プレッシャァー 〜農高校球児の成り上がり〜

三日月コウヤ

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第26話 シニア組集合(前編)

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 涼夏が入寮してから三日が経過した頃に涼夏の元いたシニアチームの数名が学生寮の門を潜った。これより今年の春に入学の決まっている中で輝明、涼夏含む早期入寮予定の6名全てが入寮したのだった。

 そしてその6名は部屋への荷下ろしが終わった後、食堂へと集められていた。

「まだ一年生全員が揃っているわけではないがとりあえず早期に入寮してくれた君たちにお世辞にも強豪とはいえないうちを選んでくれた事に感謝を述べたい、ありがとう。俺は野球部主将の鬼頭だ、よろしく。そして君たちもよく知っているとは思うが俺の両隣に…あ~、右隣にいるのが副主将の剣崎だ。頼りになる先輩なのでドンドン頼ってやってくれ」

「さらっとプレッシャーを押し付けるのやめてくだいよ」

「お前なら大丈夫だろ。それでうちの高校についてだが…」

「ちょいちょいちょい!」

 鬼頭が自分らの自己紹介を簡単に終えて話を次に進めようとしていると左隣の人物から邪魔が入り、鬼頭の予想していた展開すぎて新入生の前にも拘わらず思わず溜息が出た。

「…なんだ」

「俺、俺の初回は!?何で同じ副主将なのに伸介は紹介して俺だけ紹介無しなんですか?」

「そんなもんシンプルに紹介したくなかったからに決まってるだろう」

「酷い!」

「ああ、駄々をこねるめんどくさいのがうるさいので一応伝えておくがこれがもう一人の副主将の前沢自由。以上だ」

「それだけですか!もっとなんかあるでしょう?伸介みたいに頼りになる先輩とかなんとか」

(((前沢先輩、ここのところは全然変わってないな)))

 シニア組って基本お前の元居たチーム古巣なんだから今更説明なんか必要ないだろうに。

「仕方ないので簡潔に説明すると剣崎とは正反対のお手本にしてはいけない反面教師のような存在だ。なので決して『前沢先輩みたいになりたい!』とは思わないように」

(((大丈夫です。基本的にそういう風には思いませんから)))

(((あの奇行を知ってる連中ならそういう牽制はしなくても大丈夫だと理解してるだろうけど駄々をこねられた仕返しと一応で釘を刺したってところだろうな)))

(え、そうなの?確かに少し変わっているところはあると思うけど頼りになる先輩だと思うけど)

 ほとんどの者が同じように思いながらも輝明だけは違う感想を抱いていた。

「さて、話を少し戻すがうちは農業高校という少し特殊な学校だ。それ故に他の学校とは少し違う部分が存在する。学校内の畑や農場なんかでの実習が主だが、その中でのルールというか罰について少し早いがいい機会なので説明しておこうと思う」

「例えば農業科だと収穫のトマトやキュウリなんかの収穫物を誤って傷つけて売り物にならなくしてしまったらその分を罰当番として放課後とかで先生の手伝いをしてもらうみたいな事をやらなちゃいけなくなるみたな感じかな。罰当番の内容や期間は時期や学科によって様々だけどよっぽどのやらかしとかでない限り大抵一日、二日で終わるから心配しなくていいよ」

「そう、…」

 ゆったりながら怒りを確かに感じられる鬼頭の声とギロリと睨み込んで来る視線に自由はびくりと体を震わせた。

「何故まだ入学すらしていなこの時期の自分たちにこんな話をするのだろうと疑問に思った者もいるだろう。それはここに立っている今度二年生になり君たちの先輩となる男がそのをやらかしてしまったからだ」

 直接的に誰なのかは明言しなかったが彼の向けている視線からそれが誰なのかは一目瞭然だった。

「具体的に何をやからしたんですか」

「端的に言うと張り切り過ぎた結果一箱分野菜を駄目にした」

「なにやからしてすか先輩」

「その結果三日間罰当番を行う羽目になってしまったという訳だ」

「うげ、何やってんだ兄貴」

「あれ、でも三日だけですか?通常の一、二日とあまり違わないような気がするんですけど」

「そうだな。説明不足だったので少し補足をするとしよう。さっきも言った通り通常の罰当番は放課後に精々二時間程度行うだけなのだがこの時期は学校が半日で終わる関係上罰当番は午後の頭から行える」

「つまり五、六時間ぐらいの罰当番を三日連続ということだね」

「「「うわ~」」」

「しかも学校が半日で終われる時期というのは片付けなどを除いた長時間の練習時間を確保して集中して鍛えられる期間とも言える。そんな時期に…いや、そんな時期でなくとも練習時間を潰されて登板させれる事を望む者はいなだろう?」

 その問いに対して当然皆一斉に頷いた。

「まあ学校への奉仕やボランティア精神にとんでいていて進んで行いたいという者がいるのであれば止めはしないが…」

 鬼頭のその言葉にこれまた一堂に皆首を横に振った。

「まあ、君たちには縁のない話だと思うが練習時間を削られたくないのならこのお馬鹿な先輩のようなミスをやらかさないよう心掛けてほしい」

「はは、由自新入生の前で怒られてやんの。だっさ」

「日頃の行いがでちったね」

「大丈夫だ前沢、お前が罰当番するのなんていつもの事なんだから気にすんな」

「………ついでに、今あそこで他人事のように笑っている二年の二人。それと一番左の三年もつい最近罰当番くらった馬鹿なのであれも悪い先輩の代表格だと思ってくれ」

「しかもその理由が先生が見てない間にトマト食いまくってバレるとかいう下らない理由での罰当番だからアレらは本当に見習わないように気を付けてほしい」

「………」

「ではもうすぐ昼食なので軽く雑談でもして待っていてくれ」

 そういうと鬼頭含む数人は厨房の方へ昼食の準備をしに歩いった。そしてそれと入れ替わるように意気消沈した自由が若干涙目になりがならまるで特等席に座るかのように輝明の隣まで来て椅子に腰かけた。

「うう、俺はそんなに頼りない人間だったのか」

(((まだ気にしてたのか)))

(ええっと、ええっと…あ、そうだ)

 見かねた輝明は『自分は頼りになる先輩だと思っています』書いたメモを手渡した。すると憑き物が取れたかのようにすぐにいつもの調子に戻るのだった。
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