プレッシャァー 〜農高校球児の成り上がり〜

三日月コウヤ

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第85話 苗植え(前編)

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 龍介らが入寮して歓迎試合(仮)から数日が経ち、新たな春が本格的に訪れる季節として彼ら、彼女ら一年生の入学式が行われた。式は特に何事も無く進み、簡単な説明と専門の教科書の配布等を終えて時間がお昼の少し前に差し掛かった頃、入学初日にして最初の授業が敷地内の畑で行われていた。

「なあ、そっちミスってね?」

「いやいや、そっちが乱れてんだって。見てみろよ俺の方を」

「それだけバラバラでよく堂々と言えたもんだな」

「お前も人の事言えないだろ」

「「…………」」

 周りのクラスメイトがワイワイと楽しくお喋りしなが作業している中、涼夏と龍介の二人は心を無心にしながら手を動かしていた。

「………なあ」

「…何よ」

「俺らってさ、野球しにこの学校に集まって来たわけだよな?」

「…そうね」

「だったら俺らが今やってるこれって何なんだろうな?」

「稲の苗植えでしょ。農作業の一種」

「おかしいだろう、これ?何でこんな事やらされてんだよ俺ら」

「おかしいのはあんたの頭よ。ここがそういう学校農業高校って知って入ってきた筈なのにどうしてそんな事を嘆いているのかの方を聞きたいわね」

「だからって何で入学して最初の授業の日の締めがこれなんだよ?流石にねぇだろう普通」

「だからその普通じゃない環境なのを承知で入学したんでしょうが。まあ、気持ちがまったくわからないわけじゃないけど、他の学校と比べて机に向かう時間が少ないだけマシじゃない?」

(まあ、その分授業中に机で休める時間が減るから五分五分かもしれないけど)

「けどそ分の授業で机で寝れる時間が減るだろう?」

「堂々と寝るのを前提に話すな馬鹿」

(しっかしこういうところはコイツと考えがシンクロするだよな。やっぱり腐っても双子って事なのかね、ムカつくわ)

「ふ~む、二人ともイマイチ作業が捗っていないみたいだな」

「………何しに来たのよ兄貴?」

「決まっているだろう?お前らの進捗具合を確認しに来たんだよ」

「後ろの人らは?」

「随分な挨拶だな。当然ゆっちと一緒で後輩の慮ってわざわざ見に来てあげたのダヨ。僕チン優し」

「まったくだ」

「招いた覚えも呼んだ覚えも無いんですけど」

「単に暇だから来ただけですよね?邪魔はしないで下さいよ」

「久しぶりにだらだら喋れる機会なの冷たいな~龍介も涼夏も

「やっぱりそうだよな。ようやくこうして兄妹そろって一緒に暮らせるようになったのに何故か二人とも冷めてるんだよな~兄ちゃん寂しい」

「これは先輩として直々に指導してあげないといけないのダヨ」

((つまんない作業のせいで割とテンション下がってる時にこのメンドクサイ人らの相手とかダル過ぎる。マジでどっか飛んでってくれないかな?))

 涼夏と龍介が目の前の変人三人衆に手を焼いていると彼らの祈りが通じたのか、三人の背後から救世主が現れた。

「おい、お前ら何やってるんだ?」

「何って見ての通り後輩の育成ですよ」

「正確には見守りなのダヨ」

「そうそう。ちゃんとやれているのかの確認を、ね」

「………そうか」

「そういう先輩こそ何をしているんですか?」

「俺の方は大体終わったからな。お前らと同じく他学年、特に一年生で苦労している
 生徒がいないか見に来たんだよ」

「成程、俺らと同じって訳ですね」

「俺らと同じ、ね?…二年の方もチラッと見てきたとこで一応終えてあるのが3列程あったみだいだが…」

「僕チンらのダネ」

「やっぱりお前らの仕業か」

((お前らの…『仕業?』))

「どうですか俺達の実力。偶には褒めてくれてもいいんで…イテテテテテテテテテエェ!」
「ちょ、縄!縄が食い込んでます!」

「やっぱりお前らを纏めて縛り上げるにはこういうのに限るな」

「な、何でこんな横暴を!」

「お前ら、他人にちょっかいかけに来るんだったらせめて自分の仕事きちんとこなしてからにしろ馬鹿共」

「ちょ、俺らの仕事の成果はちゃんと確認したんですよね!?なのに何ですかその発言は!?俺らちゃんと言われたノルマを達成してるじゃないですか!?」

「おい、冗談も大概にしろよ。あれのどこがちゃんとしてるって?えぇ?」

 鬼頭が自由達を締め上げながら指差した方向へと涼夏ら視線を移す。そこにあまりにバランスが悪い苗の列が3行程並べられており、正直わざとなのでは?と疑わずにはいられないくらいに描かなくてならない直線の軌道から大きく逸脱した並びように2人も目の前の先輩3人に対して呆れていた。

「ありえないぐらいぐねぐねぐねぐね曲がり過ぎた。三人供もういっそのこと最初からやり直せ」

「え、好くないですか?個性的で」

「そうそうこういう時個性は大事って言いますし」

「僕チンらの作品がオリジナリティーに溢れていて自分のが取るに足りない平凡作だからって嫉妬は見苦し…ヒギャアアアアアァァァァァ!!」

「全然好くない、ふざけんのも大概にしろ。小学校の図工の時間じゃないんだぞ?個性とかそんな感情を育むような特別な要素は微塵も必要ないし、求められてもないんだよ。ちゃんと皆と同じになる事だけを意識して揃えろ!」

「「「これれと同じにしたらこうなった(のダヨ)」」」

「お前ら…」

「そもそもどんな形であれ終わっているんだからもうい…ウギギギギギギィ!!」

「これをやるのが同じ学科同士でマジで良かったよ」

 そう言って大きなため息を吐き捨てながら三人を引っ張って去っていく鬼頭の背中がとても哀愁漂っているものだなと二人はしみじみ感じながら心の中で深く感謝の思いを抱くのだった。


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