無言を決め込んで立ち去ろうとした。
「おい、無視すんのかよ!こっちこいや!」
朧は弁当を廊下に置き、父親の元へ行った。
―――そして、無言で力任せに親父の顔面を正面からぶん殴った。
威勢と態度だけは肥大している親父だが、実際は小柄で筋肉もない非力な男だ。
椅子ごと親父が床に吹っ飛んだところを、すかさず頭を掴み壁に何回も叩きつけた。
「やめなさい!」
母親が止めに入ろうと必死に抑えるが、もうこうなった朧は止まる気はない。
やるなら徹底的にやってやる。ここまでくればどうせ軽くても暴行罪だ。
母親を振り払い、更に父親の頭を力任せのまま何回も叩きつけ続ける。
「うるせえんだよ、ゴミ屑野郎が。死ねって言ってんだよ!」
「ッ!!!ッ!!!」
「楽になんて死なせないからな。この痛みにもだえ苦しんで、抵抗できないまま見下してた息子に殺されて死んでいけよ」
「朧!やめなさいって!」
母親も必死だ。朧の隙をついて、タックルで吹っ飛ばす。
「邪魔すんなよ!この際だ、このゴミ屑は殺す!こんな屑を父親だと思ったこともないし、繋がりがあると思うだけで吐き気がするし死にたくなるんだよ!」
「馬鹿たれが!そんな子になっちまって!」
吹っ飛ばされても、掴まれても、ビンタされても、興奮している朧にはその真意は何も伝わらなかった。
害悪である父親を殺すことしか頭になかったのだ。
母親を突き飛ばし、何回も頭を叩きつけられて意識が朦朧としている親父の首を、たまたま母がリンゴを切るために机に置いていた包丁で横一文字に深く切り裂いた。
動脈が深く切られたことで、真正面にいる朧の顔に血しぶきがシャワーの様にかかっていた。
生暖かい、人肌のその朱いシャワーはなんとも不快で、最期まで朧を腹立たせるものだった。
晴れ予報を信じていたら、家から出て数分歩いて引き返すのが絶妙に面倒な距離で結構な雨が降り始め。
書類を作ろうとしたら割と新しい機種のパソコンがダブルフリーズし書いていた内容も飛び。
母親に買い出しを頼まれて氷点下二桁の外を歩いてスーパーに行き、結構な量の荷物をビニール袋に入れたら重みで袋が裂けて卵や弁当がぐちゃぐちゃになる。
そして目の前で、乗りたかったタクシーは割込みの客に先に乗られてしまった。
タクシーにはその後乗れたものの、あまりにもストレスが溜まって母親に荷物を無言で押し付け、ワンフロア上の自室に戻った。
不機嫌を察した母親からは『少し寝なさい』と言って、夕飯を好きな時に食べにきていいとメッセージが来ていた。
友人に愚痴のSMSを送ってから横になり漫画やら動画やら見ていると、割と単純な朧はストレスを少し忘れている状態になった。
時間をみると帰ってきてから一時間経過していた。
昼は何も食べていない。今日の夕飯はスーパーで買った催事の弁当だ。
…食べるか。
だが一つ、懸念がある。飲んだくれのくそったれアル中であるアホ親父が今日は居間に昼から張り付いているのだ。
朧にとって一番の怒りの種はこの親父だった。
理解力も知恵もなく、ただ実家が世襲制の所で長男として生まれたため跡取りになっただけのは白痴野郎だ。
なんでも人に任せればよく、自分は何かをしても何も悪くなくて、咎められれば『俺は』悪くない、と逆上する。
朧の母(妻)に自分で覚えなければいけないことを聞き、知らないというと『俺も知らないんだ』『なんで覚えていないんだ』と云う。
そのくせステータスと世の中では言われるクラブ…遊び人の集いの場に本職かという勢いで入れ込み、その移動のための航空券の手続きなどは朧に丸投げしてくる。
頼ってくれているといえば聞こえはいいのかもしれないが、まだ五十代のいい歳した大人が航空券を自分で取れない、管理できないのはどういうことなのか?
そして極めつけに、父親はアホで害悪なアル中だった。勿論本人は認めていない。
酔って暴力を振るうことはあまりないが、とにかく絡んでくるのである。
腹が立つと言ってニュースの討論を見て延々と『くだらない』『馬鹿なのか』『世の中が悪い』だのと愚痴をいい、人がテレビを見ていればバカバカしいと勝手にチャンネルを変え、人が居るのを関係なしに親父の趣味の動画サイトの音楽や落語を大爆音で延々と流している。
勿論、こちらが少しでも咎めれば『俺に指図するな』『家長は俺だ』と言い、寝る前に妻に『みんな俺のことを馬鹿にしている、ふざけやがって』と眠剤を飲んでいる妻を叩き起こしてひとしきり訳の分からない怒りをぶつけシレッと寝るのだ。
そんな父親は自分が尊敬されて当たり前だと思っている様なのだが、朧から見れば屑以下のぶっ殺して要りたい奴ぶっちぎり一位だった。
母親や朧の兄弟には『お前が大人になれ』『トラブルだけはやめてくれ』と言われ、朧は気が短いながらも殴り掛かるのを自分の中で堪えていた。
弁当を取りに、朧は二階の居間に降りた。
アルコールが入ってるのは知っていたが、親父の顔を見るなり結構酔ってるのが分かる。
最悪だ。弁当を部屋に持っていくか…そう思って今のテーブルにある弁当を手に取ろうとした時、ニュースを見ていた親父が口を開いた。
そのときのニュースは、世を騒がせた放火事件の裁判のことだった。
『病んでんなあ、こんなやつ生かす必要もないだろ、死刑しかねえだろ、こんなバカが溢れてる世の中になったな、精神疾患なんて逃げなのに、バカばっかり』
…それ以上は覚えていないが、聞いていて腹が立つワードのオンパレードだ。馬鹿はてめえだよとイライラを再燃させながら弁当を持ち、無言で階段に向かった。
「おい、クラブの飛行機のチケットとってくれや。航空便埋まってきてるっていうんだよ」
親父が酔った声で朧にそう言った。
なんで賛同もしていない遊び人の集まりのために酔っ払いの意味不明な説明と悪態を聞きながら自分が取らなければならないのか?
「JTいけよ」
「はあ?なんで反抗するんだ?お前はいつも俺に反抗しやがって。もう少しで日程決まるから、俺は分かんねえし立場があるから取れや」
「…」
朧は耐えろ、と思って無言を決め込んで立ち去ろうとした。
「おい、無視すんのかよ!こっちこいや!」
朧は弁当を廊下に置き、父親の元へ行った。
―――そして、無言で力任せに親父の顔面を正面からぶん殴った。
威勢と態度だけは肥大している親父だが、実際は小柄で筋肉もない非力な男だ。
椅子ごと親父が床に吹っ飛んだところを、すかさず頭を掴み壁に何回も叩きつけた。
「やめなさい!」
母親が止めに入ろうと必死に抑えるが、もうこうなった朧は止まる気はない。
やるなら徹底的にやってやる。ここまでくればどうせ軽くても暴行罪だ。
母親を振り払い、更に父親の頭を力任せのまま何回も叩きつけ続ける。
「うるせえんだよ、ゴミ屑野郎が。死ねって言ってんだよ!」
「ッ!!!ッ!!!」
「楽になんて死なせないからな。この痛みにもだえ苦しんで、抵抗できないまま見下してた息子に殺されて死んでいけよ」
「朧!やめなさいって!」
母親も必死だ。朧の隙をついて、タックルで吹っ飛ばす。
「邪魔すんなよ!この際だ、このゴミ屑は殺す!こんな屑を父親だと思ったこともないし、繋がりがあると思うだけで吐き気がするし死にたくなるんだよ!」
「馬鹿たれが!そんな子になっちまって!」
吹っ飛ばされても、掴まれても、ビンタされても、興奮している朧にはその真意は何も伝わらなかった。
害悪である父親を殺すことしか頭になかったのだ。
母親を突き飛ばし、何回も頭を叩きつけられて意識が朦朧としている親父の首を、たまたま母がリンゴを切るために机に置いていた包丁で横一文字に深く切り裂いた。
動脈が深く切られたことで、真正面にいる朧の顔に血しぶきがシャワーの様にかかっていた。
生暖かい、人肌のその朱いシャワーはなんとも不快で、最期まで朧を腹立たせるものだった。
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