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第49話 ハイタッチ
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――――――――――――――――――――
上級生|3|0|7| |10|
中学生|0|3|2| |5|
試合状況:3回裏4番隆介のツーランで2得点。点差を5に縮めた。
「やったなこのヤロー!」
「俺は打つって信じてたからな!」
「痛って!強く叩きすぎだお前ら」
ホームランによって悠然とダイヤモンドを回ってベンチに戻ってきた自由はチームメイト達から手荒い祝福を受け数ヶ月ぶりにこの瞬間にだけ訪れる幸せを噛み締めていた。龍介が幸せのひと時を味わっていると彼の背中から感じる衝撃が一つ追加された。
「いや~よくやってくれたね弟君!でかした、でかした!」
称賛してくれてはいるもののその掌から伝わる衝撃は男子のチームメイトからされているそれよりも数段強いもので、正直喜びよりも痛みの方が優っていた。
「田辺先輩痛い!痛いですって」
「女の子にされてるからって照れない、照れない」
「全然そんなんじゃないんてすが!?」
この人も兄貴みたいに人の話聞かないタイプだな。めんどくせぇ!
龍介が勝手な勘違いを続ける先輩に苦戦しているとそんな彼の状態を楽しそうに見つめながら一枚のハンカチをひらひらさせている涼夏の姿が目に入った。
「いや~残念ね。せっかくあんたが連続で凡退した時に備えて泣いてもいいようにハンカチを用意してあげてたのに」
「うるせー、お前も続けよ」
「はいはい、分かってるわよ。それより他の男子共!私達が点を取った時よりも随分と嬉しそうにはしゃいでたわね?」
「い、いや~それは…」
「りょ、涼夏ちゃんの気のせいだって。なぁ?」
「そうそう。気のせい、気のせい」
「まあ、現役高校球児の自分らが三者凡退の時に女子だけでヒット打って得点してたらそりゃ心境としては複雑よね」
「「「………」」」
「気持ちは分かるけど気にするのならちゃんと打ちなさいよ。じゃないと…分かってるわね」
「「「イエッサ――!!!」」」
「それより隆介、ん」
涼夏が立てた親指を後ろ側にやり後方を示した。するとそこには涼夏達から少し離れた位置で一人ポツンと立っている輝明がこちらをジッと見つめていた。
「俺にどうしろってんだよ」
龍介がそう聞くと涼夏は嘲笑う表情を浮かべた直後「さあ?」とでも言わんばかりに両手を広げる。
「私にはわからないけどあんたはわかるんじゃない?というかわからないとダメよね。キャッチャーなんだからピッチャーの気持ちを考えて汲んであげないと」
「その理屈で言うならお前も同じ投手なんだから同じく投手であるあいつの気持ちを察する事くらいできないんですかね~?」
「「…………」」
「まあ、赤坂の考えを理解するのは難しいとしてもチームメイトとして試合で距離を縮める簡単な方法くらいは脳みその足りないあんたでも知ってるじゃないかしら?」
そう言うと涼夏は両手を叩いて"パンパン"と音を鳴し、龍介は彼女がが何を伝えたいのかを理解した。
「内容はよくわからないけどさっきは赤坂《あっち》の方から距離を縮めに来たわよね?それなら今度はあんたな番なんじゃない?それともリュウちゃんには難しかったかしら?」
「おい、母さんみたいな呼び方するな。気色悪い」
「そうね、私もちょっとふざけてみたけど気持ち悪さで吐きそうよ」
さっきの赤坂の行動のアレは距離を縮めようとしたと言えるのか?なんか違う気がするんだか…でも短い間柄だが赤坂の性格とかを考慮すると投手《あいつ》側から来た辺りは歩み寄ろうたしてくれたと言えるのかもな。なら…
隆介は意を決して輝明の元に行き、気恥ずかしそうに開いた手を頭の位置まで持ち上げてからそっほを向いた。
「ん」
隆介の方はハイタッチのつもりなのだが今までそういった経験の無かった輝明はその意図を読み取る事ができずなかった。困惑した輝明は尻ポケットからメモ帳を取り出すと何かを確認する様にページをめくった。
(う~ん、さっきの回は『龍介が落ち込んでいる様に見えたらあのおもちゃを差し出せ』って指示されてた。けど…)
「え、お前試合中ポケットにそんなもん入れてたのか?」
(今回は出塁した前沢君ホームを踏んで還って来たら彼の側に行くようにとだけ書かれててなかった。ホームランだったからか皆んなが彼に集まってて、行きづらくて少し離れた所で立ち尽くしちゃってたけど)
パラパラとページをめくって他に記載された箇所が無いか確認するが、そういったページは一切無く、彼の伝えたい事が何であるかを輝明なりに懸命に考えた。その結果『何処か痛めたのではないか?』という考えに至り、隆介の手を観察するように触りだした。当然輝明の予想外の行動に隆介と他の面々は目を丸くして驚いた。
「ちょ、お前何やって…」
こちらが質問している間に手を離した輝明はとポケットから次はペンを取り出すと手帳に何やら書きだした。
俺は今、一体何を見せられてんだ?俺はただハイタッチをしに来ただけの筈。ただ手と手を合わせてバチンとやってハイ終了…の筈なんだが
混乱しかけていると輝明が何かを記したメモを渡して来た。
『何処も怪我はしてないと思うから安心て』
「ああ成程、わざわざ心配してくれたのか。されはありが…て、違うわ!手を見てくれってんじゃなくてハイタッチだよ、ハイタッチ!」
(はい、たっち?)
「『何それ?』とでも言わんばかりの顔してるぞ、あいつ」
「得点取った時とかにこう手を合わせんだよ」
「そうそう、さっき私がこいつらの背中にやったみたいに。こう思いっきり遠慮無くバァーーン!』とね」
(さっき前沢さんがやっていたみたいに?思いきりって事はなるべく掌に力が集約するようにって事だからボールを投げる時の様な感覚だろうか?)
「変なこと言うな涼夏。別に思いっ切りやる必要なんて…て、何でお前右足上げてだんよ」
(あの左手に届く程度に踏み込んで…)
「お、おまっ、まさか…ま、待て!まっ…」
輝明の動作から嫌な予感が全身を駆け巡り必死に止めようとするも一歩遅かった。
”バァッチィ――ン!!”
投球モーションの様に体重移動で重心を下げながら下半身のエネルギを左腕に集めつつ、手が交差するポイントの直前に一気に振り抜いた。全エネルギーが集約された輝明の左手は見事隆介の左手に直撃した。
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