プレッシャァー 〜農高校球児の成り上がり〜

三日月コウヤ

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第33話 私が出る!(1回裏~2回裏)

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――――――――――――――――――
高校生|3|
中学生|
試合状況:初回3失点の後、打者二人を打ち取って一回の表終了


「スリーアウト!チェンジ!」

「………」

 ”バチーン!!”

「痛っ~!」

 攻守交替によって戻って来たベンチに龍介が腰掛けようとするとその背中を後ろにいた涼夏に思いっきり引っぱたかれた。

「な、何すんだよ!」

「な~に普通に腰掛けようとしてんのよ。その前にやるべき事があんでしょうが」

「?」

「っ、たく」

 まったく理解していない龍介彼女のハリ手が再び炸裂する。

「っ~、調子に乗ってポンポン叩いてんじゃねーよ!こっちは何のことだかわかんねーよ」

「謝罪よ謝罪」

「はあ?何でそんな事…」

「………」

「おい!無言で右手振り上げんの止めろ!さっきお前に叩かれてんだからチャラだろ!?チャラ!!」

「謝罪が必要な相手があたし以外にいるんじゃない?ちゃんと向き合えなかった誰かが」

 そう言いながら涼夏の向けた先にいる輝明を見て嫌でも彼女の訴える意味が理解できた。

「………」

「なにか言わないといけないことがあるはずよ。ほら、さっさと行ってきなさい」

「…わかったよ」

(つってもよう、こういう時何て言えばいいだ?)

「な、なあ、さっきの回だけど、その…俺も悪かったっていうか………」

 ぎこちないながらも自分の気持ちを言葉にして謝ろうとしていた龍介だったが、話しかけている最中にある事に気付いた彼は驚きのあまり呆然と立ち尽くしてしまった。

「なに鳩が豆鉄砲を食ったように固まってんのよ」

 そう言って近づいてくる涼夏に半分固まったような状態の龍介は輝明方を指差し、それにつられ彼女もそちらの方に視線を向けると彼が呆気にとられた理由が理解できた。

「…なあ、俺にはまるでこいつが寝てるみたいに目つぶって脱力しているように見えるんだが気のせいか?」

「…いや、私の方から見てもそんな風に感じれるんだけど」

「兄貴や先輩らも大概だけど、身内同士とはいえ試合でここまで、その…マイペースな奴初めて見たんだけど」

「アウト!スリーアウト!チェンジ!」

 ”パチッ”

 二人が彼の奇行に近い行動に気を取られていると攻守交代の号令がかかった瞬間に輝明は目を開け立ち上がりマウンドへと歩いて行った。

「…謝んのはまた今度でいいよな」

「…そうね。また後でいいわよね」

 そう言ってそれぞれの守備位置に移動しようとしている最中にある事を思い出した涼夏が龍介を呼び止めた。

「ああ、そうだ龍介。わかりづらいだろうけど今度あいつと話す時にはもう少し返事を待ったり、理解する努力しなさいよ。あんた一応女房役なんだからさ」

「…努力する」

 そんなこんなで迎えた2回の表はランナーを出すことなもく3人で片づけ攻守交替《チェンジ》となった。

「どう思う?」

「何が?」

「…まあいいわ、それよりこの回大事よ。相手の攻撃をテンポ良く3人で終わらせられたのはいいけど、こっちも前の回の攻撃が気付いたらあっさり終わってたし」

 涼夏はシニア組男子3人へと軽く冷ややかな視線を送り、彼らは気まづさから一斉に顔を晒した。

「そのテンポのままでまたこっちがサクッと終わるわけにはいかないわ!その為にも先頭打者のあんたが重要になってくるんだからね。しっかり出なさいよ、」

「当たり前だろ。さっさとでかいの打ってくるから黙って準備してまってろ!」

(一発打ってこれまでの事を挽回してやる!)

 ”カキ―ン”

「アウト!」

「初球打ち上げって…積極的なのはいいけど気負い過ぎよ。打てないなら打てないでせめてもうちょっと粘りなさいよね。情けない」

「お前が煽るからつい気が早ったんだよ」

「はあぁ、少しは調子戻ってマシになったかと思ったけどまだ駄目みたいね。或い元々がダメなのか」

「んだと!」

「そうね、愚弟に期待した私が悪かったわ。あんたのケツは拭いてあげるわよ」

「うるせー!女が平気でケツとか言うな。次だ次」

 さ~てと、私も愚弟をからかい続けてる場合じゃないわね、切り替えないと。冗談抜きに嫌な流れになりつつあるわね。

 初回を3人で締められ、山場となる先頭打者の4番との対決を僅か一球で決着を付けてアウトカウントを増やした。投手目線としては肩の力がある程度抜けてかなり楽になった筈。

 まだ序盤とはいえこのままあっさり打ち取られ続けると完全にあっちに流れを持っていかれる。そうさせない為にもまず私がなんとしても出る!

「お願いします」

「プレイ」

(ピッチャーは剣崎先輩。元々は外野手だった筈だけどチーム事情からピッチャーに抜擢されたんだったわね)

 ”パァン” 

「ストライーク!」

 最後の秋の試合でスタンドから見た時は球速120㎞前後ぐらいだったけど今の感じだと同じか少し劣るかくらいかしら?初回上々の立ち上がりだった割にはまだ肩が出来上がってないのかも。けど…

 ”パァン”

「ストライーク、ツー!」

 ストライク先行だし、去年よりコントロール良くなってる感じあるわね。身内同士の試合とはいえ登板間隔かなり開いていたでしょうに調整してきてる。本職じゃないのに本当に器用で頼りになる先輩よね。それに引き換えウチの兄貴は…はぁ

 ベンチの方へと呆れ気味視線を送るとそれに気付いた自由が声を掛けてくる。

「ん?どうした、こっちをジッと見て」

「何でもないわよ!」

 兄貴は相変わらずマウンドだと真ん中以外制球定まんないもんね。ピッチャーは本職じゃないからコントロールが悪いのは仕方ないといえば仕方ないけど、キャッチャーでの送球は完璧なのに何でマウンドではああも悪いのか。

 せめて剣崎先輩の半分くらいのコントロールがあればチームとしても使いやすいとは思うんだけど…今は置いとこう)

 ”カーン”

「ファール!」

「ふぅ」

 よし、ちゃんと付いていける。しゃくだけど赤坂のおかげで受験なまりは完全に無くなってるし球も見える。さて、球種は確かストレート、スライダー、チャンジアップの3つだったわね。ストレートを狙えないこともないけど、この後の事も考えるなら確かめる意味でも狙ならあまりキレが良くなかったスライダーか、高めに浮き気味だったチャンジアップの方が確実

 ”シュッ”

(来た、スライダー!)

 ”カキ―ン”

 涼夏の打った打球は三塁線ギリギリ通過して長打コースとなり2塁打となった。
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