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第40話 俺のミスだ
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「さあ~てこの先どうなるかな?」
「下手するとこの回で試合が決まりかねないけど」
「いくらシニア連中とはいえ入学前のこの時期にこれは厳しすぎ…」
「ノーアウト満塁!バッター7番からだ。みんな状況しっかり頭に入れといてくれ!」
(((龍介(愚弟)の奴、さっきまでと表情が違う!焦りやイラつきが消えて…)))
「おお!サードこい、サード!」
「ショート付近ならゲッツー取ってやるわ!セカンの子、上手く合わせてね」
「はいっ!」
「センターに打たせるようにリードしなさい!必ずバックで刺してやるわ!」
「おお、意外。さっきまであんなにカッカしていたのに試合再開前に守備にちゃんと指示出来るようになって戻って来た」
「指示と呼べるかは疑問の余地が残るけど他に気を回す余裕が出てきたのは確かだな」
「若干笑ってるよに見えるっていうか、なんか吹っ切れた様に見えますね」
「どういう話をしたのかわからないけど意味はあったぽいね。けど問題はここから」
「ああ。どう来るのか見させてもらおうか」
「プレイ!」
(まずは外………いや、ここは思い切って)
”コク” ”シュッ” ”パァン”
「………」
((どうだ?))
これまでの配球よりも少し内側に投げ込まれた球を見てこれまで即判定していた審判が少し戸惑ったように間を置いてから動きを見せた。
「ストライーク!」
((よし、取ってもらえた))
「ナイスコース!」
次は…
”シュッ” ”パァン”
「ストライーク、ツー!」
「…くっ!」
やっぱりそうだ。立ち位置が少しベースから離れた位置にいるうえ今のもかなり腰が引けてた。この人インコースの球が苦手なんだ。これなら…
「おお、再開早々無死・満塁にも拘わらず立て続けにインコース勝負とは攻めるねーバッテリー。」
「最初はインロー、次にインハイ。そしてどっちも狭めたコース内に入れて来た」
「ノーアウト満塁だから外野フライでも一点なのに強気だな。初回のアウトローに一辺倒とは真逆のリードだな」
「思ったより早く立ち直して来たね」
「それならこっちも仕掛けますか」
打者は自由からのサインを受け取り、輝明が足を上げた瞬間にバッターはバントの構えを見せた。
やべっ、スクイズ!くっそ、状況把握しとけとか言っときながら頭から抜けてた。俺のアホ!
”シュッ”
「なっ!」
この軌道…
”パァン”
「ボール!」
「外してきた!?」
「げっ!」
よっしゃ!刺せ…
スクイズに備えてホーム突っ込もうとしていたサードランナーだったがスクイズを外されて慌てて帰塁しようとしていた。このままサードに放ればアウトに出来たのだが、突然のチャンスに焦ってボールを掴み損ねたせいで送球がそれてタッチが間に合わずセーフとなってしまった。
「あっぶね」
「おいおい、しっかりしろよバッター!危うくアウトになるところだっただろうが!」
「仕方ないだろう、ただでさえバントあんまり上手くないんだからよ。外されてんのにスクイズとかできるかよ。文句ならベンチで指示出したアレに言え」
「成功させろとまでは言ってねーよ!けどせめてバットに当てやがれ馬鹿野郎!おめーがアウトになって一死《ワンナウト》・満塁になるより三塁走者が挟まれてタッチアウト食らって一死・一、二塁になる方が痛いわ!」
「ああ~ああ~。わっーたよ」
「今のは危なかったな~。もしかしてキャッチャーが指示出して外してきた?」
「いや、スクイズの際に頭から抜けてた言わんばかりに驚いた表情してたから多分違うな」
「てことはピッチャーが咄嗟にウエストしたのか。あいつ本当に器用だな」
「けど今のでアウトを取れなかったのはかな痛いな。そしてそれはキャッチャーであるあいつが一番感じてるとは思うけど…」
情けねえ。去年殆どスクイズとかやってなかったチームとはいえ外野フライとかばかり気にし過ぎてた。今のは取らなきゃいけないアウトだったてのに…クソっ!
それにしても今外されたといえスクイズしてこなかった。さっきの会話が事実なら今の後でスクイズは無い…とは思うがどうだろう?この試合の流れからして親睦深めるためってのは多分違うもんな。本気で勝ちに来てる。万が一今のが急についた嘘とかだった場合…
話し合いの為自由はタイムを取って再びマウンドへと駆け寄った。
「ちょっと相手の出方を見たいから一球外してもらっていいか」
尋ねた直後に輝明は首を縦に振った後に手の甲を表にして振った。
また謎々みたいなのが出てきたな。えっと拳を握って振る…駄目だ、さっぱりわかねーぞ。いや、今回はほとんど話してないんだ。そんで会話の流れ的にシンプルに考えると答えは…
「もしかしてウエストのサイン。なのか?」
”コクコク”
「よし、それでいこう。もし入れるサインの時でもランナー動いたと思ったら外せたら外してくれ」
輝明の頷く姿を確認後ホームに戻り再開後にバッテリーは初球は外す事を選択した。
「ボール!」
スクイズの構えはしたけどサードランナーの動きはなしか。構えで揺さぶってるだけか?なら今度は入れるぞ。
しかし輝明がモーションに入るとサードランナーはスタートした。
「なっ!」
(まさか本当にしてくんのかよ)
”シュッ”
(よし、今度も外してくれ…いや、マズイ!)
輝明の投げたボールは確かにバッターのバットが届かない所に放られたが、同時に龍介からも若干遠く、懸命に掴もうとするも僅かに届かず後ろに逸らしてしまった。
「回れ!回れ!」
輝明が素早くホームカバーに入るも満塁でのスクイズでランナーは全員スタートを切っていた為、それぞれ二つずつ進塁して2点と取られて尚ノーアウトランナー2、3塁となってしまった。
「くそっ!」
苛立ちから地団太を踏んでいると輝明が近くに来て頭を下げた。それを見て我に返り龍介は動揺した。
「いいって、謝んな。今のは俺のミスだ」
そう、俺のミス。スクイズの動きがあったら外してくれと言っときながら、これまでのやり取りでこないだろうと決めつけてたら実行されてそれに驚いて一瞬硬しちまったんだ。確かにさっきより少し外れてたけどそもそも急にウエストしろってのに無理があるし、寧ろ暴投レベルにならないようによく投げてくれた方だ。
問題は俺の方。意表を突かれて動揺してたせいで動きが鈍って僅かに届かなかったんだ。ちゃんと警戒してればきっと取れて筈だ!そうすればスクイズ失敗でバッターアウト+サードランナーをアウトに出来て2アウト2,3塁。犠牲フライもスクイズも気にする必要がなくなって今よりずいぶん楽に投げさられるようになってのに!
…また、なのか?またあん時みたいに俺のエラーから…
龍介が現実の失敗により過去の出来事がフラッシュバックして沈みかけた時、輝明がこちらをじっと見つめている事に気付いて我に返った。
なに黄昏ようとしてんだよ!今試合の真っ最中だろうが!落ち込んでる場合じゃねーだ!寧ろこっから挽回しねーとだろ!
「俺は大丈夫だ!切り替えて次のバッターでアウトを取るぞ」
少々心配そうに見つめていた輝明だったが龍介の言葉を受けてすぐマウンドへと戻った。そんな彼の後ろ姿を見つめる龍介は唇を噛みながら自身の動揺を悟られれないようにその揺らぎをマスクと共に隠すのだった。
「下手するとこの回で試合が決まりかねないけど」
「いくらシニア連中とはいえ入学前のこの時期にこれは厳しすぎ…」
「ノーアウト満塁!バッター7番からだ。みんな状況しっかり頭に入れといてくれ!」
(((龍介(愚弟)の奴、さっきまでと表情が違う!焦りやイラつきが消えて…)))
「おお!サードこい、サード!」
「ショート付近ならゲッツー取ってやるわ!セカンの子、上手く合わせてね」
「はいっ!」
「センターに打たせるようにリードしなさい!必ずバックで刺してやるわ!」
「おお、意外。さっきまであんなにカッカしていたのに試合再開前に守備にちゃんと指示出来るようになって戻って来た」
「指示と呼べるかは疑問の余地が残るけど他に気を回す余裕が出てきたのは確かだな」
「若干笑ってるよに見えるっていうか、なんか吹っ切れた様に見えますね」
「どういう話をしたのかわからないけど意味はあったぽいね。けど問題はここから」
「ああ。どう来るのか見させてもらおうか」
「プレイ!」
(まずは外………いや、ここは思い切って)
”コク” ”シュッ” ”パァン”
「………」
((どうだ?))
これまでの配球よりも少し内側に投げ込まれた球を見てこれまで即判定していた審判が少し戸惑ったように間を置いてから動きを見せた。
「ストライーク!」
((よし、取ってもらえた))
「ナイスコース!」
次は…
”シュッ” ”パァン”
「ストライーク、ツー!」
「…くっ!」
やっぱりそうだ。立ち位置が少しベースから離れた位置にいるうえ今のもかなり腰が引けてた。この人インコースの球が苦手なんだ。これなら…
「おお、再開早々無死・満塁にも拘わらず立て続けにインコース勝負とは攻めるねーバッテリー。」
「最初はインロー、次にインハイ。そしてどっちも狭めたコース内に入れて来た」
「ノーアウト満塁だから外野フライでも一点なのに強気だな。初回のアウトローに一辺倒とは真逆のリードだな」
「思ったより早く立ち直して来たね」
「それならこっちも仕掛けますか」
打者は自由からのサインを受け取り、輝明が足を上げた瞬間にバッターはバントの構えを見せた。
やべっ、スクイズ!くっそ、状況把握しとけとか言っときながら頭から抜けてた。俺のアホ!
”シュッ”
「なっ!」
この軌道…
”パァン”
「ボール!」
「外してきた!?」
「げっ!」
よっしゃ!刺せ…
スクイズに備えてホーム突っ込もうとしていたサードランナーだったがスクイズを外されて慌てて帰塁しようとしていた。このままサードに放ればアウトに出来たのだが、突然のチャンスに焦ってボールを掴み損ねたせいで送球がそれてタッチが間に合わずセーフとなってしまった。
「あっぶね」
「おいおい、しっかりしろよバッター!危うくアウトになるところだっただろうが!」
「仕方ないだろう、ただでさえバントあんまり上手くないんだからよ。外されてんのにスクイズとかできるかよ。文句ならベンチで指示出したアレに言え」
「成功させろとまでは言ってねーよ!けどせめてバットに当てやがれ馬鹿野郎!おめーがアウトになって一死《ワンナウト》・満塁になるより三塁走者が挟まれてタッチアウト食らって一死・一、二塁になる方が痛いわ!」
「ああ~ああ~。わっーたよ」
「今のは危なかったな~。もしかしてキャッチャーが指示出して外してきた?」
「いや、スクイズの際に頭から抜けてた言わんばかりに驚いた表情してたから多分違うな」
「てことはピッチャーが咄嗟にウエストしたのか。あいつ本当に器用だな」
「けど今のでアウトを取れなかったのはかな痛いな。そしてそれはキャッチャーであるあいつが一番感じてるとは思うけど…」
情けねえ。去年殆どスクイズとかやってなかったチームとはいえ外野フライとかばかり気にし過ぎてた。今のは取らなきゃいけないアウトだったてのに…クソっ!
それにしても今外されたといえスクイズしてこなかった。さっきの会話が事実なら今の後でスクイズは無い…とは思うがどうだろう?この試合の流れからして親睦深めるためってのは多分違うもんな。本気で勝ちに来てる。万が一今のが急についた嘘とかだった場合…
話し合いの為自由はタイムを取って再びマウンドへと駆け寄った。
「ちょっと相手の出方を見たいから一球外してもらっていいか」
尋ねた直後に輝明は首を縦に振った後に手の甲を表にして振った。
また謎々みたいなのが出てきたな。えっと拳を握って振る…駄目だ、さっぱりわかねーぞ。いや、今回はほとんど話してないんだ。そんで会話の流れ的にシンプルに考えると答えは…
「もしかしてウエストのサイン。なのか?」
”コクコク”
「よし、それでいこう。もし入れるサインの時でもランナー動いたと思ったら外せたら外してくれ」
輝明の頷く姿を確認後ホームに戻り再開後にバッテリーは初球は外す事を選択した。
「ボール!」
スクイズの構えはしたけどサードランナーの動きはなしか。構えで揺さぶってるだけか?なら今度は入れるぞ。
しかし輝明がモーションに入るとサードランナーはスタートした。
「なっ!」
(まさか本当にしてくんのかよ)
”シュッ”
(よし、今度も外してくれ…いや、マズイ!)
輝明の投げたボールは確かにバッターのバットが届かない所に放られたが、同時に龍介からも若干遠く、懸命に掴もうとするも僅かに届かず後ろに逸らしてしまった。
「回れ!回れ!」
輝明が素早くホームカバーに入るも満塁でのスクイズでランナーは全員スタートを切っていた為、それぞれ二つずつ進塁して2点と取られて尚ノーアウトランナー2、3塁となってしまった。
「くそっ!」
苛立ちから地団太を踏んでいると輝明が近くに来て頭を下げた。それを見て我に返り龍介は動揺した。
「いいって、謝んな。今のは俺のミスだ」
そう、俺のミス。スクイズの動きがあったら外してくれと言っときながら、これまでのやり取りでこないだろうと決めつけてたら実行されてそれに驚いて一瞬硬しちまったんだ。確かにさっきより少し外れてたけどそもそも急にウエストしろってのに無理があるし、寧ろ暴投レベルにならないようによく投げてくれた方だ。
問題は俺の方。意表を突かれて動揺してたせいで動きが鈍って僅かに届かなかったんだ。ちゃんと警戒してればきっと取れて筈だ!そうすればスクイズ失敗でバッターアウト+サードランナーをアウトに出来て2アウト2,3塁。犠牲フライもスクイズも気にする必要がなくなって今よりずいぶん楽に投げさられるようになってのに!
…また、なのか?またあん時みたいに俺のエラーから…
龍介が現実の失敗により過去の出来事がフラッシュバックして沈みかけた時、輝明がこちらをじっと見つめている事に気付いて我に返った。
なに黄昏ようとしてんだよ!今試合の真っ最中だろうが!落ち込んでる場合じゃねーだ!寧ろこっから挽回しねーとだろ!
「俺は大丈夫だ!切り替えて次のバッターでアウトを取るぞ」
少々心配そうに見つめていた輝明だったが龍介の言葉を受けてすぐマウンドへと戻った。そんな彼の後ろ姿を見つめる龍介は唇を噛みながら自身の動揺を悟られれないようにその揺らぎをマスクと共に隠すのだった。
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