プレッシャァー 〜農高校球児の成り上がり〜

三日月コウヤ

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第20話 前沢涼夏

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 赤坂輝明が学生寮に入寮してからはや一週間以上経過した頃、また学生寮に新たな学生がまた一人訪れていた。

「あんまり荷物にならないように減らしてきたつもりだったけど思ったより結構量があったな」

 私こと前沢涼夏《まえさわりょうか》はこれから高校での寮生活に必要な荷物を運んでいた。

「そうね~、でもユウちゃんの時に比べたら大分少なかったと思うわ」

 このおっとりした感じの美人な女性は私のママ、前沢遥(まえざわはるか)。寮までの移動と荷下ろしを手伝ってくれた。そして手伝ってくれた人はもう一人。

「ごめんね剣君、わざわざ涼夏の荷物運びを手伝わせちゃって」

「本当にお手間をかけてすみません先輩」

「いえいえ、可愛い後輩の為ですから」

 この好青年を絵に描いた様な人がこれまで学校校生活及びこれからの高校生活でも先輩となる剣崎伸介先輩。シニアでも同じでぶっちゃ実の兄よりもなにかと頼りなる自慢の先輩だ。

「イヤだもう可愛い後輩だなんて。照れちゃうわ」

「何でママが照れてるの?それにきっと先輩そういう意味で言ってるわけじゃないからね?」

「はははは、相変わらず愉快なお母さんだね」

 母とのこういったやり取りもそうだか私は疲れ以上に湧き上がるイライラが顔に出ないよう抑えていた。その原因は…

「それにしてもユウちゃんったら、久しぶりに顔を見れると思ったのに。今日から入寮するって涼夏の方からも伝えていたなよね?」

 ママからの問いに私は素早く頷いた。そう、私が内心イライラしている原因の一つ。それは私の実のバカ兄、前沢自由(まえさわじゆう)がここにいない事である。

「先週電話でも話したし、昨日もライン送ったんだけね。けど何故か数日前から既読にならなくて見てないっぽいんだよね。まったく」

 そう、実の兄が何故か指定した時間に寮におらず、何故か兄でない先輩が手伝ってくれているというこの状況。しかも散々『入寮の日は手伝ってやるから必ず伝えろよ!』とかうるさく言っていたクセにこの有様である。

 この発言によって持っていくか迷っていた野球道具なんかをいくつか持っていく事を決めていたのだが、それらを運んでくれる予定だった人物はスッポかしてまい、結局兄抜きで多くなってしまった荷物を運び出す羽目になった。

 そのせいで入寮初日早々に私のストレス値はかなり高まってしまっていた。

「きっとまたなにか変な事にハマって夢中になってんだよ。バカ兄そういうとこあるから」

「あんまりそういう言い方したらダメよりょうちゃん」

「はいはい。って、あれもしかして自由兄?誰かと一緒みたいだけど」

 今更になって現れてどう文句を言ってやろうかと考えているとこちらに気付いたバカ兄は駆け寄って来た。

「あれ、伸介が帰って来るのって今日だっけ?」

「ああ、昨日用事が済んだから今朝帰ってきたとこ」

「へ~じゃあ母さんが寮まで送ってきてくれたんだ。しかも涼夏までわざわざ着いて来るなんて。なんか贅沢な見送りだな」

「………」

 ただでさえイライラしていたところに開口一番に人の血糖値をこれでもかと上昇させる発言を平然とする兄を今すぐしばき倒したい衝動に駆られるも母や先輩、そして寮のまん前ということもあってぐっと堪えた。

 そしてそんな私の気持ちを察した剣崎先輩がバカ兄の言葉を否定した。

「違うよ。俺は自分で歩いて寮まで来たし、涼夏ちゃん達は俺より少し後になってから来たんだよ」

「へ?じゃあ何で涼夏と母さんはわざわざ寮まで来たんだ?なんか持ってきてくれるように頼んでたっけ?」

(こんのアホわ~!)

「何でってユウちゃんリョウちゃんが今日の事を連絡したみたいなんだけど覚えてないの?」

「えっ?」

「やっぱり忘れてやがるよこのバカちん!」

 ママの問いかけに兄は鳩が豆鉄砲食らった たかのようなマヌケな表情を浮かべる。

 はいはい、わかっていましたよ。やっぱり忘れていやがったんですねこのバカ兄は。はあぁ、仕方ない馬鹿だもん。大馬鹿だもんね、うん。

 私はなんとか自分で自分を納得させて自らで溜飲を下げた。しかしやはり自身の内側だけでは処理しきれない為、溜まった鬱憤を元凶で目の前の人物にぶつけた。

「あのねぇ~私今日入寮するって先週電話したよね?三日前も昨日もラインで送ってるんですけど?何で全く頭に入っていないのかな?」

「そ、そ~だったんだ。すまんすまん、最近忙しかったりバタバタしててさ、スマホ見てなかったわ。許して」

『そうだったんだ』って、やっぱり本当にこれっぽっちも覚えていやがらないなこのアホは。

「忙しかったって…この間卒業式とか終わってようやく落ち着いたって言ってなかった?」

「ああ、まあ色々あってさ。忙しくなったていうか」

 この高校生お馬鹿選手権でトップを取ってきそうなバカ兄がなどという言葉を使うとまたしても碌でもない事をしてそうな予感がした溜息が漏れる。

「まさかまたやらかして罰登板でもさせられてるんじゃないよな?」

 私と同じく心配そうに聞く剣崎先輩とは対称的に何故か兄は胸を張ってそれを否定する。

「俺が問題なんか起こすわけないだろう?」

 ウザいくらいにドヤ顔をかます兄を私と先輩は無表情で、ママは少し困った様な顔で口をつぐんだ。3人共無言のままだったがそれは兄の主張を肯定しているからではなく呆れ返って言葉が出てこない故の否定を表した静寂だった。

「少なくとも問題を起こしたいないから安心していいぞ!」

(俺は?)

「ああ~そういえば先生が言ってたね。これから涼夏ちゃんの先輩となるというか、なってしまうお馬鹿な先輩一号、二号。それに+して別の野球部員の先輩はなっちゃってるんだっけ?」

「…まさかとは思うのですけどそれって二遊間のお二人を指してたりしますか」

「残念ながらそのまさかだ。今もきっちりお勤めしるらしいよ」

「さいですか」

 入寮して早々に悩みの種が増えたなと涼夏は謎の疲労感から肩を落とし
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