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第十二話 別に驚かない
しおりを挟む自堕落な生活で肥え太った猪子陀の身体が、なんとも醜く崩れ落ちるように倒れて、部屋にはドスゥン…という情けない音が響く。
額を突いた夢人の指境には、水風船くらいの大きさの霊魂が挟まっている。
「これでいこだちゃんの<夢>もちゃんと回収できた。まさか、あの時にあいつに殺されるなんて予想してなかったからなあ…」
猪子陀の<願い>を叶えるというのは、当時の夢人の一大計画実験だったのだ。
欲と虚栄に塗れたあの教師の<願い>は、どれだけの空しい夢を生み出してくれるのか。
身の回りの生徒たちが描くような小さな夢など、叶えても腹は正直膨れない。
職に就いているプライドの塊を茶化せば、どれほどのエネルギーが連鎖するのか。
夢人は卒業するまで、猪子陀の願いを叶え続けるつもりだった。
…あんなことがなければ、至高の味を味わえたのに。
指に挟まって抵抗している霊魂を、夢人は大きく口を開けてその中に放り込み、ギッチャギッチャ…と嫌な音を立てて食べる。
やはり<願い>が叶っていた時期からかなり時間が経っているせいか、期待していたほど美味くない。
だが、夢人にとっては一応『栄養』だ。旨味が少なくても、ぜいたくは言えない。
「あ、そうだ。あの人も気づいているとは思うけど、僕の方から行ったほうがいいかね」
夢人が口笛を吹くと、手元に猪子陀に焼却されたはずの課題プリントが現れる。
そして夢人は七補士の居る保健室に独特の足取りでルンタタ、ルンタタと向かっていった。
保健室の電気は、まだ灯っていた。
コンコン、とノックをすると、七補士がヌッと顔を出す。
「…あら。貴方が居るなんて珍しい。…神崎 夢人君」
「なんだ、俺を見てもちっとも驚かなくて、つまんないなー」
普通の教師ならば、色々な意味で夢人に突っ込んだり、驚いたりするだろう。
下校時刻の過ぎた校内を堂々と歩き、旧式のボロボロになった制服を着て。
いやそれ以前に、今の教師たちは七補士も含めて神崎夢人のことを知らないはずだ。
「このプリント、探してたんでしょ?」
夢人は手元にある課題プリントを、七補士にこれ見よがしに見せつけて『必要でしょ?』とアピールする。
「ああ…。昭隅先生のプリント。復元してくれたのね」
「復元?」
「猪子陀先生が、燃やしてたのは知ってるから」
「えー!じゃあなんで燃えたプリント持ってるの、とか驚かないの!?」
わざとらしく、大根役者さながらの動きで夢人は少しでも動揺させようとするが、七補士の顔はいつもの仏頂面だ。
「貴方のことを知っていたら、驚くも何もないでしょう。神崎家の長子、『神の子』と言われた…夢人君」
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