プレッシャァー 〜農高校球児の成り上がり〜

三日月コウヤ

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第62話 ハイタッチ、再び(後編)

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(なんだろう。なんかこう、改めて意識してやるとちょっと…)

 涼夏は自身の行為ハイタッチにどことなく気恥ずかしさを感じながらも龍介同様に無言のまま彼の前まで手を上げて待ち構えた。輝明は唐突に自身の目の前で行われた行為が理解できずポカーンとしていたが、少しすると先程のハイタッチのくだりを思い出した。

 これってもしかしてハイたち?今度は前沢さんとって事かな。けど、確かさっきやった時は…


『何か間違った?』

『何かじゃねーよ!全体的に間違ってんだよ!何処の世界にただのハイタッチであんな全力投球気味に掌叩きつけて来る奴がいるってんだよ!やるならもっと軽くやれ軽く!』

 って、感じになってたし。今度はどれくらいの力加減で行えば良いのだろうか?

「は、早くしてくれない?こっちも腕上げてんの疲れ…って、何してんの?」

(ただ手を合わせるだけだしさっきのネタみたいなのはもう…さっき?……ま、まさか!?)

 気恥ずかしさから逸る涼夏だったが突然輝明が手を握っては開く動作を行い始めた事で先程の龍介と輝明のハイタッチを思い出し、輝明が手を上げた瞬間咄嗟に退いた。

「か、軽くよ!軽~く。さっきあの愚弟を吹っ飛ばし時みたなに思いっきりやる必要はないからね!」

 ただの仲間とのコミュニケーションを図り、喜びを共有する手段の一つに過ぎないそれが先程の隆介とのやり取りで涼夏の中で恐怖の何かに変わっていた。

「あ~えっと…ほら、私もこう見えて一応だから」

「ぶっふぅ――!!」

 涼夏が慌てて言い訳を口にすると、後方からからそれをあざ笑うかのような声が聞こえて来て、振り返ると彼女の最後の言葉に耐え切れず噴き出した龍介がベンチで必死にお腹を抱えて笑い転げている姿があった。

「ぶっ、おま、お前がおんなの…ぐふっ!が、がさつで荒々しくて、乱暴が服を着て歩くゴリラが女の子って…だぁっーはっは!ダメだ!腹痛ぇ――!!」

「そんなバカ笑いする程可笑しな発言してないでしょう!?」

「いやいやいや、これの何処が可笑しくないってんだよ。だってよ…ぷっ、だぁっーはっは!ダメだ、思い出すだけで腹よじれる。お前らも我慢せずに笑ってやれよ、滅多に無い爆笑シーンだぞ」

「「「………」」」

(いやまあ。驚きの方が強いというか…それに、なあ)

(うん、もしここで龍介みたいに笑おうものなら)

(((後でこっ酷く絞め倒される…)))

「ヒィヒィ、ヤバイ。酸欠で死にそう」

「こら弟君、いい加減にしなよ!いくら兄妹だからって涼夏ちゃんもれっきとしたなんだから。ね、涼夏ちゃん」

「そ、そうですね」

(優奈先輩に改めて指摘されると…くっ、確かに我ながららしくない発言だったわね。今更ながら無性にむず痒くなってきた。けど愚弟、あんたは後で必ずボコる!けどそれよりも…)

「いつまでそうしてぼっーとんのよ!ほら、サッと手を合わせて終わらせるわよ、サッと!」

 いつまでも行動を起こさない輝明に八つ当たりも含めて怒気を飛ばして急かそうした。しかしその反面、心の中では若干の恐怖が残っており行いでほしいという思いもあった。

 けれど涼夏の心配とは裏腹に先程はアドバイス通りにやったのだが相手の龍介の反応が芳しくなかった事と注意を受けたこともあり、力加減がわからなくなっており、どうすればいいのか迷っていた。

 そんな状態で念押しするかのように告げられる涼夏の警告。どの程度の威力が最適か明確な答えが出せずに迷っていた。

(仕方ない。ここは…)

 正解を導き出せなかった輝明は安全策として涼夏の掲げた掌にそっと重ね合わせる衝撃0%を選んだ。そして恐る恐る自身の掌と涼夏の掌を重ね合わせながら彼女の反応を窺っていた。

 涼夏の方は輝明が警告を理解せず先程龍介に行ったようなバレーのスパイクサーブ級の衝撃が来ようものなら即座に避けられるよう経過ししていた。しかし自分に向かって差し出した手にはスピードもパワーも丸の乗っておらず、それどころか一切音が発生する事なく手と手がくっつき合う形に留まった。

 涼夏は勿論どういう結果になるのか一部始終を見ていた周りもあまりに予想外の展開に驚き、目を丸くしていた。

(えっ、なにこれ?これがハイ…タッチ?違くない?いやまあ、吹っ飛ばされるよりは全然イイっちゃイイんだけど、何故このカタチ?)

 音も鳴らず、笑顔もなく。迎え入れようとする僅かな姿勢と困惑した表情。そしてなんとも言えない空気が漂っていた。

(まあ、さっきみたいな肩が吹っ飛ばされそうなのよりは全然いいか)

 固まったまま動かないけれど…正解なのかな?このまま暫く手を合わせていればいいのかな?

(それにしてもこいつの手、マメやタコがいくつもあってすごくゴツゴツしてる)

「…か」

(今まで試合後に握手とかで何人もの選手の手に触れてきたけど、ここまでの感触は多分初めな気がする。ここまでの手になるまでこいつはどれだけの…)

「…涼夏?涼夏ちゃ~ん」

「はっ⁉」

 何度目かの自由の呼びかけが耳に届き、ようやく我に返った涼夏。恐る恐る振り向くと良くも悪くも満面の笑みを浮かべた兄がこちらを見つめていた。

「いや~思ったより仲良くなったようでなにより、なにより」

「ち、違う!」

「そんなに照れなくていいよ~」

 純粋にチームメイトとして進展したと思っている自由とは違い何か含みのある感じで田辺が涼夏を弄って来た。

「断じて照れなんていません!」

「そうかな~」

「何ですかそのニヤニヤした表情は?」

「ええ~だってさ~、ただ手を合わせてただけだったのにあんなに真剣に指を絡めて
 んだもん。しかもそれがあの涼夏ちゃんからだなんて、お姉さんびっくりしちゃったな~」

「それはこいつの手がやけにゴツゴツしてて気になっただけで…」

「そうだよね~気になるよね~。うんうん、お姉さん分かる。分かるよ~」

「あの、『ゴツゴツしてて』って部分をちゃんと拾ってくれませんかね?何か都合よく解釈してとんでもない勘違いしてませんか?桃先輩からもなにか言ってくださいよ」

「わ、私!?ええっと…私から見てもすごく、その…ドキドキした、よ」

「もうダメだ~」

(うぅ、何でこんな見せ物みたいな目に…それもこれもこいつのせい!)

 元凶?である輝明に少しでもイライラをぶつけんと睨もうとするも、その相手が自分の方を無言のままジッと観察するように見つめていた。

「な、何よ?」

 涼夏が問うと輝明は後ろポケットからメモ帳とペンを取り出してなにやら書き出して涼夏の前に突き出した。

【もしかしてやり方あってなかった?】

「思いっきり間違ってるわよ馬鹿ぁーー!!」

 涼夏の叫び声は中学生ベンチだけでなく高校生ベンチにも聞こえてしまうくらい響き渡り、怒った本人は不満な満載な顔でベンチへと戻って行きった。

(ハイたちって。難しい)

「いや~また一歩チームメイトと仲を深められたな!」

 慣れないやり取りに苦心していると自由が声を掛けて来た。

 前沢《涼夏》さんの言動や行動からして怒らせてしまっているようにしか見えないし、そういう意味では絆よりも溝の方が深まった気がしますけど…

「それよりも、ナイスラン!」

(これくらい…なのかな?でも今のって結構強めだと思うんだけど…)

「いや~、また文字通り一人で点取っちまったな。間違いなくMVP確定だな!」

 通常のそれよりも遥かに強めのタッチが彼の手を襲い混乱しそうになるが、それ以上に一生懸命嬉しそうに祝福してくれる自由の熱にどこか心地よさを感じながら少しだけ口角を緩めていた。
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