プレッシャァー 〜農高校球児の成り上がり〜

三日月コウヤ

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第21話 無言の出会い

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「ところで伸介はこんな所で何やってたんだ?」

(この流れで説明しないといけないの?)

「ちょっと女子寮の方に…」

『荷物を運んでいた』と言い切る前に焦った表情の自由によって遮られた。

「何やってんだよ伸介!よりによって女子寮に無断で侵入しようとするなんて!」

「いや、違っ…」

「もし先生に見つかったら大変なの知ってるだろう?前も先輩の一人が女子寮の方に侵入しようとして見つかってエライ目に遭ったのを」

(なにやってんのここの先輩…)

「まさかあの伸介まで劣情に負けて犯罪に身を染めてしまうなんて」

「うん、盛大な勘違いで人を犯罪者扱いするのはそろそろやめてもらおうか。それに自由の言うその見つかっちゃった先輩の名誉の為に言うけどあの先輩は決してそういう理由で女子寮に行こうとしたわけじゃないからね」

「あれ?そうだったけ」

「そうだよ。まあどっちにしても褒められた理由ではなかったけど」

「そうか、良かった良かった…ん?じゃあ何しに女子寮に行ってたんだ?」

「…それは言わないと駄目なの?というかここまでくればもうわかるでしょう?」

「すまん、わからん」

 平気な顔してそう言ってのけた兄貴にとうとう堪忍袋の尾が切れた私はその無駄に大きな背中めがけて思いっきり引っ叩いた。

「いっーー!!な、なにすんだ涼夏!」

「なにすんだ!じゃないわよこの大馬鹿!あれだけ必ず来るとか言ってといて当日にすっぽかして苦労してたとことに見かねて先輩が手伝ってくれたのよ!」

「………あ、あ~そういわけだったのね。あははははは」

 バツの悪そうな表情を浮かべたまま苦笑いする兄貴に私は冷ややかな視線を送った。

「そ、そういえば~そろそろ飯の時間じゃないか?急いで食堂に向かわねば!」

「いや、まだ後30分くらい余裕であるんだけど」

「少しでも早く良い席を確保せねばならないからな。さらばぁ!」

「妹相手とはいえ入寮したばかりの後輩の前で堂々と廊下を走るという規則破りの醜態を晒す先輩《お馬鹿》。俺が言うのも変だけどごめんね」

「いえ、私の方こそあの毎度厄介事を持ち込むような兄貴で申し訳ありま…」

 謝罪をしようとした直後に視界の左端に見知らぬ男の子が現れて突然の事に私は驚き軽い悲鳴を上げて少し後ろに仰け反った。

「「わあっ!」」

(び、びっくりした~。突然視界に入ってきたから心臓飛び出るかと思った。兄貴の体で隠れて見えなかったのね多分)

「あ、一緒だったんだ。変な事されなかった」

 大河は剣崎の方を向いて一度頷いた後に軽く会釈すると涼夏らの方へ向き直った。

「な、何ですか?」

 突然自分の方をジッと見て来たので不審に思いながら問いかけると輝明はゆっくりと腕を上げて涼夏に向かって指差した。彼の意図が理解できなかった涼夏はさらに混乱した。

「本当に何なんなのあんた!」

「あ~多分だけど涼夏ちゃんのいる場所が丁度彼の靴箱なんじゃない?」

「へ?」

 剣崎に指摘されたことで現在自分が寮玄関の靴箱前にいたことを思い出して慌てて退いた。直後大河は靴箱から上履きを取り出して履き替えて靴をしまうと涼夏と彼女の母親に軽く会釈してからその場を去って行った。

「ちょっとびっくりしちゃったけど物静かな子ね」

「そうですね。その点は自由とは正反対です」

(あんな人野球部にいたっけ?あれだけ低身長だと逆に印象に残りそうだけど。秋大の時は脱走してた人かな?それとも冬の間に入った新入部員かな?考えにくいけど)

「あの剣崎先輩、野球部の名前表みたいなのあればいただけませんか?なるべく早く皆さんの名前を把握しておきたいので。それと今の先輩なんというお名前ですか?」

「ああそれなら後で学年別のやつを一覧にして書いて渡すよ。それと彼は先輩じゃなくて涼夏ちゃんと同じ春からの新入生だよ?」

「へ~、そうなんですか………ん?春からの新入生?ってことは、私と同級生ってことですか!?」

「うん、そうだよ。俺もここ数日喪服で昨日の昼頃に寮に戻って来たから会ったのは昨日が初めてだからよく知らないんだけど先週には入寮したみたいだよ?」

「先週!?早すぎませんか?私卒業式が昨日終わった翌日での入寮予定にしてたから一番だと思っていたんですけど」

「多分学校側の都合で他の中学より早かったんじゃない?ここ最近だと例のウイルスの影響で卒業の時期が早いとこもあるって聞くし」

「は、はあ。そうですか」

(にしてもあれが同級生…こんな入学前の早い時期わざわざ入寮してくるってことはやる気がある、のかな?けど…なんだかな~)

 対面して感じたとっつきづらさのようなものと背丈故遠くなっていくその小さな背中が引っかかり、面倒な兄&先輩らに加えてアレとこれから三年間やっていかないといけないのかと思いまたしても溜息を吐く涼夏だった。
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