プレッシャァー 〜農高校球児の成り上がり〜

三日月コウヤ

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第67話 5回表 交代か?続行か?(前編)

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「み、皆さん。チェンジ、チェンジですよ!守備に付きましょう」

「そ、そうだった」

「いけね、いけね」

 あまりの衝撃にほとんどの者が呆気にとられていたが、先生の言葉にはっとして我に返った中学生チームの面々は急いでグローブを手にベンチを出た。

「やべ、俺もいそがねーと」

 龍介が慌ててプロテクターを装備しようとするとそれを自由が制止した。

「ああ、龍介待ってくれ。悪いんだがこの回から俺がキャッチャーするから交代してくれ。そんでお前は先生に代わってファーストの方を頼むわ」

 予想だにしていなかった自由のあまりに唐突な発言に龍介は大きく目を見開いて聞き返す。

「は?何の冗談だよ兄貴」

「冗談じゃないぞ。大真面目だ」

 兄貴の大真面目って半分くらいの確立で常人の俺らにとってはおふざげにしか感じ取れない内容のものなんだが。まさか今回もそっち方面じゃねーだろうな?

「仮に兄貴が出るにしても何でわざわざ交代する必要があんだよ。兄貴が先生に代わってファーストに就けばいいじゃん。別にこのままでも問題ないだろう?」

 龍介が理解できない采配に疑問をぶつけていると涼夏が横から乱入して来た。

「そぅおぉ?序盤の誰かさんの情けな~い部分を考えたら交代させられても仕方ないんじゃない?寧ろベンチに引っ込められないだけマシだと思うけど?まあ、今日は交代要員の選手がベンチにいないってだけなんだけど」

「うるせー!いつまでもグチグチ言ってくんな」

「まあ冗談は置いとくとして、こいつの言う通り別に代えなくてもいいんじゃない?まだ上から目線間が抜け切れてないとこあるけどこいつなりに少しずつあいつ赤坂向き合いと始めようとしてるんだし、寧ろこのまま最後まで一試合通させることでより自信と信頼関係を深める方が…」

「もう出会って一週間も経つのに未だに同級生を『あいつ』呼ばわりする涼夏も十分に輝明に対して上から目線間が抜け切れてないよ。で、交代の理由なんだけど…ああ~っと」

「何だよ、珍しく歯切れの悪いじゃんかよ。はっきり言ってくれよ」

 なるべくおふざけ系以外の内容で、な。

「いやなぁ、言いずらいんだけど今の龍介が輝明の球をすぐ捕るのは多分難しいと思うんだよな。うん」

 彼の想定していた最悪のソレとは違い自由の言葉は龍介が十分理解できる範疇のものであった。しかしその内容に全然納得する事はできず、安堵する間も無く、頭に浮かび上がって来る疑問符をひたすら目の前の男にぶつけた。

「は?…い、は?意味わかんねぇ。俺さっきから普通にあいつの球捕ってんだけど?」

「それは輝明に頼んで力をセーブしてもらってるだけ。この回からギアを上げて投げてもらう。それにフォームもちょっと癖のあるのに変わるからかなりてこずると思うぞ?」

「赤坂《あいつ》の球ってあれで全力じゃなかったの?」

「ちょっと待てよ!てことはこれまであいつに手抜きのピッチングさせてたって事か!?なんでわざわざ力隠すような真似させたんだよ?そんな事しなけれりゃ…」

「そんな事しなけりゃ、なんだ?輝明の事を見下したりしなかって?自分から捕手としてちゃんと寄り添ってお手て繋いで仲良くやっていたと?仮に隠さなかったとしても性格的な面を考えると厳しかったと思うが?」

「それは…」

「力を抑えさせたのは色々あるけど、一つはお前がどういう対応するのか見ときたかったからだよ。出会って早々に涼夏も輝明のこと下に見てたからきっと双子のお前も似たようなことになるだろうと踏んでな」

「わ、私の方はそこまでじゃなかったでしょう?」

「…自覚……無いのか!?」」

「…ちょっと、これでもかってくらい眼球開いて信じられないモノを見る様な目で私を見るのは辞めてくれない?ああ、もう!はいはい、私も多少は自覚してますから!」

「どっちだよ?」

「まあ、涼夏の事は置いておくとして、確かに輝明は喋れないみたいだし自己主張とかまずしない。ピッチャーにしては大人し過ぎて、少々気が強すぎるお前らと真逆のタイプだ。だから馬が合わなかったりするとは思う。が、そういう投手こそ引っ張ってリードするのが捕手の役目。だろ?」

「………」

「まあ、お前との事を抜きにしても他にも確かめたい事とかも色々あって主に新入生の為にあえて抑えて投げさせてはいたんだけれど、そろそろあっちのチームの為にも輝明の為にも本腰を入れてもらわないといけないんだよ。ただ今の龍介にはちょいと荷が重いから悪いけど交代してくれ」

「兄貴の言いたい事はなんとなく分かったよ。けど、とりあえずやらせてくれよ!まだその本気とやらを一球すら受けてねーのになんとなく捕れなさそうだから交代とか決めつけすぎだろう?」

「う~ん、でもな~」

「確かに兄貴の言った通り俺はあいつの事をできないやつだと勝手に決めつけてまともに向き合おうとしなかった。今もまだあいつのことちゃんと見てるって言いきれねぇかもしれねーし、殆どわかんねぇ事だらけだよ。けど、けどよ!少しずつ、少しずつ今はこの試合を通して近づけて行けてる気がするんだ。だからよ…」

 やっぱ試合だと距離の縮み具合というか、相手を理解しようとするのが早いな。まだ『相互理解』とはいかないだろうけど。

「…そうか。だったら仕方ない。それなら…」

 自由はこれから先の見えないながらも何かありそうな展開に胸を躍らせながらマウンドでこちらを待っている輝明に視線を移した。


















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