商人テイラーのグダグダ道中

馬車の中で2

馬車の停車中、テイラーは自分一人しかいない客車内で、ビスケットにアカの実のジャムを塗っていた。

そろそろ昼食にしても良い頃合いである。

テイラーは手にしたそれを、早速一かじりした。

表面が赤くテカテカになったビスケットは穀物のどっしり感と果実の甘酸っぱさが混じり合い、テイラーは非常に美味に感じていた。

また、栄養満点なアカの実のおかげだろうか、テイラーはビスケットを食べる前に比べ、随分と元気が湧いた様子だった。

一枚が大人の手のひらほどの大きさがあるビスケットであるが、テイラーはすぐに食べ終えてしまうのだった。


腹ごしらえも済んで、機嫌が良さそうなテイラーは、馬車が再び動き出すまで少しの間、御者と雑談することにした。

テイラーは、ビスケットの包みとアカの実のジャムを丁寧に革鞄にしまい込むと、幌の御者台に出る通路を塞ぐ部分を押し広げて外に出た。

御者台に座しているのは、初老の男性だった。

初老の男性は、レオナルドと名乗った。
彼は元々はリンドベル商会に連絡員として勤務していたということだった。
なんでも、連絡員として経験を積むうちに、いつしか御者の方が性に合う事に気がついたらしい。
数年前からは、リンドベル商会専属の御者として勤めるようになったのだとか。

レオナルドは、最初こそ少し強面な印象であったのだが、話し出せば饒舌で気のいいオヤジと言った印象の男だった。

レオナルドは、自己紹介が済むと今度は、自身の身の上話・・・別れた妻と娘がいる事、商会の連絡員をしていた頃と比べて他人に下に見られることが増えた事、稼ぎは少なくなったが好きな事を仕事にできて毎日楽しく過ごせている事、最近娘が手紙を書いてくるようになった事など、色々な話をテイラーに聞かせてやった。

そして、テイラーも彼の話に聞き飽きてきた頃、良く響く笛の音が鳴った。

御者は仕事に、テイラーは客室に戻るのだった。


そして、馬車は再び進み始める。

外の景色に飽きたテイラーは、革鞄を枕にして客車の床に横になっていた。