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第66話 潰しちゃった笑
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「嗚呼ああアアァァぁぁーー!!」
涼夏の変貌に目を奪われグラウンドに目を向けていなかった中学生チームは何が起こったのか気になり悲鳴の発生した方へと目をやるとショートを守っていた馬場がグランドにうずくまってうめき声上げていた。
「くそっ!あんのクソ女…絶対、絶対許さねー!!」
何やら呟いているがベンチからは聞き取れず、未だに立ち上がれない馬場の様子から何が起こったのか気になり心配になった先生が駆けつけようとすると、凡退となったであろうソフト女子の田辺が何故か満面の笑みでステップを踏みながらルンルン気分で一塁方向からベンチへと戻ってきた。
「みんなごめ~ん。アウトになっちゃった!」
凡退したことによる謝罪。通常の野球の試合であれば何気ない一言にすぎないのだが、前打席でショートの馬場にヒット性の鋭い打球を捌かれていた。そのため『次の打席は必ず打つ!出来れば憎き男の守備位置であるショート付近に打球を飛ばして!』といった感じで息巻いていた彼女が凡退したにも拘わらず最高の結果だった言わんばかりの表情をしており、皆強烈な違和感に襲われた。
しかもグラウンドから目を離していたため目撃したはけでないが、馬場が倒れている事から彼の方へと打球が飛んで行った可能性は高かった。しかしアウトになって帰って来たというのなら、つまり再びショートの方に打球が飛ばせたが抜くことができずにアウトにさせられたという事。前打席での事を踏まえても前回以上に怒りを露にしていてもなんら不思議ではない状況。
しかし実際の結果に伴われる表情が矛盾しておりベンチの面々は戸惑っていた。
「どうなんてっんだよ先輩のあの表情」
「知らないわよ、けど確かに妙よね。凡退したのに笑みを浮かべてベンチに返って来る選手なんか普通いるわけないわ。ましてグランドの状況見るとまた馬場先輩からアウトにされたっぽいし、そう考えると余計変よね?」
「もしかして馬場先輩の顔面とかにライナー性の打球をぶつけることには成功したからヒット打つよりスカッとした…とかだったり」
「ああ…ありえそうね。ぶつけたいとか言ってた気がするし」
「だが顔は覆ってないから多分もっと下の方、腹とかに当たったんだろう」
「腹部となると打球はほぼ正面ね。シニアでもレギュラーだった馬場先輩が捕り損ねるなんて相当鋭い打球だったんでしょうね」
確かに風太が反応しきれず腹に当てられた打球なら相当鋭かったんだと思う。けどそれ程の当たりだったのなら強烈な打球音が響いたと思うんだが?それに打球を食らってそろそろ一分以上は軽く経ったと思われるが風太の奴、未だに立ち上がれそうにないぞ?
ここまで長いとどっか怪我した可能性もあるし、他のメンバーもその可能性には至っている筈。にも拘らずそんなに切迫した緊張感というか一大事といった感じで心配している様に感じられない。というか寧ろどこかよそよそしさすら感じられる。打球がただ当たっただけとは違う気まずそうな心配の仕方。一体何でだ?
「優奈ちゃん、塁に出れなかったのにすごく嬉しそうだね。何かいい事あったの?」
「そうなんだ~。実はね!実はね!」
「「「(ゴクリ)」」」
「潰しちゃった!」
「「「???」」」
「潰…す?それって確か馬場君の事かな。けどその馬場君の守備範囲から打球抜けなかったんだよね?だったらどういう…」
「んふふふふふふふふ」
ああ、嬉しさのあまり自分の世界に入っちゃったかな。にしても本当にどういう事なんだろう?桃先輩の言う通りさっきの会話だと…
『まあアウトになった事そのものはそこまで悔しくないんだけどあの馬鹿にアウトにされたってのが異様に腹立つんだよね』
『あの人も兄貴とは別の意味で小学生な人ですからね』
『出来ればこの試合中にアイツのいるショート付近へ強い打球でヒット打ってあのクソ顔潰してやりたいわ』
『そうですね、潰してしまいましょう』
って言ってたのに。さっきと同じく出塁を、それも馬場先輩のいる守備位置《ショート》で捌かれたんじゃ寧ろ前打席以上に悔しがりそうなのに何でそんな会心の一打を飛ばしたみたいな満足気な表情で…そう言えばあの後なんか言っていたような…あっ
『ついでに股間にライナー性のやつをぶつけてアレも潰してやりたいわ』
『そ、そうですか…』
ま、まさか。この笑み理由って…
「………ヒィ!」
「あっ!妹ちゃんは気付いた?」
「え?何なんだよ。とっと教えろよ」
「いや、えっ~と。その、なんて言えばいいのか…」
(珍しいな、あのなんでも躊躇なく口にするタイプの涼夏がこんなに口ごもるなんて。よっぽど言いにくいのか)
「輝明はさっき何があったか見てたか?」
自由が尋ねると照明は少し間を置いた後、右手でボールを掲げてから左の人差し指で自身の股の間を指差した。そのジェスチャーを見てすぐは理解できなかった面々も少ししてそれが何を意味しているのか把握した。
そう、田辺優奈の打った打球が不運にも馬場の男性の急所にクリーンヒットしてしまったのだと。
そして理解出来ると同時にその行為の恐ろしさに全員が固まった。
「いや~最高だったわ!打球が当たった直後のあいつの反応」
(田辺(先輩)、恐ろしい子!!」
その屈託のない笑顔が生み出された理由がそれらとは対照的なグロい事にその場の全員の背筋が一層凍りついたのだが、そんな周りの人間の視線の変化に気づけぬ程に彼女は他人の不幸と言うなの幸福を噛み締めていた。
涼夏の変貌に目を奪われグラウンドに目を向けていなかった中学生チームは何が起こったのか気になり悲鳴の発生した方へと目をやるとショートを守っていた馬場がグランドにうずくまってうめき声上げていた。
「くそっ!あんのクソ女…絶対、絶対許さねー!!」
何やら呟いているがベンチからは聞き取れず、未だに立ち上がれない馬場の様子から何が起こったのか気になり心配になった先生が駆けつけようとすると、凡退となったであろうソフト女子の田辺が何故か満面の笑みでステップを踏みながらルンルン気分で一塁方向からベンチへと戻ってきた。
「みんなごめ~ん。アウトになっちゃった!」
凡退したことによる謝罪。通常の野球の試合であれば何気ない一言にすぎないのだが、前打席でショートの馬場にヒット性の鋭い打球を捌かれていた。そのため『次の打席は必ず打つ!出来れば憎き男の守備位置であるショート付近に打球を飛ばして!』といった感じで息巻いていた彼女が凡退したにも拘わらず最高の結果だった言わんばかりの表情をしており、皆強烈な違和感に襲われた。
しかもグラウンドから目を離していたため目撃したはけでないが、馬場が倒れている事から彼の方へと打球が飛んで行った可能性は高かった。しかしアウトになって帰って来たというのなら、つまり再びショートの方に打球が飛ばせたが抜くことができずにアウトにさせられたという事。前打席での事を踏まえても前回以上に怒りを露にしていてもなんら不思議ではない状況。
しかし実際の結果に伴われる表情が矛盾しておりベンチの面々は戸惑っていた。
「どうなんてっんだよ先輩のあの表情」
「知らないわよ、けど確かに妙よね。凡退したのに笑みを浮かべてベンチに返って来る選手なんか普通いるわけないわ。ましてグランドの状況見るとまた馬場先輩からアウトにされたっぽいし、そう考えると余計変よね?」
「もしかして馬場先輩の顔面とかにライナー性の打球をぶつけることには成功したからヒット打つよりスカッとした…とかだったり」
「ああ…ありえそうね。ぶつけたいとか言ってた気がするし」
「だが顔は覆ってないから多分もっと下の方、腹とかに当たったんだろう」
「腹部となると打球はほぼ正面ね。シニアでもレギュラーだった馬場先輩が捕り損ねるなんて相当鋭い打球だったんでしょうね」
確かに風太が反応しきれず腹に当てられた打球なら相当鋭かったんだと思う。けどそれ程の当たりだったのなら強烈な打球音が響いたと思うんだが?それに打球を食らってそろそろ一分以上は軽く経ったと思われるが風太の奴、未だに立ち上がれそうにないぞ?
ここまで長いとどっか怪我した可能性もあるし、他のメンバーもその可能性には至っている筈。にも拘らずそんなに切迫した緊張感というか一大事といった感じで心配している様に感じられない。というか寧ろどこかよそよそしさすら感じられる。打球がただ当たっただけとは違う気まずそうな心配の仕方。一体何でだ?
「優奈ちゃん、塁に出れなかったのにすごく嬉しそうだね。何かいい事あったの?」
「そうなんだ~。実はね!実はね!」
「「「(ゴクリ)」」」
「潰しちゃった!」
「「「???」」」
「潰…す?それって確か馬場君の事かな。けどその馬場君の守備範囲から打球抜けなかったんだよね?だったらどういう…」
「んふふふふふふふふ」
ああ、嬉しさのあまり自分の世界に入っちゃったかな。にしても本当にどういう事なんだろう?桃先輩の言う通りさっきの会話だと…
『まあアウトになった事そのものはそこまで悔しくないんだけどあの馬鹿にアウトにされたってのが異様に腹立つんだよね』
『あの人も兄貴とは別の意味で小学生な人ですからね』
『出来ればこの試合中にアイツのいるショート付近へ強い打球でヒット打ってあのクソ顔潰してやりたいわ』
『そうですね、潰してしまいましょう』
って言ってたのに。さっきと同じく出塁を、それも馬場先輩のいる守備位置《ショート》で捌かれたんじゃ寧ろ前打席以上に悔しがりそうなのに何でそんな会心の一打を飛ばしたみたいな満足気な表情で…そう言えばあの後なんか言っていたような…あっ
『ついでに股間にライナー性のやつをぶつけてアレも潰してやりたいわ』
『そ、そうですか…』
ま、まさか。この笑み理由って…
「………ヒィ!」
「あっ!妹ちゃんは気付いた?」
「え?何なんだよ。とっと教えろよ」
「いや、えっ~と。その、なんて言えばいいのか…」
(珍しいな、あのなんでも躊躇なく口にするタイプの涼夏がこんなに口ごもるなんて。よっぽど言いにくいのか)
「輝明はさっき何があったか見てたか?」
自由が尋ねると照明は少し間を置いた後、右手でボールを掲げてから左の人差し指で自身の股の間を指差した。そのジェスチャーを見てすぐは理解できなかった面々も少ししてそれが何を意味しているのか把握した。
そう、田辺優奈の打った打球が不運にも馬場の男性の急所にクリーンヒットしてしまったのだと。
そして理解出来ると同時にその行為の恐ろしさに全員が固まった。
「いや~最高だったわ!打球が当たった直後のあいつの反応」
(田辺(先輩)、恐ろしい子!!」
その屈託のない笑顔が生み出された理由がそれらとは対照的なグロい事にその場の全員の背筋が一層凍りついたのだが、そんな周りの人間の視線の変化に気づけぬ程に彼女は他人の不幸と言うなの幸福を噛み締めていた。
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