上 下
62 / 87

第60話 舐められてる?

しおりを挟む
///|1|2|3|4|5|6|7|8|9|計
――――――――――――――――――――
高校生|3|0|7|0|         |10|
中学生|0|3|2|1          |6|
状況:4回裏、四球によりノーアウト・一塁


「最後はストレートだったわね」

「しかも外して使って来たな」

(確かに外れたけどあれはさっきの特大ファールの後だから相手はストレート捨ててるだろうと踏んで裏をかくつもりで投げて来たんだろうな。多分万田先輩の意思で。けどさっきのワンバンの事も含めると多分釣り球で勝負に行ったんじゃなく入れに行こうとしたけど外れたんだろうな)

「続けよ鎌田!」

「思い切ってストレート狙っていきなさい!」

(ここまで凡退ばっかだし、そろそろ俺もあいつらに続かないとな!)

(歩かせることになったけど、その結果『打たれた後でもストレートを投げて来る』って意識をこっちベンチに強く植え付けたんだ。これがバッテリーにとって今後プラスかマイナスか…それよりもランナー出たけど今回はどうすんだろ?万田先輩は)

 ____________________

「どうする?剣崎と変わるか?」

「い、いやいや。ここは行かせてくれ!」

「行けるのか?」

「相手は一年だし、多分大丈夫だろう。それに…」

「それに?」

「あの野郎が相手ベンチいながら引っ込むのなんかこう、負けた気がしてよ」

「分かった。取りあえずバッター勝負な。しっかり入れて行こうぜ」

「おう」

 ”シュッ” ”パァン”

「ストライーク!」

(よし、入った!)

「ナイスボール!」

「一球目、難なく入ったわね」

「ああ」

「………」

 ”シュッ” ”パァン”

「ストライーク、ツー!」

「くっ、一気に追い込まれた」

「けどミートは難しいけど豪速球みたいなバットに当てられない類の球じゃないわ。最低でも転がしてランナー進めないと…」

「対決に夢中で気付かないか二人共。まあ、あの感じだとピッチャーも気付いてないみたいだけど」

「「えっ?」」

 よっしゃ、流石俺様!このまま一気に…

「おい、何やってんだ万田!」

「はあ?何がだ?」

「ん!」

 ファーストのキャップテンが指差すが万田は一瞬彼が何を伝えたいのか理解できなかった。

 何を怒ってやがんだ鬼頭の奴。ベースにセカンドランナーがいるだけじゃねーか。一々騒ぐような事じゃ………ん?セカンドランナー?

 先程まで居なかったランナーがその場に存在している事に気が付き、ファーストを確認してランナーがいない事から盗塁されたのだと万田ようやく理解した。

「げげぇっー!い、いつの間にー!」

「ついさっきだよ。余裕で走られてたぞ。それとお前、ランナーいるんだからワイ…なんでもねえ。ツーストライクだからな。バッター勝負」

「お、おう」

 流石に警戒が薄すぎたか?ピッチャー相手とはいえ油断し過ぎたぜ。けどランナーが二塁に進んだのなら仕方ねえや。けど三盗はリスクが高いしそこまで警戒しなくていいだろう。

 と盗塁された件を切り替えようとしていた直後、打者《鎌田》に投げた際に輝明はスタートを切り、キャッチャーは投げる事が出来ず三盗を許してしまった。

 しかも打者への球がボールだった事もありツーストライク、ワンボールで追い込んではいるものの、ノーアウト・三塁という1失点は覚悟しなければならない大きなピンチを迎える形となってしまった。

「ピ、ピッチャーなのに中々果敢に攻めて来るじゃないか。あはははは」

「あ、あいつまた走りやがった!」

「というかナックルのインパクトが強過ぎて見落としてたけど、何で万田先輩ランナーいるのにワインドアップで投げてんの?」

「それにキャッチャーの人も今取り損ねてなかったか?」

(流石に気付かれたか。まあ、これに関してはいいか)

「あの人はああやって腕上げて投げないと力入れて投げずらいからストライク入れずらいらしくてな。だからもう割り切ってああいう投げ方させてんだよ。森村先輩の方は…まあ、ナックルは捕球すんのがかなり難度の高い球だからな。キャッチャー歴を考えたら仕方ないさ」

「そっちは仕方ないにしても万田先輩の方。あれじゃランナーからしたら盗塁し放題じゃないの?」

「確かにセットじゃないと多少ランナーがスタート遅れても盗塁確率はそこまで低くないだろう」

「ああ、だから普段はランナー無しなら万田先輩に、ランナー出たら剣崎に代わってもらうことにしてるんだ」

「剣崎先輩の使い方酷使し過ぎじゃない?」

(器用貧乏というか便利屋とでも認識されるんじゃてないわよね?)

「…その辺は返す言葉もないな。まあ、それは一旦置いといて、今日はそのままマウンドで投げる事を選んだみたいだな。大方一年相手ならナックルに気を取られて盗塁されないとか思ってたんだろうけど…」

「まんまと走られて二盗どころか三盗まで許してしまった、と」

(しかも問題はそれだけじゃない。盗塁を許してしまう根本的原因。それに気付かれると………気付いてるっぽいな)

「ちょっ、あいつ今までで一番リード大きく取ってないか?というか流石に取り過ぎだろあれは!?調子乗り過ぎだ!あれだと牽制されたら確実に刺されるぞ」

「確かに刺されるでしょうね。まともに牽制されたら、ね」

「えっ?」

(涼夏も薄々気付いたか。さてバッテリーはどうするのかな?)

 ____________________

 サードランナーのくせにリードデカすぎだろうこの一年!大人しそうな顔してるくせに連続盗塁といい、完全に調子乗ってやがる。これはホームスチールしてくる可能性もあるんじゃねーか?

(流石にそれは無い…とは思う。が、仮にされたらされただ。まだワンナウトだしボテボテゴロでもホームで刺せなきゃ一点なんだ。ランナーの事は忘れろ)

「バッター勝負、バッター勝負!」

「点差あるからランナー気にすんな」

「出来ない事は無理してやろうとしても意味ないよ~馬鹿は馬鹿なんだから~」

(みんなもこう言ってるし目の前のバッターに集中しよう)

 一つ明らかに集中を切らすのが混じってたんだが?

「馬鹿は馬鹿なんだから~いつも以上の事とかやろうとしなくていいんだよ~。大事な事だから二回言ったよ~」

「お前本当に援護する気あんのか!?」

 くっ、まあコイツの事は置いといてもよ、流石にこれは…

「………」

 どんだけ睨んでもまるでリード縮めようとしねーぞコイツ。くそっ!このまま舐められっぱなしで堪るかよ!

 あまりに大きなリードを目の前で取られ続け、こちらが視線を送るもベースへと戻る気配すら見せない一年生に万田を痺れを切らした。

 食らえや一年坊!

 変らず大きなリードを取り続ける輝明に堪らず万田は三塁に牽制球を投げた。
しおりを挟む

処理中です...