プレッシャァー 〜農高校球児の成り上がり〜

三日月コウヤ

文字の大きさ
上 下
82 / 88

第80話 消化不良(前編)

しおりを挟む
 ~食堂にて~

「「「………」」」

「いや~やっぱ練習の後の飯は格別だな。特に今日は身内同士とはいえ試合だったから尚更腹減ってたし、あんんん。うんめぇ――!」

「「「………」」」

「おいおい、どうしたんだよ皆して固まって。さっきから輝明以外ほとんど箸をつけてないじゃないか。お前らが無言でそうやってるせいで他の一年生とかも気を遣ってじっとしたままでせっかく初めての食事会なのにお通夜みたいな空気になってるじゃないか。もっと歓迎ムードで迎えてやろうぜ」

「どの口でほざいてんだこの野郎は」

「これを煽りでも冗談でもなく素で言ってるだからタチが悪いな」

「…そもそも一年生と一緒に食事摂るの全然初めてじゃないのダヨ」

「あれ?そうだっけ」

「数日前から一年生数人入寮してただろ?今日の朝だって現在進行形で目の前に座っているが涼夏ちゃんが同じように食卓を囲んでいたと思うんだけど」

「あっ、そうだったそうだった。そういや普通にいたな涼夏。すまん、忘れてた」

「どうやったらこの距離で忘れられるのかしら?兄貴の目、腐ってんじゃないの?」

「いやに辛辣だな。しかし目に関しては心配無用だ。なんせ俺の視力両方とも200越えだからな!」

「そんな数値ねえよ」

「2.0って言いたかったのかな?」

「おう、それそれ!流石伸介」

「ねえ、せめて馬鹿するか恥晒すかどっちかだけにしてくれない?本当に恥ずかしいんだけど」

「酷いな~、何でそんなプリプリしてんの?涼夏以外も不機嫌そうだし。せっかく試合で交流を温め合った後だってのにさ。ほら、しかめっ面してないでみんあも飯でも食って」

「「「お前兄貴のせいだろうがぁ!!」」」


 ~数時間前~

「よくやった輝明!お前ならできると思ってぞ」

 剣崎の三振でスリーアウトとなった直後に自由はマウンドへと駆け寄り帽子の上から輝明の頭をわしゃわしゃと撫でまわし可愛がっていた。そんな様子を伸介は微笑ましそうに見つめながらベンチへと足を進めていると2人のチームメイトが彼を出迎えた。

「完全にやられたな~伸介」

「いや~見事な空振りっぷりだったのダヨ」

「…それは三振した事によるあからさまな嫌味発言なのか?それとそのニコニコ顔は何なんだ?」

「いやいやいや、別に喜んでなんかいないさ。なぁ」

「ばっちのいう通り。すけっちが三振したことをこれでもかと悔しがっていたところなのだよ」

「それだったら顔と表情を一致させろよ」

(こいつら自由と同じで本当に嘘が下手だな。大方自分らが凡退した中で俺が出塁できなくてホッっとしたといったところか。まったく…)

「まあいいか。慰めてくれて(?)ありがとさん。とっと守備に…「はあぁっ――!ちょっとそれどういう事よ!?何だ?」

 裏の守備に備えようとしていた矢先、相手ベンチから聞き覚えのある声が怒号を飛ばしてこちらに伝わって来た。大方あちらの方へと勝手しに行った部内ナンバーワンの問題児がまたしてもなにかやらかした。或いはこれからやらかそうとしているであろう事を察した剣崎と鬼頭はすぐさま相手ベンチへと急いだ。

 ________________________

「何でこんな中途半端なところでなのよ。ここまで来たら最後までやるべきでしょう」

「そうだぜ兄貴。こんなのどっちも納得しねーよ」

 鬼頭らが駆けつけると涼夏と龍介の二人が自由に詰め寄って抗議していた。

「どうしたんだ。そいつが何をやらかしたんだ?」

「落ち着いて二人とも。自由、今度はどんな支離滅裂な発言で二人を混乱させたの?」

「ちょっとちょっと、何で二人とも俺が何かやらかしたのを前提で話すんですか!?」

「まあそんな答える必要もない分かりきった問答は置いといて、本当に何があったの?」

「実はですね…」

(今度はどんな勝手なことを言い出したんだこの自由《あほう》は。『楽しくなってきたからもう三試合くらいやろう』とかなら言い出しそうだが…)

(赤坂君のピッチングにあてられて自分が投手やるって言いだした、とか?確かにそれだと試合が壊れかねないのを二人ともよく知ってるだろうから止めるだろうからあり得そうだな)

(それかこっちあっちの人数をシャッフルして試合をするとか言い出したり…)

(はたまた『興味』や『面白そうだから』という理由で助っ人の女子部員をマウンドに上げるとかも言いそうだな)

 自由が言い出しそうな発言を想像していた二人だったが涼夏の口から聞かされたのは2人の予想を大きく斜めに外れたものだった。

「この時点で試合を終了するって」

「「………はぁ?」」

 あまりに予想だにしていなかった発言に両者とも目を丸くして唖然としていた。


しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

切り札の男

古野ジョン
青春
野球への未練から、毎日のようにバッティングセンターに通う高校一年生の久保雄大。 ある日、野球部のマネージャーだという滝川まなに野球部に入るよう頼まれる。 理由を聞くと、「三年の兄をプロ野球選手にするため、少しでも大会で勝ち上がりたい」のだという。 そんな簡単にプロ野球に入れるわけがない。そう思った久保は、つい彼女と口論してしまう。 その結果、「兄の球を打ってみろ」とけしかけられてしまった。 彼はその挑発に乗ってしまうが…… 小説家になろう・カクヨム・ハーメルンにも掲載しています。

百合系サキュバスにモテてしまっていると言う話

釧路太郎
キャラ文芸
名門零楼館高校はもともと女子高であったのだが、様々な要因で共学になって数年が経つ。 文武両道を掲げる零楼館高校はスポーツ分野だけではなく進学実績も全国レベルで見ても上位に食い込んでいるのであった。 そんな零楼館高校の歴史において今まで誰一人として選ばれたことのない“特別指名推薦”に選ばれたのが工藤珠希なのである。 工藤珠希は身長こそ平均を超えていたが、運動や学力はいたって平均クラスであり性格の良さはあるものの特筆すべき才能も無いように見られていた。 むしろ、彼女の幼馴染である工藤太郎は様々な部活の助っ人として活躍し、中学生でありながら様々な競技のプロ団体からスカウトが来るほどであった。更に、学力面においても優秀であり国内のみならず海外への進学も不可能ではないと言われるほどであった。 “特別指名推薦”の話が学校に来た時は誰もが相手を間違えているのではないかと疑ったほどであったが、零楼館高校関係者は工藤珠希で間違いないという。 工藤珠希と工藤太郎は血縁関係はなく、複雑な家庭環境であった工藤太郎が幼いころに両親を亡くしたこともあって彼は工藤家の養子として迎えられていた。 兄妹同然に育った二人ではあったが、お互いが相手の事を守ろうとする良き関係であり、恋人ではないがそれ以上に信頼しあっている。二人の関係性は苗字が同じという事もあって夫婦と揶揄されることも多々あったのだ。 工藤太郎は県外にあるスポーツ名門校からの推薦も来ていてほぼ内定していたのだが、工藤珠希が零楼館高校に入学することを決めたことを受けて彼も零楼館高校を受験することとなった。 スポーツ分野でも名をはせている零楼館高校に工藤太郎が入学すること自体は何の違和感もないのだが、本来入学する予定であった高校関係者は落胆の声をあげていたのだ。だが、彼の出自も相まって彼の意志を否定する者は誰もいなかったのである。 二人が入学する零楼館高校には外に出ていない秘密があるのだ。 零楼館高校に通う生徒のみならず、教員職員運営者の多くがサキュバスでありそのサキュバスも一般的に知られているサキュバスと違い女性を対象とした変異種なのである。 かつては“秘密の花園”と呼ばれた零楼館女子高等学校もそういった意味を持っていたのだった。 ちなみに、工藤珠希は工藤太郎の事を好きなのだが、それは誰にも言えない秘密なのである。 この作品は「小説家になろう」「カクヨム」「ノベルアッププラス」「ノベルバ」「ノベルピア」にも掲載しております。

フラレたばかりのダメヒロインを応援したら修羅場が発生してしまった件

遊馬友仁
青春
校内ぼっちの立花宗重は、クラス委員の上坂部葉月が幼馴染にフラれる場面を目撃してしまう。さらに、葉月の恋敵である転校生・名和リッカの思惑を知った宗重は、葉月に想いを諦めるな、と助言し、叔母のワカ姉やクラスメートの大島睦月たちの協力を得ながら、葉月と幼馴染との仲を取りもつべく行動しはじめる。 一方、宗重と葉月の行動に気付いたリッカは、「私から彼を奪えるもの奪ってみれば?」と、挑発してきた! 宗重の前では、態度を豹変させる転校生の真意は、はたして―――!? ※本作は、2024年に投稿した『負けヒロインに花束を』を大幅にリニューアルした作品です。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

彗星と遭う

皆川大輔
青春
【✨青春カテゴリ最高4位✨】 中学野球世界大会で〝世界一〟という称号を手にした。 その時、投手だった空野彗は中学生ながら152キロを記録し、怪物と呼ばれた。 その時、捕手だった武山一星は全試合でマスクを被ってリードを、打っては四番とマルチの才能を発揮し、天才と呼ばれた。 突出した実力を持っていながら世界一という実績をも手に入れた二人は、瞬く間にお茶の間を賑わせる存在となった。 もちろん、新しいスターを常に欲している強豪校がその卵たる二人を放っておく訳もなく。 二人の元には、多数の高校からオファーが届いた――しかし二人が選んだのは、地元埼玉の県立高校、彩星高校だった。 部員数は70名弱だが、その実は三年連続一回戦負けの弱小校一歩手前な崖っぷち中堅高校。 怪物は、ある困難を乗り越えるためにその高校へ。 天才は、ある理由で野球を諦めるためにその高校へ入学した。 各々の別の意思を持って選んだ高校で、本来会うはずのなかった運命が交差する。 衝突もしながら協力もし、共に高校野球の頂へ挑む二人。 圧倒的な実績と衝撃的な結果で、二人は〝彗星バッテリー〟と呼ばれるようになり、高校野球だけではなく野球界を賑わせることとなる。 彗星――怪しげな尾と共に現れるそれは、ある人には願いを叶える吉兆となり、ある人には夢を奪う凶兆となる。 この物語は、そんな彗星と呼ばれた二人の少年と、人を惑わす光と遭ってしまった人達の物語。        ☆ 第一部表紙絵制作者様→紫苑*Shion様《https://pixiv.net/users/43889070》 第二部表紙絵制作者様→和輝こころ様《https://twitter.com/honeybanana1》 第三部表紙絵制作者様→NYAZU様《https://skima.jp/profile?id=156412》 登場人物集です→https://jiechuandazhu.webnode.jp/%e5%bd%97%e6%98%9f%e3%81%a8%e9%81%ad%e3%81%86%e3%80%90%e7%99%bb%e5%a0%b4%e4%ba%ba%e7%89%a9%e3%80%91/

「南風の頃に」~ノダケンとその仲間達~

kitamitio
青春
合格するはずのなかった札幌の超難関高に入学してしまった野球少年の野田賢治は、野球部員たちの執拗な勧誘を逃れ陸上部に入部する。北海道の海沿いの田舎町で育った彼は仲間たちの優秀さに引け目を感じる生活を送っていたが、長年続けて来た野球との違いに戸惑いながらも陸上競技にのめりこんでいく。「自主自律」を校訓とする私服の学校に敢えて詰襟の学生服を着ていくことで自分自身の存在を主張しようとしていた野田賢治。それでも新しい仲間が広がっていく中で少しずつ変わっていくものがあった。そして、隠していた野田賢治自身の過去について少しずつ知らされていく……。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

処理中です...