プレッシャァー 〜農高校球児の成り上がり〜

三日月コウヤ

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第63話 万田にはグラウンドの妖精が見えるみたいです(笑)

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――――――――――――――――――――
高校生|3|0|7|0|         |10|
中学生|0|3|2|2          |7|
状況:ボークで一点還してノーアウト・ランナー無し

「まあ、これでランナーいなくなったんだ。切り替えてバッターとの勝負に集中しろよ」

「ふ、お遊びはここまで。この後はサクッと終わらせてやるよ」

「「「………」」」

____________________________________


「ボール、フォアボール!」

「あら?」

「ま~たランナー出しちゃったね」

「サクッと、なんだったっけ?」

「どうする?代わ…」

「だ、大丈夫だ!ここから後ろを抑えれば問題ない!」

「…そうだな」

万田は動揺しながらもファーストランナーの方に目をやった。すると通常ではあり得ない程大きなリードをとられており、その事実に動じずにいられなかった。

か、完全になめられてる!くっ、先輩としての威厳を保つ為にもここは一つ牽制でタッチアウトを…

「おい、さっきやらかしたばっかだろう!学習しろよ」

もう一度だけ牽制球を投げて調子に乗っている一年生を黙らせたい欲求に駆られそうになったが彼の表情からその感情を察知した鬼頭に横から釘を刺されて踏みとどまった。しかしキャッチャーから送られてきたサインに対して首を振った。

(えっ、こっちナックルじゃない?てことはこっちかストレート)

ああ、そうだ。あの感じだとあの一年ランナーは絶対盗塁狙ってくんだろう?けどもしかしたらナックルだと確信してて悠々と走ってっくるかもしれねぇ。その場合ならストレート高めに外して投げてりゃアウトを取れんだろ。

(そこまで上手くいくか?)

まあ、そう上手くいかなかったとしても初球から混ぜればこれからの盗塁に対して多少の牽制にはなるだろう。それにストレートを意識さしとけばバッターの方も打つタイミング鈍らせられるかもしれねーしな。

(まあ、確かにな。お前にしては意外と頭使ってんだな)

ふ、まあな…って『お前にしては』は余計だ!

互いにサインを確認してランナー一塁の状況で二番打者に対して投げた第一球。盗塁を警戒した高めに外すボール球…の予定だった。しかし指が滑ってか、これまで溜まっていた緊張か、ボールは外れる事無く枠内を捉え、さらに思わぬ所にボールは行っていってしまった。

「げっ!」

(((ど、ど真ん中!)))

ピッチャー、キャッチャー。そしてバッターの三者が思いもよらないボールに驚いた。そして笹井はその甘い球をライトへと運びスタートを切っていたファーストランナーはサードへと進塁した。

攻撃前の4点差からホームランとボークで2点差に迫った後もフォアボールとヒットで一年生チームは得点のチャンスが大きく広がり、上級生ナインは気まずい空気が広がっていた。

(あんまりにも絶好球だったもんでつい手が出ちまった。涼夏からの指示は『追い込まれるまでは手を出すな』だったんだけど、流石にアレは打ってよかったよな?ちゃんとヒットにしたわけだし)

少しだけ不安になってベンチの方を見ると笹井のヒットに盛り上がるチームメイトと『よくやった』と言わんばかりに握り拳を作ってこちらを見ている涼夏の姿があり、ホッと胸をなでおろした。

(さて、次は梁間だけど、どうしようかな)
   
スコアボードで現状を確認する。

(9対7の2点ビハインド。ノーアウトでランナー、一・三塁。流れはこっちに来てるし追い上げムードだから普通に打たせたい…けど)

「やってやる!やってやる!」

(思いっきり力入ってるわね。ミスを取り返そうと必死…というよりはさっきのプレーで自信を取り戻したからこの勢いでバッティングもって考えてるっぽいな。自信喪失しかけてるよりは全然いいんだけどこのパターンの梁間だと空回りそうなんだよな~。かといって上手くない小技やらせるのも…)

涼夏はファーストランナーをチラッと見てから少し考えてサインを出した。

(盗塁は成功率高いだろうからゲッツーは無いだろうし、好きに打たせよう。サードランナーは俊足の笹井だし、フライ上げずにピッチャー正面以外に転がせられれば結果的にスクイズになるでしょ)


____________________________________


「何だったんですか、さっきの女子高生でもリバースしそうなほどの甘々《チョコ》ボールは?女の子の気分にでも目覚めちゃったんですか。えぇ?」

「ふ、神は時としてこういう気まぐれをなさるものだな」

「「はぁ?」」

「或いはグラウンドの妖精による悪戯か?まったく困ったもの、いででででででででぇ!」

「困ったものなのはお前のその幼女でも抱かなそうなメルヘンチックな考えだ」

「どっちかっていうと中二じゃない?」

「いや、ただ現実逃避して馬鹿言ってるだけだろう」

「こんの、好きかって言いやがって…」

投球よりも酷い言い訳に内野手のそれぞれが呆れていると捕手が割って入った。

「まあまあまあまあ、もしかしたら本当に見えたのかもしれないよ。万田にしか見えない妖精の様な何かが本当に視界に映ってしまったかもしれないんだ。本人にしか見えないそういうのを追及されるのはつらいだろうからそっとしておいてやろうよ」

「ちょっ…!」

「その理屈だと視界に捉えたモノは見た目が妖精の皮を被った妖怪かもしれないっすけどね」

「そうだな。万田もそういったこの世ならざる特殊なモノが見てしまうような痛々しいお年頃なんだ。理解出来なくてもわかったようなフリをして皆で合わせて頷いてやろうじゃないか。それもチームメイトの役目ってものだ」

「そうだね。流石キャップ、いい事言う」

「全然よくねーよ!俺を思春期男子のヤバイ妄想野郎みたいな目で同情するフリしながら罵倒しつつ憐れむのやめろ!そして隠すつもりあんならちゃんと本人に気付かれないように隠し通す努力しろよ!本人の目の前で堂々と口にしてたら意味ないだろうが!」

「さて、馬鹿すんのもほどほどにして…「馬鹿 ⁉」一応聞いておくが交代するか?」

「ふ、このピンチの場面を凌げるピッチャーがボクチン意外に誰がいるというのかね」

「「「………」」」

「ちょっとぉ――!!そこは『そうだな。ここはお前に任せるぞ』って言ってピッチャーを鼓舞する場面じゃん!なのに皆して何その意味深な沈黙は⁉」

「だってぇ…なあ?」

「うん、剣崎の方が無難に抑えてくれそう」

「ノォーーット!今現在進行形でマウンド上がってる投手に面と向かって言う台詞じゃないでしょうが!」

「そうだな…まあ、とりあえずガンバ」

「マッち、ファイト」

「雑!声掛けていうか励ましがテキトウ過ぎない⁉」

「さあさあ、交代する気は無いようだからそろそろ守備に戻ろうか」

「俺への評価って…くっそぉ~見てよろお前ら!」

(まともに励まそうとしてもプレッシャーになるだろうから茶番に付き合ったけど、さて…)

(((どうなるかな?)))




















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