プレッシャァー 〜農高校球児の成り上がり〜

三日月コウヤ

文字の大きさ
上 下
38 / 88

第36話 まさかの…

しおりを挟む
 ~数日前~

「なあ、お前も打席に立ってみたらどうだ?」

 龍介にそう言われてから一瞬だけ涼夏の方を見てから首を横に振った。

「いいじゃん、私もあんだがどれくらいバッティングできるのか知りたいし。一打席勝負しましょうよ」

 これまで練習とかで色々勝負してきて負け越してるからね。ここいらで私の得意分野で勝ち星を稼がせてもらおうかしら

(勝負。やっぱり競おうとしているのかな?けど…)

 別に明確に勝負しているわけではないのだが最初に輝明に三振させられた辺りから涼夏が一方的にライバル視して意識していた。

「それとも私と勝負するのが怖いのかしら」

 流石にこいつでもこんな風に、それも女子に言われれば嫌でもプライドが刺激されて…

 涼夏はこれまでの経験から確信に近い思いを抱いて挑発交じりに言ってのけたものだったが輝明はそんな彼女の言葉を肯定する様に頷いた。

「へっ?ちょっ…」

「おいおい、見た目通りチキンすぎだろ」

 輝明の行動が心底腰抜けに見えた龍介すけは馬鹿にする様にケラケラと笑っていたが涼夏の方は寧ろ対戦を逃げ出そうとしている姿勢に呆れではなく怒りを募らせた。

 何で今回に限ってそんな思いっきり逃げ腰なのよ!いつもはもっと平然と眼中にすらないって感じだったくせに!

「っ!い、いいから勝負しなさい!苦手とかなら尚更練習しないといつまでたっても下手なままでしょうが!?ほら、とっと準備する!」」

 涼夏が強引にまくし立てて輝明も渋々といった感じでバットを持って打席に立った。

「せめてバットにくらいは当ててくれよ?」

 龍介は小馬鹿にするように輝明を煽るが当の本人はチラッと見ただけで特にこれといった反応を示すことなく前の方に向き直った。

(けっ!だんまりかよ)

 そんなこんなで涼夏が投手で輝明が打者として初の対決となった。しかし結果はなにも起こらず輝明の三球三振で終わった。

「ちょ、ちょっと!何でなにもしないのよ?」

(あれ?何で怒っているんだろう?僕が負けて前沢さんが勝ったのに…)

「これじゃ本当にカカシだな」

 再びケラケラと輝明を馬鹿にする龍介と違って涼夏の感情は怒りに満ちていた。普段であれば今まで負け越していたの相手に三球三振《完全勝利》した事で嬉々としてガッツポーズしている挑発交じりの台詞の一つでも口にしているところだが今回は勝手が違った。

 涼夏は勝手ながら輝明を上手いプレイヤーだと思い込んでいた。低身長というハンデこそ抱えているものの一つ上の先輩に当たる剣崎の様ななんでもこなせる様なオールラウンダーの様な存在なのだろうと。

 当然彼の全てを知る由もない涼夏のその評価は勝手なものにすぎないが、最初の対戦で圧倒的な制球力を見せつけられてから同じ投手として輝明にライバル意識を燃やして観察したり練習で事ある毎に張り合うようになった。そしてその過程で基礎体力なのどのスペックの高さを見せつけられてきた事と他者には独特な感じから涼夏は赤坂輝明にそういったイメージを抱かせていた。

 先程も言った通り全てのプレイを見ていない以上そのイメージ自体は彼女の勝手な想像にすぎないが、目の前で三振を奪っても『な~んだ、こんなもんだったのか』といった感じで肩透かしを食らって落胆出来ない理由があった。それは彼が、赤坂輝明が真剣に勝負しているように見えなかった事。

「もう一回!今度はちゃんとバット振りなさいよ!」

 これまでも一方的に吹っ掛けた勝負でこちらを見ていないような事は多々あったけど、その時は私の事を特に気にする事もなく彼が自分のペースで無言で私を追い越して行っていた。競い合っていたと言えるか微妙だが少なくとも練習に手を抜いている様子はなかった。しかし今回はそもそも私を避けているようにすら感じる。

 前向きに捉えるのであればそれは赤坂が私の存在を認識するようになり意識しだしたという事。それはそれで嬉しい事と言えなくない。けど…三振を奪った勝った筈なのにまるでそんな気になれない。それは単に目の前の人物が全く私を相手にしようとしていないから。それは涼夏《私》にとって敗北よりも許せない事だ。

「今度は絶対打ちなさいよね!」

「投手が直接対峙する打者に応援《エール》って…くっくっく。ここまでくると笑いが止まらねえな」

 こうして再度勝負する事となったが今度は全てに手を出したもののかすることなく空振り三振。その後も何度か輝明を打席に立たせて勝負したが結果は変わらず輝明は一球もかすることなく負け続ける結果となった。しかしその頃から今までにない彼の異変から涼夏にの心にモヤモヤとしてなんとも言えない感情が渦巻くようになった。


 ☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆


「お前が言ってた通り転がせばなんか起きるかもしれないけど、そもそもあいつがバットにボールを当ててくれないと何も起きないから話にならない…」

 ”カキィー―ン”

 龍介の言葉はその日一番の快音を響かせた打球音に遮られた。高く上がった打球は綺麗な放物線を描いて反対側の数メートル高い位置のネットにまで到達し、ホームランとなった。

「「「………」」」

 本来であれば野球というゲームの中で一番盛り上がる瞬間と言って過言ではないホームラン。しかしこの時は誰もこんな事になるとは思っていなかったのもあって盛り上がることすら出来ない程驚きで一杯だった。練習でまともにバットにボール当てたところすら見た事の無かった涼夏や龍介ら新入生は勿論、助っ人としている田辺や百田、先生ですら輝明が低身長だった事もありそんな打球を飛ばせると思っていなかったので衝撃的で、彼の打順が9番に位置していたのも打撃力の低さを思わせていたのもあって余計驚きに拍車を掛けていた。

 そして輝明がグラウンドのダイヤモンドを回る中で誰一人声を出せず、彼がベンチへと戻って皆ようやく我に返ったが衝撃でしばらく声が出なかった。その後のバッターは討ち取られたものの、この回中学生チームは輝明のツーランホームランを含め一挙3得点を挙げ、同点へと追いついたのだった。

しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

切り札の男

古野ジョン
青春
野球への未練から、毎日のようにバッティングセンターに通う高校一年生の久保雄大。 ある日、野球部のマネージャーだという滝川まなに野球部に入るよう頼まれる。 理由を聞くと、「三年の兄をプロ野球選手にするため、少しでも大会で勝ち上がりたい」のだという。 そんな簡単にプロ野球に入れるわけがない。そう思った久保は、つい彼女と口論してしまう。 その結果、「兄の球を打ってみろ」とけしかけられてしまった。 彼はその挑発に乗ってしまうが…… 小説家になろう・カクヨム・ハーメルンにも掲載しています。

百合系サキュバスにモテてしまっていると言う話

釧路太郎
キャラ文芸
名門零楼館高校はもともと女子高であったのだが、様々な要因で共学になって数年が経つ。 文武両道を掲げる零楼館高校はスポーツ分野だけではなく進学実績も全国レベルで見ても上位に食い込んでいるのであった。 そんな零楼館高校の歴史において今まで誰一人として選ばれたことのない“特別指名推薦”に選ばれたのが工藤珠希なのである。 工藤珠希は身長こそ平均を超えていたが、運動や学力はいたって平均クラスであり性格の良さはあるものの特筆すべき才能も無いように見られていた。 むしろ、彼女の幼馴染である工藤太郎は様々な部活の助っ人として活躍し、中学生でありながら様々な競技のプロ団体からスカウトが来るほどであった。更に、学力面においても優秀であり国内のみならず海外への進学も不可能ではないと言われるほどであった。 “特別指名推薦”の話が学校に来た時は誰もが相手を間違えているのではないかと疑ったほどであったが、零楼館高校関係者は工藤珠希で間違いないという。 工藤珠希と工藤太郎は血縁関係はなく、複雑な家庭環境であった工藤太郎が幼いころに両親を亡くしたこともあって彼は工藤家の養子として迎えられていた。 兄妹同然に育った二人ではあったが、お互いが相手の事を守ろうとする良き関係であり、恋人ではないがそれ以上に信頼しあっている。二人の関係性は苗字が同じという事もあって夫婦と揶揄されることも多々あったのだ。 工藤太郎は県外にあるスポーツ名門校からの推薦も来ていてほぼ内定していたのだが、工藤珠希が零楼館高校に入学することを決めたことを受けて彼も零楼館高校を受験することとなった。 スポーツ分野でも名をはせている零楼館高校に工藤太郎が入学すること自体は何の違和感もないのだが、本来入学する予定であった高校関係者は落胆の声をあげていたのだ。だが、彼の出自も相まって彼の意志を否定する者は誰もいなかったのである。 二人が入学する零楼館高校には外に出ていない秘密があるのだ。 零楼館高校に通う生徒のみならず、教員職員運営者の多くがサキュバスでありそのサキュバスも一般的に知られているサキュバスと違い女性を対象とした変異種なのである。 かつては“秘密の花園”と呼ばれた零楼館女子高等学校もそういった意味を持っていたのだった。 ちなみに、工藤珠希は工藤太郎の事を好きなのだが、それは誰にも言えない秘密なのである。 この作品は「小説家になろう」「カクヨム」「ノベルアッププラス」「ノベルバ」「ノベルピア」にも掲載しております。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

彗星と遭う

皆川大輔
青春
【✨青春カテゴリ最高4位✨】 中学野球世界大会で〝世界一〟という称号を手にした。 その時、投手だった空野彗は中学生ながら152キロを記録し、怪物と呼ばれた。 その時、捕手だった武山一星は全試合でマスクを被ってリードを、打っては四番とマルチの才能を発揮し、天才と呼ばれた。 突出した実力を持っていながら世界一という実績をも手に入れた二人は、瞬く間にお茶の間を賑わせる存在となった。 もちろん、新しいスターを常に欲している強豪校がその卵たる二人を放っておく訳もなく。 二人の元には、多数の高校からオファーが届いた――しかし二人が選んだのは、地元埼玉の県立高校、彩星高校だった。 部員数は70名弱だが、その実は三年連続一回戦負けの弱小校一歩手前な崖っぷち中堅高校。 怪物は、ある困難を乗り越えるためにその高校へ。 天才は、ある理由で野球を諦めるためにその高校へ入学した。 各々の別の意思を持って選んだ高校で、本来会うはずのなかった運命が交差する。 衝突もしながら協力もし、共に高校野球の頂へ挑む二人。 圧倒的な実績と衝撃的な結果で、二人は〝彗星バッテリー〟と呼ばれるようになり、高校野球だけではなく野球界を賑わせることとなる。 彗星――怪しげな尾と共に現れるそれは、ある人には願いを叶える吉兆となり、ある人には夢を奪う凶兆となる。 この物語は、そんな彗星と呼ばれた二人の少年と、人を惑わす光と遭ってしまった人達の物語。        ☆ 第一部表紙絵制作者様→紫苑*Shion様《https://pixiv.net/users/43889070》 第二部表紙絵制作者様→和輝こころ様《https://twitter.com/honeybanana1》 第三部表紙絵制作者様→NYAZU様《https://skima.jp/profile?id=156412》 登場人物集です→https://jiechuandazhu.webnode.jp/%e5%bd%97%e6%98%9f%e3%81%a8%e9%81%ad%e3%81%86%e3%80%90%e7%99%bb%e5%a0%b4%e4%ba%ba%e7%89%a9%e3%80%91/

「南風の頃に」~ノダケンとその仲間達~

kitamitio
青春
合格するはずのなかった札幌の超難関高に入学してしまった野球少年の野田賢治は、野球部員たちの執拗な勧誘を逃れ陸上部に入部する。北海道の海沿いの田舎町で育った彼は仲間たちの優秀さに引け目を感じる生活を送っていたが、長年続けて来た野球との違いに戸惑いながらも陸上競技にのめりこんでいく。「自主自律」を校訓とする私服の学校に敢えて詰襟の学生服を着ていくことで自分自身の存在を主張しようとしていた野田賢治。それでも新しい仲間が広がっていく中で少しずつ変わっていくものがあった。そして、隠していた野田賢治自身の過去について少しずつ知らされていく……。

浦島子(うらしまこ)

wawabubu
青春
大阪の淀川べりで、女の人が暴漢に襲われそうになっていることを助けたことから、いい関係に。

処理中です...