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第44話 忘れぬ過去
しおりを挟む数カ月前。龍介らがのいたチームは全国大会に出場を懸けた試合を行っていた。好投手の投げ合いで膠着状態となっていたが6回にようやく勝ち越しに成功。そして相手の攻撃は後2回。後2回の攻撃を凌いで守り切れれば勝てるところまできていた。
しかしそこで思いもよらぬミスが起きてしまった。
ランナーが三塁にいる状態でまさかのパスボール。これによって結果得点を許すことになり彼らのチームは同点に追いつかれてしまった。
「…すまねえ、俺がちゃんと捕ってれば」
「い、いや。仕方ないが。」
投手は攻める事はせず龍介に励ましの言葉を送ったがゴールが目の前まで見えていた状況なだけにそれが遠のいた事実に彼は顔を引きつらせ表情からは落胆の気持ちが見とられらた。
それでも気持ちを切り替えて前を向こうとする連打を許してしまい逆転の危機を迎える。エラーと連打によるジリジリと嫌な空気がグラウンド全体に充満し普段とは比較にならないプレッシャーが彼らにのしかかった。もう一点もくれてやるわけにはいかない状況故の『絶対にミスは許されない』というプレッシャーが。
しかしその魔物が彼らから緊張を誘発し、余裕を奪い、普段ではありえないようなエラーを引き起こしてしまった。そして最終的にチームはその回に大量失点してしまい、反撃もかなわず敗れてしまった。それが彼らの中学最後の試合となった。
当分はひきずっていたがしばらくするとこの悔しさを高校でリベンジせんと面々は立ち上がった。そして中学を卒業して高校入学を目前に控え、他の生徒より一足先に入寮してチームに合流して野球に打ち込む…つもりだった。
しかしいざ入寮の日が近づくにつれあの日の敗北した過去が彼を悪夢として襲うようになった。それは来る日も来る日も訪れ龍介に『覚悟はできているのか?』とでも問うかのように。
「なあ、もうちょっと入寮の時期をずらさないか?」
ある時、共に入学予定のシニア連中と集まっていた時に誰かが言い出した。
「実は新作のパワポロのゲームに嵌っちまってさあ。どうせ入学したら野球漬けなんだしさ。もう少し遊ぶ事に時間を割いてもいいんじゃねーか?」
そいつの目を見た瞬間に俺は確信した。その言葉は嘘だ、と。こいつはきっと怖いんだと。あのグラウドに立って再びあのプレッシャーっと向き合って行かなければならない事が怖いのだ。
「そうだな。あの学校って3年間寮生活で厳しいって聞くし」
「入っちまったらこんな風に自由な時間もほとんどなくなっちまうだろうしな」
一人、また一人とその意見に仲間達が賛同していってしまう。きっと他の奴らもまだあの絶望的な敗北のショックが消えていないのだろう。こいつらあの時エラーしてたのもあってその傷口は人一倍深い筈だ。
気持ちは分かる。俺だってまだあのトラウマを克服したとは言い難い。時折パスボールして同点を許してしまった時の光景が夜な夜な夢に出てきてしまう。あの時の事が脳裏に焼きついて未だに離れない。
けれど、だからこそここで逃げるわけにはいかねぇ!始まる前からそんな風に逃げてたらきっと変われないままだ。だから…だから…
『馬鹿言ってねえでさっさと入ってレギュラー掴むんだよ!そんで夏には俺らで暴れてやろうぜ』
そう、一喝するつもりだった。皆んなが立ち止まっている今こそおれが引っ張る。そう思って何度も否定の意見を頭の中で浮かべた。けれど実際に口出せたのは…
「そうだな。全員合格も決まった事だし、少しくらい羽伸ばして遊んでみるか!」
…逃げた。
立ち向かわなくては行けない。それは頭ではよく理解していた。しかし体と心がそれに付いていけなかった。結局俺は歩みを進める事ができなかった。
そして時間だけが経過していき、流れなんの覚悟も決まっていない有耶無耶な状態のまま入寮の日を迎えちまった。そして…今現在。俺はあの試合から自分が立ち止まってしまったままである事を実感していた。
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