プレッシャァー 〜農高校球児の成り上がり〜

三日月コウヤ

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第68話 交代か?続行か?(中編)

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これから、投げるんだ。打者を迎えて、全力で………大丈夫。前沢先輩ならきっと問題無い筈。二人きりでだけど今までだって投げてもしっかり捕球出来てたんだし、だからバッターボックスに誰が立っていてもきっと大丈夫。何も考えずにいつも通りやればきっと…それにしても先輩遅いな。もしかして防具付けるのに時間がかかって…あれ?

「お~い、輝明。ちょっと来てくれ」

輝明は中々守備に就こうとしない彼らに何かあったのかと心配そうに見つめていると突然自分を呼ぶ自由の声が聞こえた為、彼は急いでマウンドからベンチへ駆け寄った。

前沢先輩、まだ防具を付けずにどうしたんだろうか?それに前沢君と前沢さんも守備に就かずここに残ってる。何か大事な話をしていたのだろうか?

「ん~と。俺個人としては誠に残念だけども、これも可愛い弟の為。ひいてはチームの為だからな。仕方ない、うん」

前沢先輩突然なんの脈絡も無く語り始めたけれど、一体何の話をされているのだろうか?

「と、言うわけで。一緒に、ではなくなってしまい非常ぉ――に残念だが、頑張って行こうな!」

え、まさか今のでは会話終了なのですか?本当に何の話だったのだろうか?伝えたいというか、伝えようとしているであろう中身がまるで理解できないのですがこれは…

輝明の両肩に手を置いて一人納得しながら彼を鼓舞する自由だが、当の本人はあまりに端折られた説明とはいえない何かをまるで理解困できず困惑していた。

「兄貴、呼び出しといて勝手に一人語りで完結させて納得してないできちんと説明してあげなさいよ。今の部分だけだと誰が聞いても理解するの不可能だからね」

「そうか?ふ~む、残念ながら絆がまだ足りていないという事か」

「不足しているのは絆じゃなくて頭だと思うけどね」

「それで悪いんだが予定を変更してこのまま龍介とバッテリー続けてくれないか?」

これからの投球に輝明なりに一つの決心を固めていた矢先、自由の予想外の発言に目を見開きながら一枚のメモを彼に手渡した。

『今のままの投球で、ですよね?』

「いや~それなんだが俺相手に投げる方で龍介相手に投げてやってくれない?」

「!!」

(この…人に?全力で!?)

メモで伝えた自身の質問に対して首を縦に振られる同意であろうと疑っていなかった輝明は予想外の返答に一瞬目を大きく見開いて龍介の方を見た直後『本気ですか?』と、いった感じの視線を自由に送りつけた。輝明の思いのほか動揺している姿に自由は少し噴き出した。

「意外とこういうとこ分かりやすいよな、輝明は」

「普段は言葉を発さない上に能面の様に表情があまり変化しない分、態度で明確に伝わって来るわね」

「ええっと…嫌、か?」

困った様子の自由を見てすぐに力になりたい衝動に駆られたが、その反面自分の中にある抵抗心が邪魔をして首を縦に振れなかった。輝明は一度目を瞑って龍介に向かって投げる場面を想像した。その瞬間、全力で投げた直後にマスク越しに彼の顔面へとボールが直撃するイメージが脳裏に浮かび上がった。

”コクコクコクコクク!”

生れてしまった悪いイメージによって心が恐怖心で包まれた輝明は自由の問いに対して素早く首を上下させ、彼のそんな突飛な行動に涼夏はその反応に大笑いした。

「あッははは!即答って、あんたどんだけ信用されないのよ。く、苦しい!お腹痛~い。ここまでくると我が弟ながら可哀そうになってくるわね!」

(また、また兄貴かよ。やっぱり俺は兄貴よりも…)

「そ、そんなに俺じゃ駄目なのかよ!俺じゃそんなに頼りねーのかよ!!」

涼夏に小馬鹿にされている事すら耳に入らない程の拒絶感が全身を襲い、気付くと輝明の胸倉を掴んで迫ってしまっていた。予想外の隆介の行動に二人の兄弟も驚いて止めに入る。

「ちょ、なにやってんのよアンタ!」

「!わ、わりぃ。ちょっとカッとなりすぎた」

引き剥がされた事でようやく自分の行いを自覚した龍介は素直に謝り、その姿に三人は安堵した。

「まったく、気を付けてよね。それで結局どうすんの。こいつに捕らせる?それともチェンジ?」

「そうだな…」

(くっ、予定外だな。まさか輝明がここまで嫌がる素振りを見せるとは想定してなかったな。いや、そもそも俺と最初にキャッチボールをしたあの日だってかなりの抵抗があったんだもんな。今日組んだばかりな上に信頼関係とか諸々足りていない状態の龍介相手だと全力投球する事に対して抵抗感を感じない方がおかしいんだ。完全にそこら辺の可能性が頭から抜けてたな、くそっ!)

龍介は目の前の三人に背を向け、頭を抱えて考え始めた。

(どうする?輝明のさっきのあの反応の仕方。前に口を開こうとした時に出た拒絶反応に似たようなものを感じる。普段ほとんど意思表示を露にすることのない輝明がああもはっきり態度で示すって事はそれらを行う事に対してアレルギーにも似た強烈なストレスが発生する可能性が高いって事だ。これを乗り越える事ができれば龍介は勿論輝明にとっても大きな経験になると思う。普通の試合で得られるモノとはまた別の財産を。だけど…)

「兄貴?」

(やらせていいのか?憶測にすぎないがこれは多分輝明の過去に起こった何らかの出来事。トラウマと言っていい類のものが関連しているだろうな。今の状態の輝明にその領域に踏み入らせる行為を容認。いや、俺からの発言だと恐らく輝明の立場的には強制に近いかもしれない。そんな事を進言しても本当にいいのだろうか?)



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