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第五話④・不愛想な二人になるまで
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クラスで二人で話していると、クラスメイトからは『変人カップル』と囃し立てられた。
というより、これまで教師に問題回答を当てられる以外にクラスで発言、会話をすること自体が皆無だった二人である。
そんな二人が突如自然に口を開いて談笑しているのだ。思春期の少年少女の恰好の的になるのも当たり前の話だ。
七補士は周りの年相応の反応だと茶化されても無視をしていた。
そんな下手な茶化しを入れてくる人と話す気もない。
だが逆夢はまだ七補士より子供っぽい所があり、表情では分かりづらいがやや眉間に皺をよせ、話すときの語尾も強めになっていた。
茶化しは毎日繰り返され、エスカレートしていった。
教室を変えても誰かが尾行し、賑やかしの調子に乗った男子生徒が下衆なからかいを入れる。
唯一の空白である帰り道も、やはり誰かが付いてきて会話をしようとした瞬間に水を差してくるのだ。
口だけは達者になっているやつがいるもので、あまり言葉では言えない逆夢に代わり七補士が冷静な言葉で『邪魔だ』と表明しても、『迷惑だ』と伝えても、逆にいいツボを見つけたと彼らは調子に乗った。
―――そして、逆夢は我慢できずに喧嘩沙汰を起こした。
その日は一段と茶化しがひどく、さすがに七補士も怒鳴り声をあげる寸前だった。
だが七補士がその言葉を浴びせるより前に、逆夢がキレた。
あっという間の出来事だった。
逆夢は普段の緩慢な動きとはうって変わって、パッと椅子から立ち上がると、茶化しの主である男子生徒…明らかにスポーツをしていて、体格も大柄な彼の頭に座っていた椅子を正確に投げつけクリティカルヒットさせた。
椅子はそれなりの重さがあるはずだが、かなりの速さで迷いなく一直線の軌道を描いて飛んでいったことから逆夢の本気度が窺える。
そして何が起きたか分からず倒れている彼にスルッと近づき、胸の真ん中を思いっきり踏みつけた。
取り巻きが止めようとするも、彼が普段放つことのない、できないと思われていった殺意のこもった目と圧で、誰もが動けなくなっていた。
足がすくんでいる周りのクラスメイトに、今度は机の脚を持つ形で一脚手に取ると、その机を軽々と振り回して男女関係なく茶化していた生徒たちをボコボコに殴打していった。
その姿は修羅そのもので、表情が全くないのっぺらぼうのようなものだから更に不気味さを増している。
それでいて得物を正確に振り回し、先に吹っ飛ばされた主格の生徒のように的確に急所を突かれで相手は撃沈していく。
慌てた取り巻きたちは動きを封じようと組み伏せを試みるが、人体の使い方を熟知している逆夢はどう拘束されてもスルリとすり抜けて、至近距離の者には蹴りをかましていた。
関係のなかった生徒が呼んだ教師が到着する頃には、恐怖で委縮している二、三人のクラスのあぶれ者、死屍累々の揶揄ってきた生徒たちの山、そして静かにその光景を観ていた、こんな状況でその態度を取れるとは思えない至って冷静な七補士という図になっていた。
逆夢はその日で一発停学になった。
生徒たちに骨折などは不思議となかったものの、打撲跡が酷かったこともあり、生徒指導室に連れていかれた後に警察に連れていかれたようだった。
実刑にはならなかったようだが、彼は中学から姿を消した。
逆夢が観察処分になり、家に戻ってきた際に七補士は彼の元へ足を運んだ。
最初は突っぱねられた。会いたくない、いや会えないと。
それでも七補士は彼の家に毎日足を運んだ。
彼は暴力という手に出てしまったが、それはあの状況を考えれば仕方がないと言ってもいい。
七補士が離れた際に、トイレに連れ込まれて逆夢は暴行や暴言を吐かれていたのだから。
そしてあの日は、『孕ませないのか?』『ばか、もうヤッてるよ、あいつら』『そのうち妊娠退学だろ、けけけ』と根も葉もない最低な茶化しを入れているのだから。
一年、七補士は通い続けた。
そして一年経ったその日、普段は家にいないはずの逆夢の叔母がいて、玄関を開けてくれた。
「…やあ。七補士」
そこにいた逆夢は、七補士が見ていた彼の雰囲気とは想像できなかった。
というより、これまで教師に問題回答を当てられる以外にクラスで発言、会話をすること自体が皆無だった二人である。
そんな二人が突如自然に口を開いて談笑しているのだ。思春期の少年少女の恰好の的になるのも当たり前の話だ。
七補士は周りの年相応の反応だと茶化されても無視をしていた。
そんな下手な茶化しを入れてくる人と話す気もない。
だが逆夢はまだ七補士より子供っぽい所があり、表情では分かりづらいがやや眉間に皺をよせ、話すときの語尾も強めになっていた。
茶化しは毎日繰り返され、エスカレートしていった。
教室を変えても誰かが尾行し、賑やかしの調子に乗った男子生徒が下衆なからかいを入れる。
唯一の空白である帰り道も、やはり誰かが付いてきて会話をしようとした瞬間に水を差してくるのだ。
口だけは達者になっているやつがいるもので、あまり言葉では言えない逆夢に代わり七補士が冷静な言葉で『邪魔だ』と表明しても、『迷惑だ』と伝えても、逆にいいツボを見つけたと彼らは調子に乗った。
―――そして、逆夢は我慢できずに喧嘩沙汰を起こした。
その日は一段と茶化しがひどく、さすがに七補士も怒鳴り声をあげる寸前だった。
だが七補士がその言葉を浴びせるより前に、逆夢がキレた。
あっという間の出来事だった。
逆夢は普段の緩慢な動きとはうって変わって、パッと椅子から立ち上がると、茶化しの主である男子生徒…明らかにスポーツをしていて、体格も大柄な彼の頭に座っていた椅子を正確に投げつけクリティカルヒットさせた。
椅子はそれなりの重さがあるはずだが、かなりの速さで迷いなく一直線の軌道を描いて飛んでいったことから逆夢の本気度が窺える。
そして何が起きたか分からず倒れている彼にスルッと近づき、胸の真ん中を思いっきり踏みつけた。
取り巻きが止めようとするも、彼が普段放つことのない、できないと思われていった殺意のこもった目と圧で、誰もが動けなくなっていた。
足がすくんでいる周りのクラスメイトに、今度は机の脚を持つ形で一脚手に取ると、その机を軽々と振り回して男女関係なく茶化していた生徒たちをボコボコに殴打していった。
その姿は修羅そのもので、表情が全くないのっぺらぼうのようなものだから更に不気味さを増している。
それでいて得物を正確に振り回し、先に吹っ飛ばされた主格の生徒のように的確に急所を突かれで相手は撃沈していく。
慌てた取り巻きたちは動きを封じようと組み伏せを試みるが、人体の使い方を熟知している逆夢はどう拘束されてもスルリとすり抜けて、至近距離の者には蹴りをかましていた。
関係のなかった生徒が呼んだ教師が到着する頃には、恐怖で委縮している二、三人のクラスのあぶれ者、死屍累々の揶揄ってきた生徒たちの山、そして静かにその光景を観ていた、こんな状況でその態度を取れるとは思えない至って冷静な七補士という図になっていた。
逆夢はその日で一発停学になった。
生徒たちに骨折などは不思議となかったものの、打撲跡が酷かったこともあり、生徒指導室に連れていかれた後に警察に連れていかれたようだった。
実刑にはならなかったようだが、彼は中学から姿を消した。
逆夢が観察処分になり、家に戻ってきた際に七補士は彼の元へ足を運んだ。
最初は突っぱねられた。会いたくない、いや会えないと。
それでも七補士は彼の家に毎日足を運んだ。
彼は暴力という手に出てしまったが、それはあの状況を考えれば仕方がないと言ってもいい。
七補士が離れた際に、トイレに連れ込まれて逆夢は暴行や暴言を吐かれていたのだから。
そしてあの日は、『孕ませないのか?』『ばか、もうヤッてるよ、あいつら』『そのうち妊娠退学だろ、けけけ』と根も葉もない最低な茶化しを入れているのだから。
一年、七補士は通い続けた。
そして一年経ったその日、普段は家にいないはずの逆夢の叔母がいて、玄関を開けてくれた。
「…やあ。七補士」
そこにいた逆夢は、七補士が見ていた彼の雰囲気とは想像できなかった。
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