プレッシャァー 〜農高校球児の成り上がり〜

三日月コウヤ

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第22話 変な奴

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 ~学生寮食堂~

「………」

「どうしたんだ涼夏?せっかく久しぶりに兄妹で食卓を囲んでいるのにジッと見つめて」

「………」

「ああそうか、久しぶりすぎて緊張してんだな」

「………」

「ええっと…」

「………」

「私が悪かったですから無言の圧を飛ばし続けながらその目で見るのはやめてください」

「最初っからそうやって素直に謝ればいいのよ」

「だってなんかカッコ悪いといいますか、兄としての面子が立たないといいますか」

「これまでの流れでよくそんな言葉が出て来るわね。それにそいうの気にしてたっけ?それと兄貴がかっこつかないのなんて今更でしょう。妹の私から見ても庇いきれないレベルで球場外は勿論、球場内でも馬鹿でノーコンで時折素人ばりのスカをやらかすんだから」

「そ、そこまで言うほど酷くないんじゃないか?なあ、新助?」

「そうだねちょっとお馬鹿でちょっと問題行動が多くてちょっと他者への迷惑けける頻度が多いってだけだからね。そういう意味ではある意味涼夏の発言は言い過ぎと取れるのかもしれないね」

「紳助の方が酷い事いってるんですけど!?せ、せっかく一緒に食べるんだからもっと別の話をしようよ!そうだ、隆介は一緒じゃなかったのか?」

「…本当に抜けてるというか私の話聞いてなかったんだね。隆介らは入寮にあたっての準備とかがまだ完了してないから二日後になるって電話でもラインでもしたんですけど?」

「そうだったな~、あはははは」

「ったく。というかいないと言えば反対側の机って女子ソフトのだよね?昼食時間なのに姿が無いけどもしかして時間別々なの?」

「いや、今日は練習試合で出てるんだよ。涼夏ちゃんが寮に来るより結構前に出たから見かける機会が無かったんだろうね」

「今日の相手は強豪からの招待試合みたいだから気合い入ってたもんな」

「へ~、うちの学校の女子ソフ全国屈指でしたもんね。そりゃいくらでもお誘いはあるでしょうね。で、野球部の方は午後練どうするの?」

「まずランニングしてからバッティング練習と守備練かな?」

「うちの学校のマシン―ンって何㎞ぐらい出るの?」

「え?うちの学校にバッティングマシーンなんていう豪華な機材は存在しないが?」

「…冗談だよね?中学ですら大抵の学校に1、2台はあったと思うんだけど?」

「残念ながらうちの学校は野球部に全く力入れてないからね。去年はサッカー部とかの方が校庭使える時間長かったし、バクネットとか無かったしね」

「マジですか…」

「まあ野球部って道具にお金かかるからね。サッカーとかバスケとバレーとかは場所が限定されるけどゴールとかネットさえあってボールが複数あれば成立するけど野球の場合は…」

「ボール、バット、グラブ。最低でもこの3つと大きな逆三角形範囲が使用可能なグラウンドが無いと野球出来ないからな」

「それにキャチャーは他とは別のグローブミット使用しなきゃだし、安全面を考慮すると当然ヘルメット、プロテクター、レガース等は不可欠。レベルを上げるとさっき言ったバッティングマーシンにネット、ゲージ。ポジション毎に必要な練習道具」

「改めて考えるとかなり数があるわね」

「それに加えてグラウンドにはバックネットとかな!あれも相当お金と手間がかかるだろうし、暗くなった時の為の照明とかも。さらに本格的なとこだと専用グラウンドでちゃんとしたベンチとかもあるだろうし、屋内練習場とか屋根付きのブルペンとかも…いや~本当にキリがないな」

「少し聞くのが怖いんですけどうちの学校ってどれくらい機材不足してるんですか?」

「ギリギリよりかちょい上くらい、かな?」

「照明と毎日使える専用グラウンドとピッチングマシーン以外は揃ってると思うぞ」

「良かった…のかな?けどそれって練習は…」

「うん、場所とか時間とかが限られてるから結構厳しいね。素振りは何処でも出来るからいいけどノック練習とかはグラウンド使えないと厳しいからね。特に外野はどうしても一定以上の範囲がないと練習になんないし」

「そ、そうですか」

(想定してたより結構不味そう)

「まあこれでもマシになった方だけどね。去年、誰かさんが暴投の連発と飛距離を飛ばし過ぎて危険視されたお陰でネットやらフェンスやらはなんとかなったから」

「そう褒められると照れるな」

「前者の方は褒めてないからな?君のコントロールが酷過ぎるから投球毎に校舎の方にまでボールが飛んでいって腹いせでわざとやっているんじゃないかって疑われたり散々注意されたの忘れちゃったのかな?」

「………ああ、忘れた!」

「開き直りやがったな」

(兄貴のこういうところ本当に変わってないわな。にしても…)

 実の兄の現状に呆れつつ、目の前に座っている照明の方に視線を移す。

(こいつ、全然喋らないわね)

「あのさ兄貴。こいつ、いつもあんな感じなの?」

「ん?ああ、輝明の事か。うん、まあ大体こんな感じだな」

 自由が答えた直後、隣の見知った知り合いがニヤニヤと気持ち悪い笑みを浮かべて話しかけてきた。

「なんだなんだ、今まで野球一筋で男勝りだった涼夏ちゃんも高校生というステージに上がってようやく…『ゲシィ』痛ったあぁ――!!」

「次変な事言ったら思いっきり殴りますからね」

「それより酷い事してるじゃねーか!」

「今のお前が悪い。聞き方も存在も気持ち悪かったからな」

「ついで感覚で存在もかよ!」

「輝明はいつもあんな感じで特別喋ったりとかしないぞ。というより喋れないんだろう。うん、間違いない」

「間違いないって、断言しすぎでしょう」

「…だって、まだ短い間とは仮にも一緒に寝食を共にしてる俺らには無言なのに他の生徒だと普通に喋れたらショックでしかないんだもん」

「超私的な理由ね」

「それに実際声を聞いたことがないから嘘は言ってない!」

「はあ~そうですか。ん?」

 視線を輝明の方へ戻すとその姿に違和感を覚え、ある事に気付いた

「ねえ、あいつって左利きなの?」

「ん?ああ、そうだぞ」

「へ~そうなんだ」

(珍しくはある。けど、あの身長だとあんま関係ないか)

 そのまま涼夏らは会話しながら食事を続けた。
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